◎ 午後茶会 ◎
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No.5 木曜日、両手に一杯荷物を抱えたシリウス達が戻ってきた。 シリウスは相変わらす目を合わせようとせず、でも、ルーピンに向かいただいまと小さく言った。 ルーピンは笑顔で『おかえり、シリウス』と声を掛けた。 「ルーピン!」 部屋に入り自分のベッドに荷物を置くなり、ピーターは包みを抱えて近づいて来た。 「はい、お土産」 にっこり笑いピーターは、大小さまざまのペロペロキャンディー詰め合わせとフラミンゴの羽のペンをくれた。 僕とシリウスからのロンドン土産だという彼の顔は日焼けしてすこし赤くなっている。 「この羽ペン、四人お揃いなんだよ!」 「そうなんだ、きれいなフラミンゴ色だね……ありがとう」 部屋の隅のほう、ジェームズのベッドの傍で、シリウスが、ジェームズにも同じものを渡している。 「書きやすそうなペンだな」 ジェームズは短い丈のペンを軽く振る。 「ああ、でも俺やお前は筆圧が高いからすぐぶっ壊しそうだけどな……」 肩の辺りに緊張を漂わせシリウスはぶっきらぼうに答える。 四人おそろいのものが欲しいと、ピーターが言い張ってこのピンクの羽ペンを選んだ。 この丈のペン、実は使いづらくてイヤなんだと、シリウスはジェームズに、ピーターとは対照的な機嫌の悪そうな声で呟いている。 背を向けこちらを見ようともしない、でも注意だけはしっかり向いている。馬が耳で音を聞くように自分とピーターの話を微妙に伺っている……。 「学校はどうだった?劇は上手くいった?」 いつになく饒舌にピーターは話しかけてくる。 「いつもとかわらないよ……劇は、羽の一杯付いた衣装を着た…」 あっちからこっちから写真をとられ、フラッシュが目に痛かった。劇が終わって着替えて楽屋になっている教室を出たら、カメラを抱え集まっている人たちがいたのに面食らった。制服姿の自分を見て、半分は『え!君男だったの!』という顔をした。 「ピーターはどう?サーカス楽しかった?」 「うん! !」 ピーターは大きく頷き、サーカスのほかにもおばさんのうちでおばあちゃんや従兄弟たちと集まってバーベキューをやったということ。ピーターは初孫で親戚の子供の中で一番お兄さんだった事もあり、小さい従兄弟たちを連れてダイアゴン横丁に買い物に行ったことなどを話してくれた。一番小さないとこのアンはシリウスに一目惚れした。大きくなったらシリウスお兄ちゃんのお嫁さんになると、片言で主張していたらしい。 「楽しんだんだね」 バカンスを満喫したらしい彼にそう声をかけた。 「……うん!」 ほんの僅か顔を曇らせ、ピーターは少し声を硬くする。 微妙な変化だった。 この反応はどういうことなんだろう……。 「いいな〜〜ピーター」 ジェームズが向こうから声をかけてくる。 「俺たちなんか用事をこなすばっかりで本当に何の変哲のない休暇だったよ、な、ルーピン」 「うん。あんまりらしくない休暇だったね……変わったことって言えば、あさってのスネイプのお茶会くらいだよ」 茶会。 ぴくりとシリウスは反応した。 「怖くないの?ルーピン?」 「なんで?」 「だって、あのスネイプの誘いだよ?何か、酷いことされるんじゃないかな」 「彼はそんなに悪い人じゃないよ」 視線を上げてピーターの肩越し、ジェームズの方を伺うと、シリウスの背中に緊張が漲っていた。 「むしろ、あのスネイプのお茶会だもん、どんな趣向があるのか今から楽しみだよ……」 シリウスが話を聞いているのを確認しながらルーピンは言葉を続けた。彼は見かけ上はジェームズと話をしているのでこちらに割り込んでは来ない。代わりにこぶしを握ってかすかに震わせている。怒りを堪えている。ジェームズはそんなシリウスを興味深そうに眺め何かべつの話をしている。 「行くの?ルーピン」 「もちろんだよ。この休暇中変わったことが期待できそうな唯一のチャンスだもん。ピーターはどうするの?」 「え?」 「お茶会だよ」 ピーターは動きを止め振り返り、シリウスを見やった。 シリウスが行くといえば、ピーターは行くのだろう。 行かないなら、きっとピーターも行かない。 それが分かっていながら、ルーピンは、ついもう一度訊ねた。 「行くの?行かないの?」 「……え……」 「しかし、スネイプも案外慌て者だよな。招待状に茶会が何時からか書いてないんだ〜」 招待状を掲げながら朗らかに言い放つジェームズにシリウスは呟く。 「……十一時半からだ」 「ん?」 「アマリー・クアントー略式招待状。文字の色はブラックシルバー。招待状にある主催者のサインが円で囲まれてる。この形式の招待状を出す茶会は百五十前から十一時半開始に決まってる」 シリウスはかすれた声で続けた。 「参加者は三十分前に集合。加えて言うなら服装も決まってる。普通のローブで行ったらバカにされるぞ。ミニフリルの付いたブラウスに黒のベスト、タイはクロか白か紺で、代理出席の場合は海老茶のリボンタイ。手袋はなくてもいい。でもはめるなら白の絹手袋。羽織るのは塵一つない黒のケープかローブ。靴はエナメルが定番だ」 「よく知ってるな」 「ああ、小さい頃さんざんぱら行かされたからな。不愉快極まりない茶会だ。あんなもんは茶会じゃない。十一時に行って半になったら主催が茶を入れて、サンドイッチが出てきて時計回りに皿が回って、茶を飲んで、ビスケットかスコーンがでてきて、また茶を飲んでケーキが三品、締めくくりはダージリンのストレートティだ……」 「……」 さすが、旧家・名門ブラック家の分家とはいえ跡取り長男。 心底いやそうなシリウスは、昔にあったさまざまなイヤなことを思い出しているのか、鋭く大きく息を吐き出した。 「……」 ルーピンが胃の辺りをさすっている。 シリウスの怒気に当てられたのかピーターまでもが大きく深呼吸を繰り返している。 「断るなら前々日までに手紙で知らせる必要がある。つまり今日中だ。形式は俺が知ってる」 一言やめるといえば、俺が書いてやる。 シリウスの目はそう言っていた。 「面白そうだ……」 「正気か?ジェームズ」 「考えようによっては、コレは挑戦だ。俺は招待状の形式のことも、開始時間や服装が決まってるのも知らなかった。ルーピンもピーターも。スネイプはそれを見越して招待状を出したのか?何も知らないで時間を訊きに行った俺を笑うつもりだったのか?それとも『己の常識は一般常識』と思ったのか……」 「……」 シリウスは黙った。まっすぐこちらを見やりながら何かを考えている。ルーピンとピーターが彼の肩越しに不安そうな視線を向けてくる。 あの、決死の覚悟で招待状を配ったスネイプのことだ、多分『己の常識は一般常識』のほうだろう。そんな旧家の茶会なんて参加したことはないが、スネイプだったらみんなが知っていて当然と思うかもしれない。 遅れたり、知らないことを伝えれば常識を知らない愚か者と笑われるだろう。 故意にしろそうでないにしろ、結果は同じだ。 「ホントに行くのか」 「もちろんだ。俺に招待状をくれたときのスネイプの顔、すごく必死だった……決死の思いで誘ってくれたのに、それを断るなんて可哀想だろ?」 本当はあんまり来て欲しくなさそうだったけど、そんなことは気が付かない振りをする。 「……」 シリウスは腕組みし小さく息を吐き出した。 指が所在無さ気にもぞもぞ動く。ジェームズはそこにお土産に貰ったペロペロキャンディーを一本差し込んでみた。 シリウスはそれに気づかない様子で、パッケージをはがし、軸をへし折り、見る間にばらばらに崩していく。 考え事をするとき、形あるものを破壊するのは、奴の癖だ。 暫くは、ばきん、ぼきんと、シリウスがキャンディーをへし折る音だけが響いた。 ピーターは左手で自分の右手を掴みゆっくり、大きく深呼吸している。 ルーピンは瞬き一つせずシリウスを見つめる。 無言で考えながらシリウスはやがて、自分のベッドに戻ると、買ったばかりのフラミンゴペンを取り出し、サイドボードに広げた羊皮紙に手紙を書き始めた。 |
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