◎ Batuichi end ◎
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「触るな!」 ルーピンの絶叫に近い悲鳴に、シリウスは怯みかけた。 ローブだけ取替え、スネイプと自分がポリジュースで入れ替わった振りをして、近寄って来たルーピンを捕まえた。 考え深い人間は、細かいことに気をとられ、単純なことに引っ掛かる。 スネイプの話を聞いて、思いついたことだったが、成功だった。 ルーピンを連れ、準備室に入り、鍵をかけた。 彼の懐から杖を取り出し、手の届かない棚の上に、自分の物共ほうり投げた。 こうすれは、純粋に腕力勝負になる。 ルーピンが腕力で自分に勝てるはずはない。 あきらめたのか暴れもしないルーピンの足を、床につけたのが失敗だった。 急にルーピンはローブを脱ぎ捨て腕からすり抜けた。 きわどいところでシャツを掴み、逃走は阻止したが、『触るな』と一喝され、身が竦みそうになった。 彼は、今、自分の知っているルーピンじゃない。 だからどんなイタイ事を言われても、気にするなとジェームズは言った。 確かにそうだ、普通じゃない。そして正気じゃない。正気だったら、こんなに髪が白くなるまで動き回るはずがない。 ルーピンの鳶色の髪は、体調が悪くなると、金と銀を混ぜたような光沢を浮かべる。その状態から更に無理をして動くと、髪は白銀色に近い色合いになる。限界の兆候、瀕死の状態だ。 まっしろな髪のルーピンを昔一度だけ見たことがある。 呼吸すら弱々しく、ひたすら眠る彼は、そのまま死んでしまうのではないかと思えた。 不安で不安で、痩せて骨の浮いた彼の手をずっと握っていた。 今のルーピンの髪は、それにどんどん近づきつつある。 金味が抜け、もう銀髪に近い。 「動くな!これ以上体力消耗するな!!」 床に引き倒し、シリウスは怒鳴る。 「放せぇ〜!!セブルス〜!!」 セブルス助けてとルーピンは叫ぶ。 ルーピンに馬乗りになって、両手を押さえつけて、頭の上に上げさせて……一瞬、自分は何かとんでもない間違いを犯している気分にさせられる。 スネイプは皮膚面積の広い所に薬を塗れといった。 背中か、胸部、腹部……。容器のふたを開け、透明なジェルを一掬いし、シリウスはルーピンの首に擦った。 びく、ルーピンが動きを止める。顔を逸らし、目を見開く。肩で激しく息をしながら彼は身を竦ませる。 「何にもしないから、頼むから、暴れないでくれ」 「―」 きっと、ルーピンは自分を睨んだ、憎しみのこもった視線にシリウスは顔を伏せた。 薬を塗る。それ以外のことを考えるな。 自分に言い聞かせ、シリウスはたっぷり掬ったジェルを満遍なく首に塗った。 「何がしたいの?」 押し殺した声でルーピンは言った。 「お前を、元に戻したい」 「元?元ってなに?セブルスが大好きだっていうことに、僕が気づく前ってこと?」 「……」 「シリウス、きみ、僕が好きなんだっけ?」 「……」 シリウスは無言でルーピンを見つめた。 ルーピンはひるむことなくシリウスを睨み返した。 「もしも、君が本当にしたがってること、させてあげたら、僕をセブルスのところに行かせてくれる?」 「な……に?」 「触りたいなら触らせあげるよ……だから―」 「……フ」 くくっと、喉の奥でシリウスは笑った。 「……あんまり、あんまりだよな……」 「……ぇ?」 「まったく、俺も馬鹿にされたもんだ。おい、ルーピン。お前が正気じゃないって分かってても、今の一言は許せないぞ」 シャツを引っ張られボタンが飛ぶ、強引に剥がされ、傷だらけの上半身が露になる。 噛み傷、引っかき傷、うっすらと皮膚の下に白い痕を残し複雑な模様を描く傷痕。腰に馬乗りになられているから、動こうとしても動けない。シリウスはくるっと自分をひっくり返す。不自然な体勢で体を捻られ、かすれた悲鳴が漏れる。 背中を大きく見せるように、腕を頭の上に持っていかれる。 「今のお前にとって、俺はただの痴漢か?愛しいセブルスとの恋路を邪魔する邪魔者か?」 ば、とシリウスが容器を振って、ジェルの塊を背中に落としたのが分かった。 「うっ」 冷たさに、身を竦ませる自分にはお構いなしで、シリウスはわしわしと、薬を塗る。 「いいとも、触ってやる。たっぷり薬塗ってやる。恋薬が消えてもまだ、セブルス、セブルス言えるようなら、その時は好きにしろ!」 「や」 手が、わき腹に伸び、くすぐったくて身をよじるが、シリウスはまったくやめようとしない。 やめてと口にしても、無言で強くこすられる。 再びひっくり返され、腹を晒される。 「……」 無表情のシリウスが再び容器を振る。 べちゃりと、ジェルが胸元に落ちる。 ……。 怒っている。無表情のシリウスの目が物騒な色を湛えている。 怖い……。 そうだ、初めて会ったときから、なんとなく、彼は怒らせてはいけないという予感が働いていた。 なのに、何で自分は怒らせてしまったんだろう……? 節の目立たない長い指、大きな掌が戸惑うことなく胸に当てられ、再び薬を伸ばし始める。 さすがに背中のときとは違って、擦られる力はゆるいが、体の凹凸を無視して擦られ痛い。 首、鎖骨、平らな胸も、アバラの浮いた腹も、へその窪みまでシリウスは、丹念に、丹念に薬を擦り込む。 痛さと、薬の冷たさで、ルーピンは気が遠くなった。 「……っ」 力なく呻くルーピンにシリウスは気が付かなかった。 容器の薬がなくなってもごしごしとシリウスはこすり続けた。 「……」 あんまりな言い草だった。 そりゃ、少しは、かまい過ぎで、行き過ぎたところはあると、自分でも薄々は思っていた。でも、ルーピンにあんなふうに言われるなんて、触らせてやるから、邪魔をするなと、野良犬を追っ払うように言われるなんて……。 ルーピンに、あんなことを言わせる恋薬なんて、消えてなくなれ。 胸の中で叫びながら、シリウスは零れそうな涙をこらえた。 そして、スネイプ、お前をゆるさねぇと続けた。 「いたい」 ふとルーピンが弱々しく呟いた。 「痛い……って、シリウス、何してるの?」 発せられたかみ合わない言葉に、シリウスは動きを止めた。 「……ルーピン?」 「何で、そこにいるの?」 茶色の瞳をまん丸に見開き、ルーピンは自分にまたがるシリウスに、努めて冷静に訊ねた。 「……ルーピン」 腕を放し、シリウスは、ルーピンを抱え起こす。そのままがしっと首に抱きついた。 「ルーピンーーー」 ルーピン、ルーピンと名前を連呼される。 「えーと、何でこうなってるのか……前後、覚えてないんだけど、説明してもらえる?」 ルーピンは言い、混乱する頭で、現状を分析する。 ここは、見慣れない部屋だ。 そして僕は上半身裸だ。体に何か塗られたのか皮膚の感じがとてもいい。しっとり潤っている。 でも、床に倒され、体の上にはシリウスが乗っていた。 両手は頭の上で押さえられていたし、普通に考えればこれは、力づくで暴行されそうになった、ということに、なるんだろうか……? 気のせいか小さくしゃくりあげるシリウス。 ルーピンは抱きついてくるシリウスに苦しいから放すよう言い立ち上がろうとした。 体がとてもふらついている。 知らない間に、相当動き回ったようだ。いつの間にか髪が銀色になっている……。 疲労感はあまり感じないが、これは麻痺して分からなくなっているからで、これ以上動くのは危険だ……。 「説明するから動かないでくれ、身支度は俺がするから」 「うん……お願いするよ」 腕が震えて体を支えることも満足にできない……。 どっちにしろ、もう立ち上がる力も残ってない。 本棚の上から杖をとり、くるりと振ると、シリウスは、床に散らばるボタンをシャツに縫いつけ、ローブも一緒に、一分の隙もないくらいきちんと着せてくれた。 シリウスに抱えられ、準備室から出ると、スネイプとジェームズ、ピーターは湯気の上がる鍋を前に打ち合わせをしていた。 一度に一気に、大人数に解毒剤をかける方法。 現れた自分の顔を、スネイプはまっすぐ見なかった。 見られなかったのかもしれない。でも、すぐ傍までやって来て『すまないことをした』と頭を下げた。 シリウスはジェームズに『ルーピンを保健室に連れていくから後で合流する』といい、スネイプには何も言わなかった。 復讐、恋薬、チーズクッキー、ちょっとした手違い。 イスに腰掛ける自分に、手短に、要点だけ顛末を語るジェームズ。スネイプは無言で、ピーター、シリウスと一緒に何か、巨大なスニッチのようなものを作っている。 すべてを聞きルーピンは、まあ、許せないことじゃないなと、思った。 スネイプの考え方は大昔からある『目には目を』というのだ。 たまたま、彼は失敗したらどうなるかの計算が甘かっただけ。 でも、ジェームズに対する最も酷いことが、『恋をさせて手ひどく振る』なんて、なかなかスネイプも分かっている。 気が付いてなのは本人ばかり、自覚がないのは……二人とも、かな? スネイプは、ジェームズがとても嫌い。シリウスが足元に及ばないくらい大嫌い。それは裏をかえせばとても気になっているということだ。 ジェームズも、酷く嫌われる訳が分からず、スネイプがとても気になる。 『気になる』は恋の第一歩だ。 自分が見たところ、ジェームズはスネイプに、恋に化けるかもれない感情を持っているように思える。 スネイプは分からないけれど。 「準備もできた。俺たちは行くよ」 ルーピンは保健室だなとジェームズ。 「残念だけどね……」 ジェームズの作戦に、僕も参加したかった。 あちこちから毛がはみ出し、乱れた三つ編みを撫でながら、ジェームズは、おまえを敵にまわすのは、最後にしたいもんだな、と呟いた。 「あとで何があったか、教えてね」 それを言うのが精一杯だった。 眠い、ひたすら眠く、もう目を開けていられなかった。 ジェームズがピーター、スネイプの様子を確認し、空間閉鎖の呪文を解く。シリウスは、自分を抱え上げドアを蹴破る勢いで地下牢教室を出て行く。外は大勢の気配がした。 「スネイプならあっちにいたぞ、おい!彼は違う!具合悪いんだ。触るんじゃねえよ!」 掴みかかる勢いで押し寄せてくる人の手からシリウスは守ってくれる。 ばらばらと複数の足音が地下労教室に向かっていった。 |
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