◎ Batuichi end ◎
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「二人の世界作ってるとこ悪いけど」 「……」 轟いたシリウスの声に我に返った。 「俺もいること忘れないでくれよな?」 「……」 スネイプに対する甘さも嬉しさも、瞬時に消えた。 シリウスはルーピンにするように自分とスネイプの間に割り込んだ。 顔をこちらに向け、彼は、じっとこちらの目の中を覗き込む。 ふと見るとスネイプも同じことをしている。 やがて微かに表情を和ませシリウスは言った。 「ジェームズ、こいつにさっさと茶、淹れてやれ」 「……あ、ああ」 「まて!まだ私との話が―」 「はいはいはい、お前の相手は俺がするっ」 振り返りシリウスは、スネイプの肩を掴んで押す―力ずくで座らせようとした。 スネイプが何をするかと叫びシリウスをはじき返そうとする。 押えつけるシリウス。はじき返そうとするスネイプ。 「大人しく座れ!」 「ふざけるな!貴様の命令など誰がきくか!」 二人は顔を真っ赤にしながら力比べをしている。 「だいたいお前、気に入らないんだよ!」 「それはこちらのセリフだっ!」 「何をっ! !」 二人はつばを飛ばしながら言い合う。 お前のココが嫌いだ、それこそこちらのセリフだ。 その合間に座れ、嫌だの応酬……。 シリウスは吠え、スネイプは毛を逆立てる。犬とネコの喧嘩のように二人はやりあう。 二人の眼中に自分の姿はない。 「……二人とも、ほどほどにしておけよ……」 完璧に無視され、少しさみしい……。 頭を振りながら、言われたとおり、グラスと氷をとりに行く。 本人たちに言ったら嫌がられるだろうが、シリウスもスネイプも気はあっている。 同じ、ルーピン贔屓だし、言われたら黙らず言い返す方だ。なんだかんだ言いながら、仲がいいのかもしれない……。 指定されたカーテンの向こうは、地下牢教室の一部を切り取って持ってきたかと思える有様だった。 木製の棚、目の位置にずらりと紅茶の缶が並んでいる。 そのすぐ上はガラス瓶に入った乾燥ハーブや色とりどりの粉末。木製の試験管立てが三つ。コルクで栓をされた試験管がいくつもさしてある。なかみはほとんど液体だが、ひとつだけ、ハートの形をした砂糖が詰まったものがあった。 紅茶缶の列の下に壜入り蜂蜜。クローバーのラベルを探し、とる。隣に置かれた箱を開けるとグラス。その隣の箱には氷……。 傍らの壁板にはフックが取り付けられ、大きさごとに分けられた匙が掛けてある。 木製、鉄製、竹製、石製……よくこれだけ集めたと思われるくらいならんでいる。 ひとつだけ、端が欠けている大匙があるのが目をひいた。 竹製の匙と氷入りグラスと蜂蜜の壜を持って戻ると、力比べはシリウスが勝ったらしい。座るスネイプとその肩を掴むシリウスが息を切らせ睨み合っていた。 「お前がルーピンに盛った薬の解毒剤を『はい』って出してくれれば、俺たちはすぐにここから退散するさ。セブルス」 「貴様等なんぞにセブルスなどと呼ばれたくなどない!」 「俺だっておまえなんかをセブルスなんて親しげに呼びたくないね!」 夜色の瞳を据わらせ、淡々と述べるシリウスの気迫に圧されたのか、スネイプは何か言いかけ黙った。 「俺は今、とてつもなく不機嫌なんだよ。大人しく薬を出せばよし、そうじゃなかったら、あの薔薇持ってショー先生にお願いに行くぞ」 「ショー先生は関係ないだろう!」 「あの薔薇に盛った薬を調べて解毒剤出してくれる位は朝飯前さ。何しろあの先生は『最も偉大な魔法薬学者年鑑』の六番目に載ってる」 それは魔法薬学の分野で、世界で十本指に入る優秀な魔法使いということ。 「……おまえ、あれを、見たの……、か」 年鑑というところでスネイプは何故か動揺した……。 シリウスはそれには気づかず言葉を続けた。 「もし薬を頼むとすれば、事の顛末、話さなきゃいけないな?……がっかりするだろーなっ、自分が目をかけてる生徒がこんっな酷いこと企んで、成功したならまだしも、標的に盛るのを失敗して、その周りの友達に被害を及ばせてる」 「フンっ―。私を脅迫しているつもりか……?」 「協力してやろうって言うんだ。セブルス・スネイプが『悪戯』の失敗を、責任を持ってチャラにできるよーに」 「悪戯ではない……」 「じゃあ、復讐か?……どっちにしても頂けねーな……」 シリウスはスネイプにずいと顔を近づける。スネイプはひるむことなくシリウスを見据える。 「お前、ジェームズに『愛の妙薬』盛るつもりだったろ?」 「違う! !」 「じゃあ『恋薬』か?」 シリウスの言葉にスネイプの肩が一瞬跳ねた。 「『恋薬』?」 思わず呟いた。 スネイプは怯えたようにこちらを見やり、滑らせるように視線を逸らせた。 「なんか覚えがあったんだ。ルーピンの目の中のピンク色、あれは、『恋薬』の症状だ」 「……」 シリウスの言葉に、スネイプは二の句を次がなかった。 ぐっと唇を噛み、拳を握り締める。 図星だったらしい。 『恋薬』は恋をしたと錯覚させる薬だ。 雑誌なんかに載っている初心者向けの魔法薬。 スネイプは自分にそれを使うつもりだった……。 「……」 ため息がでた。 顔を見れば眉をひそめられる。話しかければ、無視か、そっぽを向かれる。肩に付いたごみを取ってやろうと手を伸ばしたら、ものすごい剣幕ではじかれる……。 そんな彼が自分に『恋薬』を使う、それも『復讐』で使うとすれば目的はひとつ……。 「ジェームズを自分に惚れさせて、手ひどく振るつもりだったんだろ?」 シリウスが、こちらの考えついたことを言葉にする。 「……」 スネイプは何も答えず、ただ、ふんっと大きく鼻を鳴らした。 ちらりとこちらを見やり、ただ黙って視線を外した。 「……」 無言の肯定。 「……マジかよ……」 シリウスの呟きにスネイプは大きくひとつ瞬きをした。 そこまで嫌われていたのか……。 今まで散々、嫌いをアピールされてきて、段々それにも慣れてきて、少々のことは、平気になっていた。 ここまで嫌われるのは自分だけ。 自分だけが特別に、あそこまで嫌われている。そう思ったらなんだか楽しくすら思えていた。 でも、今回のこれは、効いた……。 精神的ショックで眩暈が起きるのを、初めて体験した。 胸が痛い。吐きそうなほど目が回って気持ちが悪い。 ルーピンに拒否され、座り込んだシリウスの気持ちが、よく分かった。 アイスティーを入れようと、グラスを持っているのを思い出した。氷はすっかり融け、水滴が手首を伝い、袖口を濡らしている。 懐から杖を取り出す。 「―」 スネイプは目を見開き腰を浮かせた。そんな彼の肩をシリウスは押えつける。 何かされると思ったらしい。 彼は、酷く俺を誤解している。 一体どうしてそうなったのか、まったく分からない。 原因を突き止めて誤解を解かねばいけないと、切実に思った。 杖を一振りして、グラスを空で回る盆に近づけた。ポットを浮かせ、すっかり濃くなった紅茶を注ぐ。蜂蜜を小さじ二杯入れかき回させ、顔を強張らせているスネイプへわたす。 「何故、お茶を淹れてくれるんだ……ポッター」 「頼まれたことをしただけだけど」 さっきお茶が欲しいって、言ってただろ? 「毒見が必要なら一口飲もうか?」 「……」 スネイプが息を呑むのが分かった。 ふと視線に気が付くと、案ずる様なシリウスと目が合った。 大丈夫か? その目は言っていた。 そんなに、落ち込んでる顔を、してるんだろうか……。 スネイプまでもが自分を見ている。 その表情は嫌悪でも憎悪でもなかった。濡れたような綺麗な瞳にさらに艶を増させ、眉を潜め、少しばつの悪そうな顔。 後悔している。そんな感じの顔を彼はしている。 スネイプは震える手でグラスをとる。 「……ありがとう……ポッター……」 ゆっくり口へ。一口飲み、次いで一気に飲み干した。相当喉が、渇いていたらしい。 スネイプは、ポッター、蜂蜜が二杯入っている。私が言ったのは小さじ一杯だ……と呟くように言った。 「お前、恋したことないだろう?」 唐突にシリウス。 「……」 スネイプが怪訝な顔で彼をみやる。 「一回でも人を好きになったことがあるなら、そんな酷いことできるはずない」 吐き捨てるようにシリウスは言った。 シリウスにとって恋は神聖なもの。 自分自身、中々にままならない恋をしている彼は、未遂とはいえ、薬まで使って、悲しませる目的で、恋したと錯覚させたスネイプを許せない。 表情を一切なくし冷たい、蔑むような目をしてスネイプを眺めるとシリウスは言った。 「人の心を弄ぶなんて悪魔の所業だ」 「―」 『悪魔』その言葉にスネイプは歯を食いしばった。 「セブルス・スネイプ、おまえは酷い奴だ、良心ってものがないのかっ」 「ひどいのはそっちだろう!」 たまりかねたように叫ぶスネイプ。シリウスが一瞬息をのんだ。その隙を見逃さず、彼はシリウスを押しのけると、こちらの胸倉を掴んだ。 「最初に!最初に仕掛けてきたのはどっちだ!お前のほうだろう! !」 顔を近づけスネイプは、唾を飛ばし怒鳴る。 「私が丹精込めて作った縮み薬を、最高傑作の縮み薬を!台無しにしたのは!お前だろう!」 「誤解だよ、スネイプ」 地下牢教室、魔法薬学、時間中に起きた爆発、あれは本当に、不慮の事故。 「お前の、お前たちのほかに誰があんな子供じみたいたずらをするかっ!分かるか?完璧な仕上がりだったんだぞ?―酷いこと、そんなの百も承知だ。良心がないのか?ああ、少しは痛むさ!酷いことをしている自覚もある!私は酷いことをしているとも!だが、そうさせたのはお前だ!ジェームズ・ポッター! !」 一息にしゃべるスネイプは今まで見たことがないくらい真っ赤な顔をしている。息を切らし、まっすぐ自分だけをにらみつける。 何故か、そんなスネイプを、とてもかわいらしいと思った。 抱きしめたくなる位、いとおしいと思った。 「薬のことも許せない。だが何より許せないのは、私を侮辱したことだ。尊敬するルビウス・ショーに居残りを言い渡されたときの私の気持ちがわかるか?分かるはずはないかっ 居残りなと、無能者呼ばわりされたに等しいことだ。この屈辱を晴らさずにいられるものか!男子たるもの、落とし前はきっちりつけねばなるまい! !」 「だ、だからって、だからってなー」 言いかけたシリウスにスネイプは、人が殺せそうなほどの気迫のこもった視線を向け黙らせた。 「恋させて手ひどく振るのも、丹精込めて作った薬を台無しにするのも、侮辱するのも、心を傷つける点では同じだ!」 そこまで叫び、スネイプの体が沈み込んだ。 反射的に手を伸ばし抱きとめた。うずくまるようにこちらの胸に頭を預けるスネイプ……どうやら貧血を起こしたらしい。 はあ、はあと大きく息をしながら、スネイプは弱々しくもがく。 大嫌いなジェームズ・ポッターに、体を支えられていることが許せないらしい。 放せと切れ切れにつぶやくスネイプを、もちろん放り出すことなんて出来ない。 しっかりと抱えなおす。 放せとさらに呟くスネイプをますます強く抱えた。 「シリウス」 水を、と言う前にシリウスはカーテンの向こうに消えていた。 がちゃがちゃと、探し物をする音が響く。 スネイプは呻きながら目を開け、心配そうにそちらを見やる。 「動かないで、大人しくしてて、今シリウスが水を持ってくるから」 「ううっ」 「ほら、水―」 シリウスがコップを持って戻った直後、前触れなくドアが開いた。 手に手に杖を翳したスリザリン生たちがなだれ込んできた。 彼らは、自分、シリウスを見つけ、一瞬面食らった。 自分に抱えられているスネイプを見つけると、動きを止めた。 先を越された―彼等の顔にはそうあった。 踊りかかるように突っ込んできた一人を、身を翻したシリウスがかわし、首を殴りつけた。絨毯に沈む奴を、踏まないようにして、次々と追っ手を倒していく。 杖を取り上げられたときのため、体術を少し齧ったという彼は、無駄のない動きで立ち回る。団子のようにまとまっている奴等に、杖を振るう隙を与えない。 カーテンの向こうに消えたシリウスは、ジェームズと呼ぶ。その手には箒が握られている。 彼の意図が分かった。 寮の自分の部屋、ベッドの傍らに置いた箒を思い浮かべ『アクシオ』―取り寄せ呪文を唱えた。 シリウスが、手近にいた一人を踏み台に駆け上がり、箒に跨る。 ガシャンと窓ガラスが割れ、嘶くように身を震わせる箒が姿を現した。 愛用のニンバス70だ。 スネイプを抱き上げ、滑る様に足元に降りる箒に、足をかけた。 シリウスは懐から杖を取り出し、小さな稲妻を出現させ、追っ手に投げつける。投げつけた手で、自分自身に向けられた攻撃呪文をはじき飛ばす。 さまざまな色彩の呪文が飛び交う中、箒に飛び乗り、自分たちは逃走した。 「解毒剤を―」 これ以上騒ぎにならないうちに解毒剤を作らなくては……。 腕の中でスネイプが呟いたのが聞こえた。 |
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