◎ チアーズ ◎
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これ見よがしにブラックにからむルーピンを、どうすることもできなかった。
ブラックたちのほうを私はみられなくなった。
廊下などで楽しげに笑いあうブラックたちと行き会うと私はひたすら心を凍らせた。
考えてみれば元に戻っただけだ。
最初はこうだった。
ブラック、ルーピン、ジェームズ、ペティグリューのグリフィンドールの四人組と私。
ブラックと私は何故か合わなくて、寄ると触るともめていた。
今考えればあれは、お互いの表現方法の違いを許せなかったから起きた出来事だったのだろう。
紅茶開発クラブもすっかり足が遠のいたある日、私は意外な人物に呼び止められた。
「なんだ?」
人付き合いもすっかり面倒くさくなり、最近の私はどんな人にもトゲトゲしい。
不機嫌に返した私に、眼前のピーター・ペティグリューは一瞬で体を強張らせた。
「あ、あの、あの、あの……」
「……」
「あの、あの、…………………………」
「はあ」
これ見よがしにため息を付いた私に、ペティグリューは小さな体をいっそう小さくした。しかし、今日のヤツはいつもの奴とは違っていた。
「僕に、魔法薬学を、教えてください!」
「……」
「僕、次の試験で一番を取りたいんだ」
「おまえそれは私に対する挑戦か?」
私は魔法薬学で常に一番の成績を維持している。
二番になったのは過去に一度しかない……。
「ち、違!あの……僕どうしても次の試験で三科目一番を取りたいんだ。自分だけの力で」
「……」
いきなりだった。
私はペティグリューを森の泉に連れて行った。
詳しく話を聞く。
「僕とルーピンのこと知ってる?」
いきなり胸にくいを打ち込まれた気分になった。
こいつが、ペティグリューがルーピンを振らなければ……いや、止めておこう。ペティグリューがどう行動しようが、それはそれだ……。
「別れた」
「え?!僕たち、別れてないよ。ちょっと距離を置いてるだけだよ」
ペティグリューの返事に私が驚いた。
「本物の女子の方がいいからと振られたとルーピンが……」
そういったらピーターはため息を付いた。
「やっぱり、僕の話聞いてなかったんだ」
「どういうことだ?」
「……」
ペティグリューの言うことには、ルーピンと付き合い始めてペティグリューは奴に依存をしていく自分に気付いた。

ルーピンはなんでもしてくれる。
朝起きたときから就寝するまで、身の回りのことはいうに及ばず、奴が不安を感じているときはここぞというタイミングで宥めの言葉をかけてくれる。要するに、物理面、心理面の世話を焼いている。
「僕、このままだったらルーピンによりかかっちゃう。なんでもかんでもルーピンにやらせちゃう。ダメなまま、世話を焼かれるだけのピーターになっちゃう」
男として、愛する人を守りたいと思っても、そんな度胸も育たない。
「シリウスが、場数を踏めばケンカは強くなる。それと同じで臆病なのも自信がないのも直るって言ってくれたから」
自分に試練を課すことにしたとペティグリューは言った。
まず、自分で出来ることは自分でしようと思った。
朝の身支度、授業の用意、予習、復習など(そんなことまでやらせていたとは……)すべてルーピンの手を断った。
ルーピンは当然思う。どうしたんだろう?そして、不安になったらしい彼は、ある日聞いてきた。
「ひょっとしてピーター、僕のこと迷惑?」
説明をした。
自分は強くなりたいと、自分だって男だから、好きな人を守れるくらい強くなりたいと。
「しばらく、僕の気の済むようにさせて。僕を助けないで」
ルーピンは分かったといってくれた。
自分で一つ一つ設定した課題をクリアしていった。
神経性の腹痛に見舞われて苦しかったけど、がんばった。
ルーピンが何度か手を差し伸べてくれたけどその度ごとに断った。
何度か断っているうちにルーピンも納得してくれたのか手出しはしなくなった。
変わりに別の友人関係が出来上がった。(女友達が多いけど)
求めれば与えられるというけれど、皆それぞれ特技を持っていた。
国語の得意な子、魔法史の得意な子。皆で集まって勉強した。
ルーピンはその様子を黙って見てくれていた。
距離をおきたいと自分から言ったから、その希望にもこたえてくれているんだと思っていた……。
ある日、ルーピンがみんな可愛い女の子ばっかりだね?どんな子?と聞いてきた。
仲良くなった友達のことを話した。
ルーピンはいちいちに頷いて聞いてくれた。
「好きなんだね……」
「うん」
皆、大好き。もちろん友達としてだ。そういったつもりだった。
「わかった」
ルーピンは笑っていった。
「……そういうことなら身を引くよ……」
「え?」
「分かったから」
「ルーピン何か勘違いしてる?」
「もうわかったから」
どこか上の空のルーピンの様子が気になった。
今度の試験で必須科目のうち三科目で一番をとる。そして今度は自分のほうからルーピンに告白する。
そう決めたけど……。

「やっぱり僕の話聞いてなかったんだ……」
「……」
ため息とともに吐き出されるペティグリューの言葉は……非常に衝撃だった。
つまりは、ペティグリューに振られたと勘違いをしたルーピンに……私たちは振り回された……?
「ルーピン頭いいから、人の話推測で聞いて全部聞かないところあるから……心配はしてたんだけど」
ばかめ。ルーピン……。おまえ……。
「ペティグリューひとついいか?ルーピンのそういうのは頭がいいとは言わない」
せっかち、きめつけ、または
「思い込みが激しいというのだ」
「うーん……」
うなだれるように唸るペティグリュー。
まてよ、このことを、ルーピンとペティグリューのことを奴らは知っているのか?
「ペティグリュー、そのことをブラックやポッターは知っているのか?」
「みんな?」
どうだろう?
「あ、でも、ジェームズに、お前たち別れたのか?って聞かれて、ちがうって言ったけど」
「……」
つまりは、ポッターだけは、真相を知っている。ポッターが知っているならブラックだって知っている可能性は高い……いや、でも知っているなら……。

おまえは俺の気持ちを疑っている。

そういわれた言葉がよみがえる。

……もし、私が最初からこのことを知っていたら、私はどう振舞ったろう……?
最初からこのことを知っていたら、ブラックとこんな風な状態にはならなかった。
疑うとは、奴の言う疑うとはこういう意味だったのか……。
奴としては、私がペティグリューとルーピンの一件を知らない状態でもいつもと変わりなくいるものだと考えたんだろうか……。
「あの……」
ペティグリューの声に我に帰る。
「予習も復習もやりますから、僕に魔法薬学を教えてください」
ふかぶかと頭を下げられる。
「……」
気持ち的には、それどころではなかった。
今すぐ、ブラックに会いに行き、話を……。
「まって!」
駆け出した私の腰に抱きつき、ペティグリューはいう。
「お願い!します!」
ペティグリューは真剣だった。
「……分かった!分かった!教える」
何でも教えてやる。
「だから放せ!」
「じゃあ、じゃあ、明日、放課後、図書室で」
「分かった、分かった!」
弾き飛ばすようにペティグリューを振り払い私は走りだす。
走りながら、考えを纏める。足が止まった。
なんといってブラックと話をする?
お前を疑って悪かった?
私は疑ったつもりはない。
誤解していた。悪かった。
それで、納得してくれるだろうか……。
重くなった足を引きずりながら、私はグリフィンドール寮へ。
入口でブラックを呼んでくれるようマダムの肖像画に頼んだら出てきたのはポッターだった。
「シリウスは今取り込み中で、たとえ君でも会えないってさ」
ブラック……。
怒っているんだろうか……。激しく怒っているんだろうか……。
そう考えたら胸ががぎゅうっと縮まった。
「あー、そうじゃなくてさ」
表情に出たのか?ポッターは片目を瞑りながら、これはナイショだけどシリウスは誓いを一つ立ててて、それをまっとうするためにがんばっているといった。
そうだ、私はこいつにも聞きたいことがあった。
「ポッター、ルーピンとペティグリューのことを知っているか?」
「何が?」
「奴らはお互いに主張が食い違っている。ルーピンは振られたといい、ペティグリューは別れていないという」
「うん」
「うん?」
うんだと?
知っているならなぜ!
「なんで教えてやらないんだ!」
最初からお前が教えてやれば、ルーピンも苦しまなかった。私たちも……。
頭をかきながらポッターはどうしようかなぁと言う顔になった。そして口を開く。
「……こういうのってさ」
外野がとやかく言ってもどうしようもないもんだから。
「みんなさそれぞれに目的があって行動している……それぞれの行動が、それぞれの利益になったり不利益になったりしてるわけで、でもお互い友達な以上多少の誤解は覚悟の上で一緒にいるわけで」
要するに、いろんな事情があるんだよ。
「俺にも、ルーピンにもピーターにも、もちろんシリウスにも。じゃあ、悪いけど俺も忙しいから」
次の試験で五科目以上一位を取りたいから……。
ポッターは言い捨ていなくなる。
「……なんなのだ……」
五科目以上一位……。ペティグリューも三科目以上一位と……。
分けがわからない。
ペティグリューは決意を込めた試練がある。
ブラックも何かを求めがんばっている。ポッターも同じ……。


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