◎ Batuichi end ◎
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「とんだ目にあったぜ」 朝食から解放されてシリウス、ルーピン、ジェームズ、ピーターは廊下を歩いていた。 彼らの後ろからカメラを持ったクリービーが、一定の距離を保ちついてくる。 クリービーはジェームズの、いわゆる追っかけ。 ジェームズ専属のカメラマン気取りで、彼と、彼の友達たちの写真を断りなく撮る困った奴。 今日の朝食の席でも、カメラを片手にうろうろしていた……。 機嫌の悪いシリウスは、油断なく背後を窺いながら歩いている。クリービーがシャッターを切るのを目撃したら今日こそはカメラを奪ってフィルムを引っ張り出してしまうかもしれない。 「……」 シリウスは眉を顰め無言で前方、取り巻きにかこまれ歩いているスネイプを見据える。 奴のあの行動は一体何だったんだ。 花を持ってリーマスに近づいてきたとき、仕掛けてきたと思った。 薔薇に何か仕込んであるに違いなかった。 ジェームズやリーマスにスネイプの挑発に乗るなと言われていたが、得体の知れない、薬入りかもしれない花をリーマスに勧めたスネイプに我慢ならなかった。 あの執念深いスネイプが落とし前もつけずにターゲットを変えるはずがない。 ジェームズに薬を盛る最初のきっかけでリーマスに声をかけたに違いない。ただのとっかかりなら、満月後で体が弱っているリーマスでなく自分だっていいはずだ! だからわざとちょっかいを出した。 スネイプが食いつきやすいように言葉を選んで投げかけた。 でも、その後が悪かった。 いやみなスネイプの態度にカッチンきて、つい拳を振り上げたところに、気分屋・ショーが現れるなんて……。 偶然とはいえ、ショー自らが毒見役になってくれ、そのせいで、いやでも薔薇を食べることになろうとは……。 たまたま何ともなかったから良いようなものの、ひどく惨めだった。『策に溺れた』気分だった。 「シリウス、あの薔薇には何もなかったみたいだから」 隣を歩くルーピンが慰めるように言ってくれるのが余計につらかった。 スネイプの奴は本当に何を考えているのか……。 ぜんぜん分からなかった。 仕掛けるならどうどうと、真正面から来やがれ! スネイプの背中に向かってシリウスは心の中で毒づいた。 ジェームズはさっきから前を歩くスネイプの背中を眺めながら、人差し指と親指で自分のあごを摘んでいる。 考え事をしているときの奴の癖。 ふっと、ジェームズは口元をほころばせる。 彼は時々こうやってスネイプをみて笑う。 ジェームズに言わせるとスネイプは『仕草がかわいい』それに『とってもかわい子ちゃんな性格』をしていると言う。 それを聞くたびにシリウスはジェームズの目は腐っていると思った。 『かわいい』っていうのは……。 シリウスは隣を歩くルーピンを見やり思う。 かわいいって言うのはこのリーマスのことを言うんだ。 小さくて、華奢で、やさしくて、素直で、面倒見が良くて、思いやりにあふれているリーマス。 気取ったところのないリーマス。 おまけに、リーマスはものすごく愛らしい顔をしている。 普段はめがねで隠しているが、それをとると美少女ばりの優しげな顔立ちがあらわれる。 リーマスは長く伸ばした鳶色の髪を首の後ろでひとつの三つに編んでいるがそれと相俟って、この世の人とは思えない可憐さだ。 シリウスはうっとりとルーピンに見とれる。 それはいつものことなので、ジェームズもピーターも、当のルーピンも気にも止めなかった。 ルーピンを見つめながら、器用に障害物を避ける彼の運動神経のよさを、ジェームズ、ピーターはいつもながらすごいなと思っていた。 ルーピンが足を止めた。 「どうした?」 「……」 シリウスの問いには答えず、ルーピンは前方を見据えたまま固まった。 「リーマス?」 「……」 覗き込むシリウスに気づかないのか、惚けたような表情でルーピンは前方を見つめている。 ゆっくり大きく胸が上下して、形のよい大きな瞳がこれ以上できないくらい見開かれる。 「どうしよう……」 顔を赤くしルーピンは呟いた。 茶色の瞳が潤み、その目の中にふんわりピンク色の光沢が閃いた。 「……」 無言でルーピンは走り出した。 「リーマス!」 シリウスが、ジェームズが、ピーターがその後を追う。 「……」 ローブの裾を翻しルーピンはまっすぐ前方、曲がり角で立ち話しをしている人物に向かいかけてゆく。 「セブルス!」 ルーピンは叫ぶ。 人の輪の中心で、話をしていたスネイプが怪訝な顔をして視線を向ける。 ルーピンはまっすぐスネイプに向かい走ってゆき。 「な!」 そのまま勢いをつけて抱きついた。 「セブルス」 「……」 「セブルス……」 「……」 ファーストネームを呼びながら自分に抱きつくルーピンをスネイプは驚愕の面持ちで見ていた。 「リーマス・J・ルーピン……いきなり無礼であろう……」 抱きついて、人の名前を呼び捨てにするなど。 「離せ!」 「お願い聞いて」 ルーピンは眼鏡の奥の瞳を潤ませ懇願する。 「リーマス!」 シリウスが悲鳴を上げながら突っ込んでくる。 乱暴に人垣を掻き分け現れた彼は、スネイプにしっかり抱きついたルーピンの肩に手をかけた。 「大好き」 「……」 その場の空気が静寂に包まれる。 「セブルス、大好き」 ルーピンはあまえるようにスネイプの胸に顔をすりつけた。 「……」 スネイプは自分に抱きつくルーピンを見つめたまま、シリウスはルーピンの肩に手を置いたまま、ジェームズは針金で固定されたようにぴんと背筋をのばし固まった。 一人遅れてやってきたピーターが、ジェームズにつかまり息を切らせその場にしゃがみこんだ。 「セブルス大好きだよ」 「……」 もう一度言われスネイプは我に返った。 まじまじルーピンを観察する。 銀縁のめがね。 頬にかかる後れ毛は光に透けて新しい銅貨の色。 金と銀を混ぜたような不思議な光沢を浮かべる鳶色の髪は三つに編んでも腰まで届く。めがねの向こうの顔は乙女のように愛らしい。綻んだ花が匂いたつような清楚な可憐さだった。 身長で頭半分強ほど低いルーピンがこちらに顔を向け必死に訴えてくる。 体に当たる彼の体の感触は、痩せすぎて骨の浮いた感じがした。 華奢だ華奢だと思っていたが……こんなに痩せているとは……。 毎回食事の度にブラックの輩が彼の皿に食料を放り込む気持ちが分からないでもない。リーマス・J・ルーピンは痩せすぎだ。ブラックもただ食料を放り込むだけでなく、もっと楽しく食べられるような工夫をするべきだな……。 場違いなことを考えながら、スネイプはルーピンの目の中にピンク色の閃きを見つけた。 「おまえ……」 まさか……。 「ルーピンおまえ、チーズクッキーを食べなかったのか?」 「チーズクッキー?」 耳に届いた呟きに、スネイプは顔を上げる。 すぐそこに、表情をなくしたシリウスが、信じられないものを見る目つきでこちらを見ている。間抜け面を晒すシリウス・ブラックの背後にはジェームズ・ポッターがいた。 その足元には座り込んだピーター・ペティグリュー。 大きく息を吐くペティグリューはぼんやりとした目でポッターを、自分を見る。 「スネイプ、チーズクッキーって……」 ジョンソンの家からの差し入れのことか? 訊ねられスネイプは口を閉じた。 ポッターの瞳がめがねの奥できらりと光ったからだ……。 勘付かれた、私の計画を。 スネイプは大きく一つ深呼吸して、平静を装った。 「チーズクッキーがどうかしたか?ポッター?」 「……」 「スネイプ……てめぇ……」 シリウスが拳を震わせながらスネイプの胸倉を掴んだ。 「……っ」 「リーマスに、リーマスに何をしやがった〜〜」 「やめてよ!シリウス!」 スネイプに掴みかかったシリウスは聞いたことのないルーピンの鋭い声に動きを止めた。見るとルーピンはスネイプの腰に両腕を回したまま冷たい表情でシリウスを睨んでいた。 スネイプを掴むシリウスの手の甲をルーピンはぴしゃり殴りつけ、まっすぐ彼を見据える。 「乱暴はゆるさないよ。セブルスに何かあるなら、代わりに僕がきくよ」 鋭い視線でねめつけられシリウスは硬直した。 「リーマス……」 「セブルスに暴力を振るう人にリーマスなんて呼ばれたくない」 言い放つルーピンはいつもの、シリウスやジェームズが知っているルーピンではなかった。 ああ、今、この瞬間からスネイプに敵対(又はスネイプが敵対)する人間はルーピンの敵になったわけか……。 ジェームズは思った。 シリウスはそっと手を伸ばしルーピンの肩に触れようとして視線で本人に拒否された。 「リーマス……」 針を刺されたように手を引っ込めると、シリウスはルーピンの名を呼び、今にも泣きそうな目になった。 「……ルーピンって呼んでくれないかな?シリウス」 明らかな作り笑いのルーピンに、シリウスは膝がふるえるほどの衝撃を受けた。 「ひどいよルーピン……」 突如として、ピーターの声が轟いた。 見ると涙目のピーターが肩を尖らせ立ってた。 まっすぐ、ピーターはシリウスと、ルーピン、スネイプの間に割り込もうとして、思わぬルーピンの抵抗に断念し、スネイプの腕に自分のそれを絡ませた。 「ピーター、僕のセブルスに触らないで……」 冷たいルーピンの声にもひるまずピーターはぎゅっとスネイプの腕を抱きしめる。 「君にはシリウスがいるじゃないか……僕だって、僕だってスネイプのこと……大好きなんだから〜〜」 ピーターの声が合図だったように、廊下の一角からカメラのフラッシュが上がる。 ぱしゃ ばしゃ ぱしゃ 立て続けに三回シャッターが切られる。 柱の影からクリービーがスネイプを撮っている。 周囲の様子が俄かに活気付く。 なんだ、なんだとあたりを見回す人々に混じって、惚けたようにスネイプを見つめる生徒たちがいた。彼らが一斉に動き出す。 「セブルスさん!」 「スネイプ!」 わらわらと集まってくる。 男も、女も、皆一様に瞳にピンクの閃きを乗せ、スネイプめがけて押し寄せる。 「な、な、なんだおまえたち……」 腕にピーター、腰にルーピンをまとわりつかせたままスネイプはあとずさる。 「私」 「僕」 「俺」 あなたが好きです! |
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