◎ Batuichi end ◎
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スネイプは身を翻し、地下階段を下って行った。 ルーピンはその後姿を眺めながら、よし、計算通りだと胸の中でつぶやいた。 「ルーピン、スネイプは?」 ピーターが、スリザリンの、スネイプの取り巻きたちを連れ現れる。 「寮にもどったよ」 かすかに微笑みルーピンは答えた。 作戦通りだねとつぶやきピーターはスリザリン寮を見やった。 「……」 ピーターから、一緒にセブルスを捕まえようと持ちかけられたとき、正直驚いた。 いつもおどおど、びくびくしている彼が、目に強い決意と光を宿し、まっすぐ自分を見据えていた。 あれよ、あれよと言う間に、その場の人間ほとんどを纏め上げ組織化したピーター。 情報も、人手も、体力も無かった自分はそれに乗った。 セブルスの立ち回り先を知る親衛隊(情報と人手)と、彼の行動パターンを分析し、包囲のための作戦をたてる自分(策士)を取り込んだピーター。彼は最後ににくい一言を呟いた。 スリザリンの誰にスネイプを渡すのは嫌だけど、もしスネイプがルーピンを選ぶなら祝福するよ……。 瞳の中、微かに刺すような色をのせ、一瞬自分を見て、彼は視線を外した。 裏切るなら最後の瞬間まで待てと言われた気がした。 ピーター・ペティグリューは案外目端が利いて、腹黒いのかもしれない。 でも、ピーター、僕を出し抜こうなんて甘いよ。 心の中でつぶやきながら、共同戦線成立の握手をした。 情報を元に、スネイプの立ち回り先に親衛隊を向かわせた。 最初の部隊は、温室でノックアウトされた。完璧な眠りの呪文を囁かれ反対呪文を掛けられない限りそのままだろう。 二番目の部隊は図書室に閉じ込められていた。マダム・ピンスがこけた頬を怒りで赤く染めながら、いろいろな鍵開けの呪文を試していた。 スネイプは考えるだろう。 どうしてこうなったんだと。 そうして、この事態を収拾するために薬をつくろうとするはず。そうすると最終的に向かう先はひとつ。 地下牢教室だ。 彼が自分たちに食べさせた薔薇に、愛の妙薬が盛ってあったんだろうと思う。 でも、今となってはそんなこと、どうでもいい。 この胸に湧いたセブルスへの気持ちは、薬云々のものじゃない。 きっと自分は、もともとセブルスが大好きだったんだ。 セブルスだってジェームズやシリウスにはものすごく冷たいけど、僕だけには優しい。 そこまで考えてルーピンは胸を押さえる。 セブルスのことを考えると胸の中がとても暖かい。 えもいわれぬ幸福感に満たされる。 抱きついたとき、セブルスは目を見開いて驚いていた。 ジェームズがいつもセブルスを眺め、笑みを浮かべている気持ちが、よく分かった。 毛先だけふんわり内に巻いた艶々の黒い髪と、濡れた様な光沢の黒い瞳、芝居がかった動作も口調も、不自然なほど作られた取り澄ました表情も、ぴんと伸ばした背筋の後姿も、華奢そうに見えて案外がっちりした骨格も、……セブルス・スネイプは全部がキュートで愛らしかった……。 ふと、泣きそうな目をしたシリウスの顔が浮かんで、ちくりと胸を刺した。 「……」 セブルスのことを考えているのに、何故あのシリウスの顔が浮かぶのか……。 とても不思議な感覚に見舞われルーピンは戸惑った。 とても悪いことをしているような後ろめたさを覚える。 なにか……大切なことを忘れている気がする。 目の前にあるのに見えていない、大切なこと……。 「……」 シリウスといえば、ジェームズ。 ここまで一度もジェームズを見かけなかった。 温室でも、図書室でも、めぼしい空き教室でも、廊下でも。 彼もセブルスを探しているはずだ。 シリウスは当分使い物にならない。 彼は、見かけは立ち直りが早そうだけど、ホントはそうじゃない。ダメージを食らうと、結構しつこく覚えていて、他人に分からないように引きずるタイプ。 シリウスはうっちゃれるとして、問題はジェームズだ。 今姿を現さないと言うことは……。 彼のことだから自分たちが集団を作ってセブルスを追い詰めると読んでいる。だとすると、行動するのはこの後、仲間割れが起こって、自分ひとりになった時? 最後の瞬間まで姿を現さないつもりか……。 不意にピーターが顔を上げきょろきょろと周囲を見渡す。 「……どうしたの?」 「……え……」 ピーターは口をあんぐりとあけ、自分を見つめる。 まじまじ自分を見つめ、少し絶句したあと、搾り出すような声でおずおずと訊ねてきた。 「ルーピン……眼鏡……は?」 「しまってあるけど?」 今更なことをピーターは言った。 「……あ、……そうなんだ……」 青い瞳がこれ以上できないくらい見開かれ呼吸が荒くなる。 ぶわっと玉のような汗が額に湧き、ピーターはそれを手の甲で拭った。 ? 「ちょっと、トイレに行きたいから……後、お願い……ね」 あわてたようにピーターは踵を返す。 そのまま、とたとたと走りながら彼方へ消えた。 様子が変だった。 目つきが、いつものピーターに戻っていた。 薬が、切れた……? そうだと仮定したらピーターが次にとる行動は……。 「……」 考えながらルーピンは無言で歩きだす。 どこへ行くんだと自分を掴むスリザリン生に鋭い一瞥を向けてから、にっこりと微笑む。 顔を赤くする彼の耳元に唇を寄せ囁いた。 「当分、セブルスは動かないだろうから、僕はご飯を食べてくるよ」 セブルスがあちこち逃げ回ってくれたおかげで、早いランチをとってもいいくらいの時間になっている。 「皆も交代で、ご飯、食べたら?」 言い捨てその場を後にする。 「あとは、お願いね」 このあと、先走ってセブルスを追い詰めて、早く地下牢教室に行かなきゃって気持ちにしてあげて。 少し早いけど、仲間割れをさせるには、まあ、いいタイミングだろう。 もしもピーターがいつもの彼に戻っていたら、彼の向かう先は一つ。シリウスのところだ。 シリウスのところ、すなわちジェームズのところ。 ピーターはまっすぐグリフィンドール寮に向かうはず。 組織編制、戦力状況……。 余計な情報を、ジェームズに持っていかれるのはヤだな。 懐に手を突っ込み、杖を出してルーピンは、くっついてきた飴に目を留めた。 前にショー先生からもらった飴……。 「……」 ルーピンは立ち止まり、眉根を寄せて少し思案した。 そしてピーターの後ではなく、そのまま地下牢教室へ足を向けた。 部屋に入って一息ついて、スネイプはお茶を入れることにした。 杖を一振りして食器を出現させる。 ティーポットにアールグレイの茶葉をいれ、お湯を注ぐ。 コジーをかけて空中に固定した盆に置く。砂時計をひっくり返してベッドに腰掛けた。 くるくる回る盆。 カーテン越し、窓から差し込む光に照らされ、なんとも穏やかな光景だ。 良い天気だ……。 ルビウス・ショーのおっしゃった絶好のホグズミート日和だ。 予定なら、今頃ゾンゴの店で、日本から取り寄せた新製品の薬匙を手にしている頃だったのに……。そして夕方頃、薬の効いたポッターを思う存分虐めて落とし前をつける予定だったのに……。 「何が悪かった……」 再び呟きスネイプはもう一度ため息を付く。 あのポッターに直接薬を食べさせるのは不可能だと思った。 差出人の無い、匿名の贈り物を口にする愚をあのポッターが犯すはずもない。 だからひねりを加えた。 すなわち私本人が気づかれないように直接奴に薬を盛ることにした。 どんなに警戒心の強い人間でも、目先を変えると案外簡単にひっかかるものだ。 薔薇の茎に露状にした恋薬を吹きかけ皮膚からじわじわ浸透するように細工した。 目的はチョコを食べさせることではなく、茎を触らせること。 あとは、どうやって最低三十秒茎に触れさせるか、茶々を入れてくる三人―シリウス・ブラック、リーマス・J・ルーピン、ピーター・ペティグリューを黙らせるかだった。 うむを言わせぬ助っ人として、尊敬するルビウス・ショーにご登場願った。 このところ先生は『新しいお菓子作りコンテスト』へ向け新製品の開発に明け暮れていた。金曜の晩から土曜にかけては徹夜でことにあたられる。寝る間も惜しんで発明をされるが食事だけはきちんとされる。 その時間帯にひっかかかるように、まずルーピンに話しかけた。そうすれば必ずあの小うるさいブラックが難癖をつけてくる。少し揉めて、そこを仲裁してもらうつもりだった。 以前、本が原因で喧嘩をしていた生徒に、先生は握手をさせ一緒に本棚の整理をさせていた。だから、今回もきっと、仲直りの印に握手をして二人で薔薇を食べなさいと言ってくださると確信していた。 結果は予想以上だった。 先生自らが薔薇を食べて下さるとは、そして結果、労せずしてポッターに薬を盛ることができた。 ポッター以外に大した恨みはない。 それに、ルーピンやペティグリューならまだしも、ブラックなどの胸に私への恋心が灯るなど、想像しただけでも鳥肌が立つ。万一計画が狂って奴ら以外の生徒に薬が触れてしまった場合を考えて解毒剤もきちんと用意した。 利用したのはグリフィンドールのジョンソン。 ジョンソンは、ダイアゴン横丁で一番美味いと評判の菓子屋の跡取り。 父はジョンソンの店の蜂蜜ケーキが大好きで、これより美味いものはないといつも言っている。 家族や親しい友人の誕生日にはお気に入りの蜂蜜ケーキの他にオーダーメイドのケーキを注文し、プレゼントしている。 父に手紙を書いた。 友達の誕生日に珍しいケーキを贈りたい。 珍しい中に珍しく、とろけるように甘いケーキを知っていたら教えてほしいと。 父はすぐに返事をくれた。 そして、ジョンソンの店に新作ケーキの注文をしたから出来上がり次第試作品を届けさせると言ってきた。 狙ったとおりの反応を父はしてくれた。 自分がそういう手紙を書けば父は必ずお気に入りのジョンソンの店に新作ケーキを注文する。 そして注文を受けたジョンソンの家では、ホグワーツに通っている一人息子の環境を利用し、有意な意見を集めるべく試作品を送る。菓子好きの一人息子の大好物、大量のマダム・アソートのチーズクッキーとともに。 ジョンソンは将来の顧客獲得に結びつけるためなのか、家から送られてきたお菓子を寮に関係なく配って歩く。 マダム・アソートのチーズクッキーは北海産の海ヤギの乳がふんだんに使われている。普通のチーズにも含まれているが海ヤギのそれに含まれるラクトフェリンは抜群に濃い。それが『恋薬』の有効成分の一つに働きかけ薬を無効化する。 ポッターはチーズクッキーが嫌いだと言っていた。 チーズクッキーどころかチーズ類を口にしたのを見たことが無かった。 ルーピンも、ブラックもペティグリューもチーズ類はよく口にする。それに、マダム・アソートのチーズクッキーを嫌うものなどあの男以外に滅多に居るはずも無かろう。 グリフィンドール寮生は、まず最初にクッキーの相伴に預かると考えて間違えない。 だから、いけると踏んだ。 ポッター一人に薬を盛れないのなら、ポッターの周りの奴らにも盛ればいい。そして、ポッター以外の奴らには薬を効かなくすればいい。 少々乱暴だが、それで行くことにした。 万一クッキーを食べず、薬が効いてしまった時は、運が悪かったと思ってあきらめてもらおう。半日程度で薬の効果も消える。 うらむなら、子供じみたいたずらで私の最高傑作を台無しにしたポッターを恨むがいい! ふと目を上げると、くるくる回るお盆の上にカップが三つ……。 いつの間にかその傍らに立つ男がいる。 |
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