◎ 午後茶会 ◎
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No.10

くたりとジェームズ・ポッターの頭が地面に落ちた。
奴はいきなり眠りに落ちた。
一体何があったと訊ねると、ペティグリューがべそをかきながら『ジェームズがいきなり薬を飲んだ』といった。
地面に散らばるハートの結晶……かなり色が薄いが間違えるはずがない。これは―
「『恋薬』だ」
シリウス・ブラックが吐き捨てるようにいう。
「何でジェームズがこんな下種なもん持ってるんだ?」
今までの品のよさをかなぐり捨てるように、ブラックは髪を止めているクリップを乱暴に抜き取り頭をかいた。

ヤツは、コレを何故持っていたか……。

「それは知れたこと、私に使うつもだったんだ」

おのれポッター、貴様は復讐の機会を狙っていたのだな。
私に薬を持って、自分に惚れさせて、手ひどく振るつもりだったのだろう……。

なんと卑怯な奴だ……。

だが、少し前、同じ過ちを起こした私としては、面と向かってポッターを責めることは出来なかった。

ルーピンにひざを借りているポッターの傍による。
首筋に手を当てると、力強い拍動が感じられた。
だが指先は冷たい。
「……」
ルーピンが首をかしげながら傍らの試験管の中の結晶を取る。一つつまんでぽいと口に放った。
「これ『恋薬』じゃない。ショー先生の『幸福の飴』と同じ味がする」
「幸福の飴?」
なめると少しだけ幸せな気持になる……ルビウス・ショーの新しいお菓子。
「でも、でも、でも、いきなりジェームズどうしちゃったの?」
ペティグリューが半泣きで訴える。
青い顔をして戻ってきて、席についても上の空で、まるで毒をあおるように、薬を一気に飲み下した。

ペティグリューはおかしなことを言った。
ポッターは恋薬を誤飲したのではなく、自ら大量にあおったという。

なぜ?

疑問が残る。
用がなくなった薬なら、捨てればすむこと、なのに、いやみたらしく飲んでみせるなんて……どういうことだ?

「スネイプ、何か知ってる?」
「お前の後追っかけてから、急に様子が変になった……ジェームズに何いったんだ?」
ルーピンが、ブラックが探るように目を向けてくる。
「……お前の企みには乗らないと告げただけだ」
「……ああ」
「スネイプ……」
首を振りながらルーピンたちは顔を伏せる。
「確かに、言い方はきつかったかもしれない」
だが、何が悪いと言うのだ?
お前の取り巻きにはならない、馴れ合うつもりはないといっただけだ。
「ジェームズは、別に企みなんかなかったって思うよ」
「グリフィンドールがスリザリンの私に何の下心もなく仲良くしたいなどと言うのか?」
寮が同じなら、あるいは信用していたかもしれない。
授業以外で接点のない他寮生が友人関係を求めてくる。
まして、スリザリンを目の敵にしているグリフィンドールが、何の利益もなく近づいてくるなど考えがたい。
一年生から七年生まで、皆己の所属する寮の優勝を願っている。他寮生の友情など、所詮卒業までのこと。
提供しあえる情報がなくなってしまえばそれで終わり。
そんな未来が分かりきっているのに、わざわざそのために貴重な時間を避けるものか……。

「……おまえ、なんか、かわいそうなヤツだ……」
「なんだと?」
「今までお前の周りには下心のあるヤツしか寄ってこなかったんだよな?だからジェームズが信じられないんだよな?」

そんな人間関係しか知らないお前がかわいそうだとブラックは優しい目で言った。

黒い髪のブラック、奴が一瞬父に見えた。

人間はね、全部自分で決めてるんだよ。
どこへ行くのも、誰と付き合うのも。
望みどおりって言葉があるけど、まさにそれだよ。
人に引きずられたって言う人がいるけど、それはうそだ。納得しているにせよいないにせよ、自分でその人の意見に従おうって選択をしているから、そういう風になるんだよ。
セブ、人間は下心のある人ばっかりじゃない。
なんの見返りもなく、ただ好意からお前と仲良くなりたいって言う人が必ず出てくる。
そのときにその人の言葉が信じられないのは、とても悲しいことだ。
お前にとっても、その人にとっても。

「……」
心臓をわしづかみにされた気がした。
何も、言えなかった。何を言ったら良いのか分からなかった。

ただ、無性に悔しいと思った。
なぜブラックにそんなことを言われなくてはいけないのか、悔しくて、情けなくて涙がでそうだった。

「……」
ふと気が付くとポッターが目を開けこちらを見ていた。
黒い瞳の底には鈍く光る桃色の閃き。
「ジェームズ!」
「大丈夫?」
「お前なにやってんだよ!」
「……」
掛けられる言葉には一切反応せず、ポッターはこちらに手を伸ばしてきた。
「逆らわないで!」
反射的に身を引いた私に、ルーピンが鋭く叫んだ。
「逆らっちゃだめ!恋薬が効いてる時に拒絶されると、ものすごく悲しくなるんだ」
悲しくなって、相手を追いかけて是が非でも分からせようって言う気になる。
「つまり、奴の好きにさせろということか……」
「それが被害が一番少なくて済む方法だから」
「……お前、薬効いてるときの記憶……もどったのか?」
ブラックがおそるおそる尋ねる。ルーピンは両目を大きくしたが、薬が効いている時はそんな感じなんだよと苦笑いした。
ポッターが手を伸ばし、こちらの目元に触れる。
目の下を、涙をぬぐうようにして触る。
「なかないで……」
悲しそうに目をゆがめながらポッターは起き上がり、私の背中に手を回した。
「〜〜〜」
声なく悲鳴を上げる私に三人はそろって『耐えろ』と視線で告げてきた。
片手が頭を抱き、背中を締め付ける。
私はポッターの肩に顎をのせたまま、じっとしていた。
ひとしきり触って満足したのかポッターは腕を放すと、今度は手を握ってきた。
「……」
まっすぐ見つめられる。
ものも言わず、奴はじーっと、惚けたように私を見つめる。
「……ジェームズ、気分はどう?」
「……」
「どっか痛いところない?」
「……」
ルーピンとピーターの問いかけには答えず、ポッターはじっとこちらを見ている。
「気分はどうだポッター?」
見つめられる気まずさに、答えを期待せず聞いてみた。
「うん。悪くないよ」
予想に反してポッターは微笑み言った。
「どこか、痛いところはないか?」
訊ねるとポッターは目をしかめて言った。
「……胸が痛い」
「倒れたとき打ったのか?」
「そうじゃない。ずっと、すっと前から胸が痛いんだ」
じわりと黒い瞳に涙が浮かぶ。
ブラックが面食らった顔をして思わず一歩あとずさる。
ペティグリューもルーピンも固まっている。
そうこうしているうちにポッターはちゃっかりこちらの胸に顔を埋めて、甘えてきた。
「痛い。痛くて、苦しくて、死んでしまいそうだ」
「……」
どうしようもなく、甘えられるままに胸を貸して、私は奴の背中をさすった。


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