◎ Batuichi end ◎
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すぐに地下牢教室に向かうわけにもいかず、ジェームズ、シリウスは、スネイプをつれたまま一旦自室に戻る。
既に時間は遅い昼食を摂っても違和感のない位になっていた。
ほとんどの寮生は遅い昼食かホグズミートに行っているのか、自分の部屋で来週提出の課題をやっているのか、寮、談話室に人の気配はまったくなかった。

スネイプを連れ正面から入るのは目立つ。
廊下にはゾンビよろしくスネイプを探す(探していると思われる)生徒たちがうろついていた。
ジェームズたちは部屋の窓へ箒を向けた。
一人が腰掛けられる程度のベランダへ降り、シリウスが部屋に入ると、両手を組んで青い顔をしたピーターが駆け寄ってきた。
「シリウス―」
彼はまっすぐシリウスへより、次いで、箒にしがみ付き逃走しようとするスネイプを、強引に引き剥がし、抱えるようにして現れたジェームズを見ると、一歩後ろへ引いた。
スネイプだ。
スネイプがいる。
ピーターの目におびえの色が浮かぶ。
スネイプはぎゅっと口を結び、きつく目を吊り上げていたが、ピーターの姿を見るとひくりと肩を引きつらせた。
息を呑み、悲鳴を殺し、スネイプは、ピーターを凝視する。瞳の中に桃色のひらめきがないのを確認すると、ほっと力を抜いた。何事もない顔を作り、自分の体に回るジェームズの腕に気づくと、ポッター放せと大儀そうに告げた。
「放してあげてもいいけど」
箒に乗っている間中、おろせ、はなせを言われ続け抓られ引っかかれたジェームズ。こんなところで放したら、落ちるよという言葉も聞いてもらえず彼の腕、顔や耳には無残な爪跡が無数についている。
「放してあげてもいいけど、暫く俺たちと一緒にいるって、約束してくれるかい?」
ジェームズにしては、いやに下手に出た言い方だ。
まるで、ルーピンがいきり立つシリウスをなだめるような物言いだとピーターは思った。
「……」
何か考えるようにスネイプは黙る。
そしてジェームズは彼が頷くのを確認し、スネイプを放した。


「この部屋にリーフティーはない。でも、そこそこ飲めるティーバッグがある―」
シリウスは杖を振るって四つのカップを出現させ、手早くお茶を入れる。一人に一つ。カップが、躍りお湯が舞い、スプーンが上澄みをかき回す。そうして淹れたお茶を一人一人の手元へ遣わせる。
シリウスは自分のベッドに杖を向ける。
ベッドの下から見慣れたクッキー缶が現れる。赤と青のコントラストが鮮やかなマダム・アソートのチーズクッキー缶だ。
なかみを皿に盛りシリウスはスネイプの傍らへ。
貧血には栄養を、ということらしい。
スネイプはクッキーを、次いでシリウスを見やり、いつの間にか隣に腰掛けたジェームズを見て、遠くの壁際に立つピーターを見やる。そして軽く、うたたねをしている人が首をかくんと倒すように、軽く頭を動かすと一枚クッキーを取った。
ぱくりとクッキーを食むスネイプ。
小動物を連想させるその様子に、ジェームズの顔に笑みがのぼる。もっとも、気配に気づきスネイプがそれを見つける前に消すと、ジェームズは知らん顔で自分もクッキーを取った。
「ポッター、おまえ、チーズクッキーが嫌いではなかったのか?」
スネイプは目を丸くしてジェームズに訊ねた。
「?嫌いじゃないけど」
その言葉に、スネイプはますます目を丸くした。
「チーズが嫌いだと前に言っていたではないか」
「??……俺、チーズ大好きだよ?」
「―」
スネイプは騙された―という顔になった。
そもそもこの計画は、ポッターがチーズ嫌いでなければ成り立たない。せっかく薬を盛っても解毒作用のあるチーズを食べられてしまっては元も子もない。効果はゼロだ。
「でも、このチーズクッキー、チーズがきつくて胸焼けするから、体調が良くないと食べられないけどね」
「〜〜」
突然、スネイプは乱暴にもう二枚クッキーを掴むと、突きつけるようにジェームズに差し出した。
「食せ!。その言葉が本当だと言うのなら、私の前でこれを食して見せろ!」
何事かと動きかけたシリウスたちを目で制し、ジェームズは差し出されたクッキーに顔を近づけそのまま一口、ばくりと食べた。
「〜〜」
スネイプは眉間にしわを刻んだ。
なんということだ、ダマされた……いや、ジョンソンにクッキーを勧められ断っているポッターを見て、サラダに入っているスティックチーズを脇に退けたのを見て、単純に判断した私のミスだ……観察不足だ。
「おのれポッター……」
口の中で呟きスネイプは、腹立ち紛れにジェームズの食べかけを自分の口に放り込んだ。
「あ」
遠くの壁際、自分から一番遠い壁際に立つピーターの呟きにスネイプは視線を向ける。
ピーターは目が合うとぶんぶん首を振りながら、シリウスの隣、自分のやや斜め左、行儀悪くイスに跨るシリウスの隣へ移動した。
「その様子だと、薬は切れたようだな」
自分の言葉にピーターは不思議そうな顔をした。そして、思い出したようにシリウスに向かい喋りだした。
「ルーピンが、ルーピンが」
ルーピンが変なんだ!
ルーピンと聞いてシリウスは、ぐうと、こみ上げてくるものをこらえた。そういう顔をした。
ピーターはシリウスのローブの袖を掴み必死に訴える。
ルーピンが眼鏡をかけていない。
素顔のルーピンは、控えめに言ってもとても綺麗だ。思わぬトラブルを避けるためジェームズ同様、ルーピンが、人前で眼鏡を外すことはありえない。
そんないつもと違う彼が、とても怖い、鋭い冷たい目つきをしてスリザリン寮の前にいた。
一気にしゃべり終わるピーターにシリウスは訊ねた。
「お前、何があったか覚えてないのか?」
シリウスの問いかけにピーターはまたしても思いっきり不思議そうな顔になった。
シリウスは今までの顛末をかいつまんで話す。
朝食が終わって、ルーピンやピーターやその他大勢の生徒が男女入り乱れスネイプを追い掛け回していること。
どんどん青ざめるピーターに、同じくどんどん青ざめながらシリウスは話す。
「そろそろ、きみの口から、話してもらえないかな?」
「……」
ジェームズの言葉に、スネイプは微かに頬を膨らませた。
シリウスの淹れたお茶を一息で飲み干し、覚悟を決めたようにスネイプはとつとつと話し始めた。

「私は、ポッター、貴様に落とし前をつけるつもりだった」
恋薬で一時的に混乱させてやろうとした。
薬は薔薇の茎に吹きかけ、皮膚から浸透するようにしたこと。
また薬はチーズクッキーに含まれる栄養素に無効化する。
だから、薬に触ってもチーズやチーズクッキーを食べていればまったく平気だということ。
ルーピンやピーターに薬が効いたのは誤算中の誤算。
また、何故、薬が効きすぎたのか分からない。

スネイプは素直に、かいつまんで話した。

「なるほど、これで分かった」
呟く自分にスネイプは疑問の視線を投げかけてくる。
「ルーピンは、胸焼けするからチーズクッキーを食べなかった。それで、あの時、薔薇の花束を長い時間抱えていた」
濡れたルーピンの袖口。多分ルーピンはスネイプの予想より長く薬にふれていたから、効きすぎた。
チーズクッキーを食べたピーターのことを考えると、スネイプの薬が彼の予想より強力な出来だったと考えられる。
「だが、ポッター……おまえやブラックは?なぜ薬が効かなかった?おまえはクッキーを食べなかったのであろう?」
「俺の場合は分からない。体質か、ほかに何かあるのか……だけどシリウスの場合は……鬼のようにクッキー食べてるからな、そうじゃないのかな?」
「ああ、ここんとこ毎日食ってるな……今もこれ、クッキーづいて取り寄せて食ってるし」
缶を掲げるシリウス。ふと、スネイプは目を見開いた。
「……」

まさか……。

視線を外し、下を向き、スネイプはそういう顔をした。
「どうかしたの?」
ジェームズは覗き込むようにしてスネイプを伺う。
「……ポッター、おまえ婚約者はいるか?」
「いないけど」
「では、愛しいひとは?」
「……それと、俺に薬が効かないことと、どんな関係があるの?」
「恋薬は、胸に恋しい気持ちを灯らせるものだ、既に心に『愛の炎』が燃えている場合は効かない」
シリウスはルーピンをとても気に入っている。胸にめらめら愛しい気持ちが燃えているのは、彼のルーピンに対する、端で見ていて気の毒になるほどのかまい方でよく分かる。
「へー。恋は愛に負けるのか」
「でも、恋と愛の違いって?」
感心したように言うシリウスにピーターは首をかしげる。
ジェームズはうーんとうなり、顎を親指と人差し指でつまんでいる。何か考えたまま固まっている。
「で、肝心の解毒剤は?チーズ大量に食わないとダメってワケじゃないんだろ?」
「当たり前だ。そんな、非効率的なことあってたまるか」
シリウスの問いにスネイプは鼻で笑う。
「解毒剤は私の作った恋薬に不死鳥の涙を入れ、ひと煮立ちさせれば出来上がる。涙は地下牢教室の、私の個人用の棚にあるが……」
問題は恋薬だ。
「全部使っちゃったの?」
ジェームズ。
「いや、……部屋にある」
おそらく、見張りが立っているであろう、スリザリン寮の私の部屋。紅茶缶の並んでいる棚のすぐ下に、結晶化させ、試験管に保存してある。
「あー、あのハート型の砂糖みたいな奴か!」
スネイプの言葉にシリウスが叫んだ。
「結晶化した恋薬だ。初心者向けとはいえあそこまで綺麗なハート型に結晶化させるのは―」
「なんてこった、そんなもんがあんな近くにあったなんて、そうと分かってたら持って来たのに!」
「ブラック!人の話は最後まで聞け!」
「もし新しく作るとしたら、どうかな?」
シリウスに食って掛かろうとするスネイプにジェームズは話しかけた。
「作るのは簡単だが二時間はかかる」
それだったら、解毒剤を作ったほうが早い。
「スリザリンに薬を取りに行って、地下牢教室に行くのか」
シリウスが呟く。
ジェームズはピーターにルーピンと分かれた時の様子を聞いている。
「……」
スネイプはそれを眺めながらお茶をもう一杯、傍らに浮かぶ手をつけていないジェームズのカップを奪った。

じつは、解毒剤はある。

ポッターをさんざんいじめた後、すぐ我に返らせ、その時の奴の悔しがる顔が見たかった。
ざまあみろと言ってやりたかった。
だから二人分位の解毒剤はジェルにして地下牢教室の自分の棚に不死鳥の涙と一緒にしまってある。

後始末の用意もなしにこの私が事にあたることなどない。

万全の準備をして万全の態勢で物事は進めるべきだ。
しかし―と、スネイプはピーターの話を聞きながら首をひねった。

記憶がない?

強く作りすぎた恋薬は記憶を奪うものなのか?
それに、依然、何故薬が強力に仕上がったのか不明なままだ。
スネイプは横目でピーターを見やる。
ピーターはシリウスとなにやら押し問答をしている。
その傍らではジェームズが自分の顎を摘んだまま、じっとその様子を見ている。

それにしても、あんなに傷ついた顔をするとは……。

自寮でシリウスに問い詰められ、図星を指された時に垣間見たジェームズの表情を思い出し、スネイプは胸が痛んだ。

この悪魔のような(と思っている)ジェームズ・ポッターでも、あんなに傷ついた顔をするとは……予想もしなかった。
絶対『やられた、次はやり返してやるからな』という顔をされると思った。なのに、アイツは……。
これは禁じ手だ。
もう二度と、どんなことがあっても使いはしない。

スネイプはジェームズを眺めながらひそかに誓った。

「わかった、僕、行ってくるよ」
ピーターの力強い声に顔を向けると、シリウスとピーターが握手を交わしていた。
「頼むな、ピーター。頼りにしてるぜっっ」
「僕、がんばるよ。だからシリウスも、あの、約束、忘れないでねっ」
「ああ、分かってる。一ヶ月でも二ヶ月でも好きなだけ宿題手伝う」
「あの、遊園地も、ねっ!今、ロンドンのおばさんの所に移動遊園地が来てるんだっ再来月まで―」
「?」
「ピーターが薬をとってきてくれることになった―」
ポッターの補足で黙考していた間の出来事が知れた。
「ペティグリュー、一ついいか?薬と一緒に棚の脇、壁にかけてある大匙を持ってきてくれ」
スネイプに話しかけられ、ピーターは、びくんと身をすくませる。彼は押さえつけるような言い方が何より苦手。
シリウスの後ろに隠れ、彼のローブの袖口を掴み、助けを求めるように見上げる。シリウスはそれを受け、もっと優しく喋れと、スネイプに告げる。スネイプは両目をしかめたが、言いかけた言葉を飲み込み、左から数えて何列目の何行目に掛かっている何色をした三十センチ弱のトネリコ材でできた大匙を持ってきてくれと押し殺した声で頼んでいる。
「大事なものだ、壊さないでくれよ……絶対に壊すなよ」
「……う、うん」
「……」
ピーターに迫るスネイプを、ジェームズは少し解せない顔をして見やる。

彼の性格から考えて、解毒剤を用意しないなんて、あるのかな?

手を伸ばし、飲んだ覚えのないお茶がカップの半分まで減っているのを見て、ジェームズは?とさらに首を傾げる。

薬が切れ、我に返ったピーターをルーピンが追いかけなかったのが気になる。何か考えがあるのか、それとも、もう、追いかける体力が残ってなかったのか……。

どっちにしろ地下牢教室でルーピンが待っている。

どうやってルーピンに解毒剤を塗るか、ジェームズは、残りのお茶をくいっと飲み干しながら、その場の皆を見回し、作戦を練る。


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