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「何故だ」
スネイプはうめいた。

なぜこんなことになったのだ……。

群がってくるものたちの目が怖い。
まっすぐ自分を見据え乞う様に擦り寄ってくる。

ルーピンやペティグリューのように抱きついてくる者ならまだいい。離れろと押しのけることができる。
膝付き、いきなり靴にキスされそうになって、スネイプはぴょんと一歩飛びのいた。
腰のルーピンが外れる。
「スネイプ!!」
ルーピンが外れたと思ったら今度はペティグリューが胴に絡んできた。

「僕、僕、スネイプの為ならなんでもする、なんでもするから!」

ピーターの言葉にスネイプは総毛だった。
泣きながら好きだと叫ぶピーター。首に手を回され顔を近づけられる。
「……」
スネイプはピーターを突き飛ばすと後ろも振り返らず走りだした。
「待って!」
ピーターが追う。
「逃がすな!」
「左に曲がったわ!」
生徒たちはスネイプの後を追う。
よく見ると彼の取り巻きたちまで文字通り目の色を変えてスネイプを追いかけている。
その場に残ったのは、シリウスと、彼に腕を掴まれスネイプを追いかけられなかったルーピンと、腕組みし自分の顎をつまむジェームズの三人。


「はなして……シリウス」
「やだ……放したらおまえ、アイツを追っかけるんだろ」
ルーピンは忌々しげにシリウスを見やり、何かを思いついた顔をした。 
「……シリウス、きみ、僕のこと好きなの?」
単刀直入に聞かれシリウスは瞬時に真っ赤になった。

好きなの? もない。

どさくさにまぎれてだけど、やっと名前で呼べるようになった……。まだ手をつないだことはないけど、不可抗力で事故のようなものだけど、ちょんと触るだけのキスもした。
「お、俺」
シリウスは無表情のルーピンをまっすぐ見つめた。
いつものリーマスからは想像もつかない冷たいきつい表情。

言うんだ、俺、俺はリーマスが好きだって……。
だからスネイプなんかを追いかけるな……って……。

心臓がばくばくいいはじめる。舌が縺れそうだ……。

心の準備はできていないが今言わなければ、言えばリーマスはとどまってくれるかもしれない。

「お、俺、俺は……リーマスお前がす―」
「シリウス、僕、セブルスが好きだから、もし君が僕のことを好きだったとしても君の気持ちには応えられない」
言いかけたシリウスの言葉を遮り、ルーピンは言い放った。

僕、セブルスが好きだから―。

「……」
発せられた言葉の重さにシリウスはへたり込んだ。
リーマスは正気じゃない。それは分かっている。でも、セブルスが好き、セブルスが好き、頭の中をリーマスの声がこだまする。

ルーピンがそっと、腕を掴むシリウスの手を外し、ごめんねと告げる。そして彼はジェームズに向かうとじっと彼を見据えた。
「ジェームズ。僕はセブルスが好きだよ」
「そう、みたいだな……」
「うん。だからジェームズ、きみも本気できてね」
「?」
「彼を手に入れるためなら僕、どんなことでもするから」
言いつつルーピンはめがねをはすしてポケットにしまった。

愛らしい、美少女のようなルーピンの素顔だが今はたくましい男のカオに見えた。

ルーピンは自分をよく知っている。
素顔の自分が他人にどう思われるのかをよくよく理解している。
使えるものは何でも使うつもりだ。
今のルーピンは本気でスネイプを手に入れるつもりだ。
彼はやると言ったら本当にやるだろう。
他者の心の機微に明るく、時に大胆に、概ね慎重にコトを運ぶルーピン。
典型的な策士タイプ。
「やっかいだなぁ、おまえが向こうにまわると……」
ジェームズは努めて笑顔をつくる。
こいつに冷静でない自分を見せるのは、とてもシャクだった。
「はははっそれはこっちのセリフだよ」
ルーピンもにっこり微笑む。君の事はお見通しだよと言わんばかりの微笑みにジェームズはつい言っていた。
「でもな、ルーピン。よく言うだろ?非常事態で芽生えた『恋』は長続きしないって」
「それでも恋は恋だよ。『恋』の最初は錯覚から起きるんだよ?その錯覚をより長く持続させて、どれだけ二人で楽しめるかがレンアイの醍醐味じゃない?」
「相手の同意が得られれば、だろ?」
「『うん』っていってくれるよセブルスは。僕、そんなに毛嫌いされてないし。どっちかって言うと、とっても好かれてる方だと思うし」
「……」
ジェームズの片方の口元が微かに引きつるのをルーピンは確認すると、勝ち誇ったように笑った。
「それも錯覚じゃないといいな?」
ジェームズは内心むっとしながらも何事も無いように言い放った。
「……」
「……」
二人は、互いを牽制するように微笑みあう。
「あっ……ひとついいかな?……これはピーターやシリウスにも言える事なんだけど……」
細めた目の奥でジェームズを見据えると、抑揚なくルーピンは言い放った。
「親友でも容赦しないから」

だからジェームズ、君も遠慮しないでね?

「じゃあ……」

言い捨てルーピンはきびすを返すと悠々と歩き去った。



親友でも容赦しないから……か。

さて、どうしたものか。

ジェームズは考える。

ルーピンが相手に回ったというのはとても厄介だ。

ルーピンと自分は非常に似ている。
基本的な思考パターンに始まって食べ物や人の好み、表現の仕方が違うだけで他者に対する接しかたも大筋において同じだ。お互いにほぼ百パーセント、相手の手の内が分かる。
チェスをしたときがそうだった。
互いに考えていた手を読まれ、先手を打たれ、出し抜かれ、勝負は結局引き分けだったがあんなに手こずったのは父親とのカード勝負以来だ。

さあ、ルーピン、お前はこの後どうする?

数えるほどしかスネイプの立ち回り先を知らない、体力も落ちているお前は、協力者を募って追い込みをかけるだろう。ルーピンのあの美貌に、あの人懐っこい笑顔に勝てる奴などそうはいない。
スネイプ本人だって、あのルーピンに優しく迫られたら、あるいは……
「……」
頭を振ってジェームズは脱線した考えを戻す。
協力者をつのって、徒党を組んで、ある程度スネイプを追い込んだら、ルーピンは仲間割れをするように仕向けるだろう。
そして皆が争っているうちにスネイプをいただくはずだ。

もし自分だったらそうする。

それが今のところ一番早く確実にターゲットを手中に納める有効的な方法だから。

「……」
なんだろう。
非常に不愉快だ。
ルーピンの言葉にもムカついたが、今までスネイプのかわい子ちゃん振りに気付きもしなかった連中が、目の色変えてスネイプを追っかけている。

その事実が、非常に不愉快だ。

「ルーピンには徒党を組ませておこう」
誰に聞かせるわけでもなくジェームズは呟いた。

そうすれば少ない労力で余計な奴らを片付けられる。
問題はルーピンだ。
あの手ごわいやつを出し抜くためには……。

「……シリウス……」
呟きジェームズはしゃがむ。床にへたり込むシリウスに目線を合わせ呼びかける。
「シリウス、シリウス」
「……」
シリウスの反応はない。未だルーピンの言葉が効いているのか、瞳を閉じがっくりうなだれている。
肩を掴んで揺すりながらジェームズはもう一度名前を呼んだ。
「しっかりしろ、シリウス・ブラック。これしきのことで参ってるようじゃスネイプの思うツボだぞ」
スネイプといったらシリウスは反応した。
「……スネイプ」
「そう。シリウス、気を落ち着けて考えてみろ。ルーピンがスネイプなんかを本気で好きになると思うか?そんなはずないだろう?薔薇だ。全部薔薇のせいだ。あの薔薇に何か仕込んであったんだ」

そして同時に、方法は分からないけど、薔薇の効果を打ち消す解毒剤をスネイプはチーズクッキーに混ぜたんだ。

クラスメイトの実家から大量に送られてきたチーズクッキー。
菓子屋の息子の大盤振る舞いに自分とルーピンを除いたほとんどが舌鼓を打っていた。
あれにどうにかしてスネイプは薬を盛ったんだろう。
その証拠にさっき彼は告白したルーピンに向かい『チーズクッキーを食べなかったのか』と訊いていた。

でも、そうすると変だ。
クッキーに解毒剤が盛ってあったならピーターまでスネイプに惚れるのはおかしい。シリウスと同じくらいピーターはクッキーを食べていた。
そして自分。
ルーピンと同じくクッキーを食べないで、薔薇チョコを食べたのに何ともない。

どういうことだ?

スネイプに惚れる者とそうでないものの違いは、食べ物に関係ある。それは確かだろう。

ジェームズは考える。そして、今はそんな場合ではないと思い直した。

こんなところでぐずぐずしているヒマはない。こうしている間にルーピンがスネイプを追い詰める。今あれこれ推測するよりも先にスネイプを見つけるのが先だ。

ルーピン達より早く、スネイプを保護して、どうやって薬を盛ったのか、解毒の方法とともに聞き出せばいい。

「シリウス、詳しいことはスネイプを保護してからだ。スネイプを捕まえて、ルーピンをもとに戻すんだ」
「……」
シリウスはジェームズを見やる。自分の言った言葉の意味が染みてきたようだ。とろんとした死人のような目に炎が灯る。
「スネイプ……リーマス……」
つぶやきシリウスは、両手を頬にあてると、ぱんぱんと二回叩く。活!をいれる。
「落ち着いたか?」
訊ねる自分にシリウスは頷く。
「……悪い。待たせた」
ようやく冷静になれてきたのか、幾分強張っているけれど、シリウスはいつもの顔にもどっていた。
すっくと立ち上がり、彼は大きくゆっくり息を吐き出す。

クィディッチの試合前、グラウンドに出る間際、シリウスが緊張を解くためにやる方法。
これが出るならやつは大丈夫だろう。
落ち込みも激しいが浮上も早いシリウス。切り換えの素早さは折り紙つきだ。

「で、どうする?俺は何をすればいい?」
「作戦を立ててくれシリウス」
言ったらシリウスは大きく目を見開いた。
「俺が?」
「そうだ。俺とルーピンは互いに手の内が読める。でも、ルーピンはお前の頭の中までは完璧には読めない」

そこに出し抜くチャンスがある。

自分とシリウス二人分、場合によってはスネイプも加えた三人分の思考を追う……普通でも大変な作業だ。病み上がりのルーピンにはかなりの負担だろう。

「ルーピンがどう出るかは俺が読む。スネイプが逃げ込みそうなところも……。どう動くか、どう引くかは全部おまえに任せる。目的は、スネイプを……」
「ルーピンよりも先に見つけて、とっ捕まえて、解毒剤を作らせる……」
「余力があったら後学のために薬を盛った方法も聞きたい」
口の端を引き上げシリウスは笑う。
「まかせろ、力ずくでも吐かせてやる」
「お手柔らかに」

肩をすくめジェームズは続けた。

本人はそれに気づいていないだろうが、シリウスには不思議な底力がある。
それは人の心を瞬時に捉える妙な色気だったり、頼まれ事をされて思わす頷いてしまう気迫だったりする。
自分で気づかず、コントロールもできないシリウスの不思議な魅力。夢中で何かやっているときの彼の目の輝きは逆らいがたい不思議な力を持っている。

彼がいてくれてよかった。

もし彼まで向こう側に行っていたら、二人を敵に回して出し抜くのは不可能に近かったろう……。

「たのんだシリウス」

もう一度ジェームズはシリウスに言った。

「おまえだけが頼りだ」


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