◎ 午後茶会 ◎
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No.11

いうなればこれは、自業自得だとシリウス・ブラックは言った。
リーマス・J・ルーピンも気の毒だとは思うけど、僕もその通りだと思うと言い放った。
ピーター・ペティグリューだけは、スネイプがんばってねと、励ましのような言葉をくれた。

ポッターは私から離れてくれなかった。
茶会の片づけをしているときも、隙を見て温室の外に出たときも奴はちゃんと傍らにいた。そして私に触りたがった。
もっとも、手を握る以上を仕掛けてくることはなかったが、必ず右隣に座り、私の利き手である右手に左手を絡ませ、右手を使いたいから手を離してくれというと、代わりに自分がしてあげると微笑む。
ちゃんと受け答えはするが、桃色の閃くぼんやりとした目で見つめられ、下手に逆らえば行動がエスカレートするかもしれないとルーピンに脅され、なすがままだった。
「いつまで薬の効果は続くんだ」
茶会後、片付け終を終え、温室を後に、今はグリフィンドール寮にいた。
本当なら一秒で早く自室に帰りたかった。
だが、しっかり握った手をポッターが離してくれず、一緒にいられないなら自分がスリザリン寮に行くと言い張るので仕方なくここに来た。
「俺に聞かれてもな〜」
普段着に着替え終わったブラックがため息を付く。
「僕たちのときはどうだったの?」
やはり普段着に着替えたルーピンがジェームズの傍らに立ちながら訊ねる。
「ピーターは確か昼過ぎくらいまでだったな……ルーピンは……」
「……」
解毒剤を投与するまでそのままだった。
「〜〜」
不幸なことに、薬は溶けて地面に吸い込まれてしまった。
結晶が不安定だったのか、長時間空気に触れているのが耐えられなかったらしい。分析しようにもお手上げだ……。

ポッターはのんきに略装姿のペティグリューと旅行の話をしている。ストーンヘイジの妖精のダンスがマグル界のアイリッシュダンスの原型だといい、ペティグリューにアイリッシュダンスはタップダンスの原型にもなったんだよね〜といわれ、そうなのかそれは知らなかったと感心していた。

どうやらポッターは自分で作った薬のせいで少し頭の風通しが良くなっているらしい。

話をする間も、奴の指はこちらの手に絡んだままだ。
時折、感触を確かめるように親指がこちらの手のひらを撫でる。握り返してやらないと不安そうにこっちを見つめ、今にも泣きそうな、それでいて凶悪な目をする。
「とりあえず、半日は様子をみるしかないと思う」
「うう」
半日も、コイツに手をつかまれたまま、べったりされたまま過ごすのか……。
「半日経過してどうしようもなかったら、仕方ない。ショー先生にお願いしに行こう」
本当は今すぐにも行きたい。
だが、考えてみたら、何故ポッターが薬を飲んだのかも含め少し込み入った事情を説明しなければならない。
もし、先生の機嫌が悪かったら……来週末の茶会に来なくていいと言われてしまうかもしれない……。

それだけは、嫌だ。
どんなことがあろうとそれだけは嫌だ。

視線を感じて顔を向けると、ポッターがもの問いたげにこちらを見ていた。
コルト・コヴィニヨンの略装のままで。
「どうしたポッター?」
「……うん」
何も言わずポッターはぎゅっとこちらの手を握った。
バカ力に声なく悲鳴を上げると奴はゴメンと謝った。
「着替えたいんだけど、手伝って」
「はっ何故私がお前の着替えを手伝わなくてはならない?」
「……」
言ったらポッターはむっとした。
手を掴んだまま立ち上がりいきなり私の胴体を掴んで担ぎ上げた。
「なにをする〜〜」
非常に身の危険を感じた。奴は無言で私を担ぐとのしのしと一つのベッド(奴の陣地)へ向かい歩いていった。
ペティグリューが喉元を押さえ大きく深呼吸をしている。
「ルーピン!ブラック!」
こちらの叫びに我に帰ったルーピンが、とめようか、どうしようか悩んでいる。
「ジェームズ、しつこくすると嫌われるぞ」
腕組みしながらブラックが言う。
ポッターはまるでOKというように片手を挙げる。
「二人きりにしないでくれ」
カーテンが引かれ、奴が空間閉鎖の呪文を唱える。
その隙を突いて腹を殴りつけカーテンの隙間から這い出る。
ここがどこか、そんなことは頭になかった。
はしごを下り、入り口へ向かう。
グリフィンドールの寮生たちが突然の私の出現にぎょっと目を剥く。入るときルーピンが唱えた合言葉を唱えると、グリフィンドールの貴婦人は、あなたはスリザリンじゃないのと驚きの声をあげた。

そのまま自室まで逃げ戻った。
親衛隊は急に姿がみえなくなった私を探して大捜索をしている最中だった。
咄嗟に、具合の悪くなったルーピンとペティグリューを奴の寮まで送っていったと言っていた。
その日は、夕食もそこそこに倒れるようにベッドに入った。
夜中、ポッターが窓から忍び込み、私のベッドの傍らまで来た夢を見て飛び起きた。でも夢と分かって安心した。
とにかく眠る。ひたすら眠ることにした。



翌日。
朝も早くからポッターたちが寮の前で待っていた。
ルーピンがしどろもどろになって『昨日天気が良かったらピクニックに行くって言ってたじゃない』と周囲に聞こえるように言っていた。
お弁当が用意してあると、傍らの空間に籐の大きなトランクを二つ浮かせたポッターが昨日よりも桃味の濃い瞳で笑った。
ブラックもペティグリューもルーピンも寝不足なのか少しやつれた顔をしていた。
ポッターだけはとても元気で昨日よりも強い力で私の手を握る。人目があるのでそれで放してくれたが、奴の目は言っていた。もう放さないと。


昨日は手を握るだけで済んでいたポッターに今日は片腕をがっちり組まれホグワーツ城近くの何の変哲もない林道を歩く。
後ろからは親衛隊が付かず離れずついてくる。
「目障りだな」
視界の端に親衛隊を捕らえたポッターが今にも暴走しそうな危なげな目で言う。
ブラックが、お前とスネイプのなかよしっぷりを見せ付けてやれば?とフォローを入れると奴は、何も言わず大人しくなった。
道の端で薬草を何種類か見つけた。だがどれも収穫するには時期が早い。少ししたらとりに来ようと周囲を見渡していたら、急に腕を引かれ、むっとした顔のポッターに睨まれる。

まるで駄々っ子だ。
気に入ったペットが余所見をしたから叱る……そんな感じだった。
思いついた。
奴が私に惚れているなら……この作戦が効くかもしれない。

「そうやってあまり我がままを言っていると、嫌いになるぞ」
案の定ポッターは目を見開いて動揺した。
「セブルス……俺のこと、嫌いだったんじゃないの?」
「……」
ポッターは思ったより賢かった。
言葉に詰まった刹那、よろけるようにして奴は私を林に押し込め、木に押し付けた。
「ちょっとは、俺のこと、好きでいてくれたの?」
襟を掴み顔を伏せポッターは私にすがるように呟く。
ちくちくと胸が痛んだ。
ウソでもいいからそうだと答えてやればいいのかもしれない。
でも、ウソはウソと分からないから痛みを覚えないだけで真実が分かれば、どうしようもない痛さを伴う。
「……私はべたべたされるのが嫌いだ。……私が構って欲しいときに構ってくれる奴が好きだ……お前は……タイミングが悪い。私が一人になりたいときにいつもいつも現われて言葉をかけいく」
気が付けばいつもいつも私を見張っているポッター。
「私は監視されるのが何よりも嫌いだ」
やっと心の整理をつけたときに現われ、考えをかき回すポッター。
「そのつもりはないのだろう。だが、励ましの言葉は時として心をえぐる鋭利なナイフになる」
顔を伏せるポッターの襟首を掴み、仰向かせる。
情けない顔をして奴がこちらを見上げる。

「すまないな、私はこんな自分勝手な人間なんだ」

だからポッター、早く正気にもどれ。
「どんな魂胆があるかもういい。正気に返って私に構わないでくれ」
「……」
ポッターは目を閉じた。
顔を伏せたいのだろう。私が襟首を掴んでいるからそれもかなわず苦しげに眉を寄せる。

暫くそうしていた。
ポッターはゆっくりと目を開け、両手をこちらの首に回してきた。
奴は再び目を閉じ、顎を上げた。

奴は私よりも少し背が低い。
それは丁度私が顎を下げ、やつが上げればお互いの唇が触れう程度の差で。
「……」
気が付いたら私は、ポッターにキスをされていた。

下からのキスは逃げにくい。巻きついた腕のせいで首が押さえられ、左右、上、どこに避けることも出来ない。

悲鳴を上げようとしても、声は奴の口に飲み込まれる。

首に巻きつく腕に爪を立てるがびくりともしない。

そばにいるはずの、ルーピンたち、親衛隊の気配がまったくしない。

呼吸をとどめるほどぴったりと張り付く唇に酸欠で頭がくらくらしてくる。そうなって奴はようやく唇を離した。

「い、いきなり、何をする……」
「……」
ポッターは何も言わず、ただ悲しそうな目をした。
間が持たなくて、私は奴をひっぱたいた。
そのまま踵を返すとこれ以上なく足音をさせその場を去った。
「だって、俺、それでも好きなんだ」
背中に言葉を浴びせられた気がしたが、気のせいだと思った。
はじめてのちゅうだった……。
はじめてのちゅうは甘いと表現されるが、何の感動も感慨も浮かばなかった。でもなぜか目に染みて痛くて目があけていられず思わず涙を零してしまった。
「好きなんだ」
もう一度呟きジェームズは目を押さえて座り込んだ。
目の奥がうずく。そして程なくして彼の頬を桃色の涙が伝い落ちる。
難しい。
雑誌の通りに作った恋薬。
既に心に決めている人がいるときは効かないときいて、万が一のために、涙を染める発光液も入れておいた。本当は薬は効かなかった。でも、思い知った。やっぱり自分はスネイプの薬が効いている。茶会であおった薬が本当は薬が効いてないとあの時シリウスにはすぐにばれた。でも彼は事前に打ち合わせもしていないのに何も言わないで話を合わせてくれた。

ちゃんと見極めないと痛いぜ?

苦笑しながらシリウスは感情と戦って気持の整理をするのは難しいと教えてくれた。
スネイプに触っているとき、胸はほとんど痛まなかった。
むしろ幸せだった。えもいわれぬ幸福感に酔っ払ってついついちょっかいをだしスネイプに嫌がられた。
よりにもよって自分を嫌ってる相手を好きになってしまうなんて。いや、好きになったと錯覚しているなんて。
解毒剤が欲しい。
副作用があってもいい、すぐに効く解毒剤が欲しかった。
万が一にもスネイプが自分を好きになってくれるなんて、考え難かった。
でも、もしかしたらという淡い期待も捨てきれない……。
突然のキス。本当だったら噛み付かれたって文句は言えない。スネイプはそれをしなかった。

もしかしたら、上手くすればこの胸の痛みを癒す薬を彼がもたらしてくれるかもしれない。


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