◎ チアーズ ◎
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周りからの圧力というのは恐ろしい。

がんばれよ、とかシリウスを幸せにしてあげてね、などといわれ続けるとだんだんその気になってくる。
ブラックは毎日のように私のところにやってきた。

一緒にいる時間が長くなればなるほど私は奴の純粋さに心惹かれて行くようになった。

変なところで臆病なのも慣れれば可愛い。何よりいいのは、ブラックの世話好きなところだ。
ワイシャツにアイロンを掛けてくれる。靴もぴかぴかに磨いてくれる。
それがプロフェッショナルのできなので私はとても助かっている。
礼にシリウスのワイシャツにアイロンを掛け、靴を磨いてやると、奴もとても嬉しそうに笑う。ありがとうといってもらえると、もっと喜んでもらいたいという気持になる。

ブラックの炎天下ではじけた綿花のような笑いがとてもいい。

理屈っぽい私の話をやつはよく聞いてくれる。
時々首を傾げつつ納得したような返事をする。そして全然違うことを言い出す。
それが面白い。
感情的な奴の話を私も良く聞くように努力する。
整理して、こういうことか?ときくと奴は、そうそうとうなずく。

ルーピンの時のようにさくさくと会話は進まないが、そのしどろもどろさ加減がとてもいい。

だんだん奴がいとおしくなってきて、夜も一緒に過ごすようになった。

しかし学生の身なのでそうそう一夜を過ごすことなどかなわない。

暇を見つけては、森の泉で逢瀬を重ねた。


あるとき、森の泉へいくと、そこにはルーピンがいた。

目に一杯涙を浮かべてルーピンは泣いている。
どうしたと聞く我々に、ルーピンは力なく一言。
「……ふられちゃった……」
「……」
「……」
「本物の女の子の方がいいんだって……」
「……」
「……」
顔を見合わせるしかなかった。
涙を流すルーピンを放っておくわけにも行かず、私たちはルーピンのそばに無言でいた。
暫くルーピンは元気がなかった。
シリウスは友人としてルーピンを慰める。
わかってはいたが私は面白くなかった。
わかってはいたが、ルーピンに嫉妬する自分を止められなかった。

もともとシリウスはルーピンが好きだった。

…………。

それを考えると私はとげとげしくなった。
シリウスは態度の変わった私に問う。
私は不安を吐き出した。
シリウスは怒り出した。
「俺が信用できないのか?」
「信用するしないの問題ではない!」
「そういう問題だろ?俺の気持を疑ってるんだ」
「そうじゃない」
「そういうことなんだよ!!」

言葉が通じにくいというのをこのときほど呪わしいと思ったことはない。

シリウスは怒ったまま行ってしまい。
私も怒っていた。

謝ってきても許してやるもんかと思っていたが、奴はルーピンといることが多くなってこちらには来なくなった。

……。


森の泉に行く。

一人になってこの静けさに身を沈めていると、形容しがたい淋しさを感じる。

なぜ、こんなことになってしまったのか……。

なぜ、私はここに一人で座っているのか…。
隣を見る。
何もない緑のじゅうたんがひろがっているだけ。

奴の気持ちを疑った……。
そういうつもりはない。
ただ、私は、私を抱きしめたのと同じ手でルーピンを触ってほしくなかっただけだ。
嘆くルーピンを、細いその肩に置かれる手を……。
ルーピンは……可憐だ。
小さくて、華奢で、すこし長めのローブをまとい、ちょこちょこと歩くさまが非常に可愛らしい。
性格もいい。明るくて、時に大胆で……。素直で……。
三つ編に編んでも腰までくるその髪はとび色で……瞳も明るい茶水晶で……ときどき金色がかって見える様が、少女と見まごう顔立ちと相俟って、形容しがたい魅力をかもし出している。

私に勝ち目はないのかもしれない。

私は華奢でもなければ、明るい性格でもない。
人からは口うるさいと言われることが多い。

私がルーピンに勝てるところは、身長くらいしか思いつかない。


ある日、ルーピンがやって来た。
「ごめんねセブルス」
と突然ルーピンは言い出した。
失恋のショックから立ち直るまでに時間が掛かった。
その間、シリウスを借りていたと、ルーピンは言い出した。

話題は最近のシリウスの話になる。
最近のシリウスは、元気がない。
夜、窓から外を見上げ、ぼんやりしている。
ため息を付いて、そわそわしている。
「シリウスも本当はセブルスと仲直りしたいんだよ……」
でも、どうしたらいいか考えあぐねている。
それは私も同じことだ……。
「このままでいいの?」
ルーピンは茶水晶の瞳を大きく見開き問うてくる。
「……」
「もし、……セブルスがシリウスをいらないなら……僕、もらってもいい?」
「!!……」
「彼、最近世話させてくれるようになって、ちょっといいなって、思えるようになってきたんだ……」
「……な、ん、だ、と?」
ルーピンらしからぬ発言に、彼は私をあおっているんだろうと、分かった。
「弱ってるシリウスって、かわいい……」
ルーピンは瞳を潤ませ、うっとりする。と次いで探るようなまなざしを向けてくる……。
ルーピンは私をあおっているんだろうと、分かった。だが、頭では分かっていても、心は反応した。
無意識にこぶしを握り締め震わせている自分がいる。
ルーピンが、シリウスを……。
二人なら、ああ、それは似合いのカップルだろう。
華奢で可愛いルーピンと、すらりと長身のシリウス……。
「……」
「セブルスがいいなら、僕が貰うよ?」
シリウスを私から奪う、と、ルーピンは言い放つ……。
「だめだ」
「……」
ルーピンはにやりと笑う。
「なんで?」
「……」
「ああ、そうだよね?ダメかどうかを決めるのは、僕じゃない。シリウスだ」
「〜〜〜」
この、少女のように美しい顔のルーピンを、私は始めて打ち据えたいと思った。


それからルーピンは、これ見よがしにシリウスに接近をしてゆく。
シリウスはこれといって変化を見せなかったが、まんざらではないように見えた……。

なぜ、こんなことになってしまったんだろう。
なぜ、ルーピンとシリウスを取り合うことになってしまったんだろう。

一日何も手につかない。動揺している自分がいる。


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