◎ 午後茶会 ◎
)()((3))()()()()(10)(11

ぽたTOPへ
No.3

今日は聖パトリス大祭初日。
学校内はバレンタインとはまた違った活気に包まれていた。
大理石の像の並ぶ廊下は綺麗に飾りつけがされ、いつもの教室が水族館や森林、ロンドンの街角にあるようなカフェになっている。廊下を行き交う人の中には、制服以外のローブ姿の父兄も見られ、さながらタイアゴン横丁が出張してきたようだ。

ただ、地下牢教室。
ここだけはいつにもなくしんとしていた。
すり鉢状に座席が設置されたこの教室は、年代を感じさせる石造り。生徒二十人が並んでかけっこできる広さがあり、昔本当に人を投獄していたそうで苔むした石壁にはなにやら妖しげで不定形なシミが点在し、鉄格子こそないが、人を威圧するように穿かれた灯り取りの細長い窓から射し込む白い光がなんともいえない哀愁を漂わせていた。
普段は魔法薬学の授業で使われるここは、魔法薬学担当教官、ルビウス・ショーの独断で、例年『世界のお菓子展示場』になっていた。
今年は彼が趣味で参加している『新しいお菓子作りコンテスト』の方でとても大きな賞をとったらしくその表彰式に出ていて開催は三日目からになっていた。

展示準備の出来ていないこの教室だけは、ジェームズとルーピン以外に人影はなくしんと静まり返っていた。


「うそ……」

ジェームズの話にルーピンは固まった。
「ほんとうだ」
ジェームズはルーピンの方を見ずにそっけなく答える。
「……」
ジェームズは湯気の立つ鍋にほとんど覆いかぶさり、液面に浮かぶ灰汁の流れる方向を見ている。
注意深くトネリコの木匙を入れながらゆっくりかき回す。
液面の灰汁の模様が『∞』の形になったら今度はそこに試験管の中の液体を入れる。灰汁が渦を巻き始めたらもう一息で完成だ。匙でなかみを掬い、乾燥した鬱いちごの破片をひとつまみ加えべつの試験管に入れる。
後はコレが冷えるのを待てばいい。
目の高さに持ち上げたそれを振りながらジェームズは思った。
そこでようやく顔を向け、ジェームズはルーピンが青ざめているのに気が付いた。

ルーピンが顔色に表すほど動揺するなんて、珍しいことだ。

「どうした?」
「……まずい、まずいよ」
ルーピンは大きく深呼吸しながら訴えるように言い放つ。
「?」
ジェームズは言われている訳が分からす、とにかく座れとルーピンをイスに座らせた。
「ちょっと、深呼吸していい?」
訊ねるルーピンは余程動揺している。
いいよというと、ゆっくり、大きく深呼吸を始めた。

先ほどまでルーピンは、自分に、『薬』が効いていた時の様子を話してくれと迫っていた。丁度、細かい作業をしている時だったので、あとにして欲しいと言う自分に、ルーピンはそれでも今聞かせてくれと食い下がった。
なにやら思いつめた様子の彼に、自分は薬草を刻みながら数ヶ月前の出来事を話してやった。

数ヶ月前、スネイプが自分と悪戯合戦をして決闘の末クィディッチ競技場を水浸しにしたとされる事件が起きた。

真実は、少し違っていた。

真実は、ちょっとした事故から、スネイプが誤解をし、自分ジェームズ・ポッターが逆恨みを受け、彼が復讐のために作った魔法薬で関係ない人々をも巻き込み騒ぎになった、というもの。
自分、シリウス、ルーピン、ピーターはそろって薬を盛られたが、どういうわけか自分にはまったく効かず、ルーピンと自分&シリウスはどちらが先にスネイプを捕まえるかで争った。シリウスの機転で先にスネイプを捕獲した自分たちは、彼に協力して事態を収拾することになった。
手始めにルーピンに解毒剤を投与した。ルーピンは少々暴れたが結果として元に戻った。シリウスは涙を流さんばかりに喜んでいた。そして後は、手っ取り早く事態を収拾するために立てた作戦で、結果としてクィディッチ競技場が水浸しになったというもの……。
スネイプの魔法薬を飲んだ人々に記憶がないのをいいことに、みんなに受け入れやすいように分かりやすいところだけ掻い摘んで事実を伝えた。

校長先生にもそう報告した。
校長先生は、白いひげを撫でながら、喧嘩するほど仲がいいのは結構なことじゃが、ちと、やりすぎじゃの、と呟き意味ありげに自分を見やった。そして、こちらの嘘八百(スネイプはそんな顔をしていた)に驚くスネイプに、今度からそういうことは恥ずかしがらずみんなを巻き込まないように直接行きなさいと、意味の分かるようなそうでないような微妙なことを言っていた。

二人で仲良く罰を喰らい学校の廊下と競技場の掃除をした。

よく、喧嘩してお互いのわだかまりが解けて仲直りできる、というのがある。実は密かにそれを期待していたが、だめだった。罰掃除中スネイプはまるで自分が存在していないかのような振る舞いだった。用事を頼んでも返事もせずに、ただ黙って動作で示すだけ。
一緒に事態を収拾していた時は、言葉数も多くてとてもいい感じだった。コンビを組んでもいける!位に思っていた。
なのにそれが終わったら、話しかけても返事もしてくれない。
謹慎騒ぎ、下手したら放校にだってなるかもしれない大騒動を何とか上手くごまかしてあげたのに……。
べつに感謝の言葉が欲しいわけじゃない、けど、話しかけたら返事くらいして欲しかった。

スネイプは、純血名門貴族のふるーい家柄の出。
深窓の令息のせいか、一般世間の常識と微妙にズレたところがある。
言葉遣い、立ち居振る舞いもそうだが、今時、時々とは言え袖と襟に地味にフリルの付いたブラウスを着るのは、スネイプとその他少数の超純血主義者だけだろう。
まあ、スネイプの場合は違和感なく、むしろとても似合うからいいとしよう。

一部で『ホグワーツ闇の貴公子』と噂されるスネイプだが、そのズレっぷりが妙におかしくて、たまらなくかわいい。が、スネイプはそのへんのことをまったく分かってくれない。
おまけに対教師用に言った『いつでもリベンジ待ってるよ』のセリフを真に受けている節がある……。
シリウスが疑ったのもきっとその辺を心配してのことなんだろうと思う。

逆恨みされ、仕掛けられ、助けてあげたのに、また恨まれて復讐される……。

それが切ない。

ジェームズは試験管を懐に入れる。

イスに座ったルーピンがすっくと立ち上がり、こちらを見る。


)()((3))()()()()()(10)(11

ぽたTOPへ