◎ チアーズ ◎
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ふられてしまった……。
セブルスは一人、林の中を歩きながら先ほどまでの出来事を反芻する。

呼び出した。
告白した。
ふられた。

我ながら無謀な初恋だと、思った。
なぜ、よりにもよって、彼を好きになってしまったのだろうと、今更ながら思った。

自分でもこうなる結末が予想でき、あっけない終わりに涙もでない。
感じているのはむしろ安堵。ようやくこれで前に進めるというすがすがしさ。

スリザリン寮生の自分、セブルス・スネイプが、よりにもよってグリフィンドール寮生の彼、ジェームズ・ポッターに恋をした。
同性。
それはここではよくあることだ。思春期の頃は友情と愛情を錯覚して同性に恋をする傾向にあると、大脳生理学の本にも書いてあった。

思えばそれは一目ぼれ、だった。

ジェームズ・ポッター。
まるで、たった今箒から飛び降りたような、ぼさぼさの髪。
方々に好き勝手にばらけ、まったく手入れの行き届かない髪に惹かれた。

あの髪を見たとき、無性に整えたいと思った。

アイロンこそ当てているがだらしなく着崩したシャツも、きちんと裾をズボンにしまわせボタンをかけたうえネクタイをさせたいと思った。

私は、だらしがないのが嫌いだ。

自分の身支度も朝、最低一時間半はかける。
皺を完全になくすように、シャツにズボンにアイロンをあてる。(人任せになどしない自分できちんとかける。)きちんとプレスされたシャツほど着心地のいいものはない。
袖を通して第一ボタンまできっちり留める。
ネクタイを結び、まっすぐ、シャツのあわせ目に沿って下ろし、ベストを着る。
そうして髪を整える。
私の髪は実はひどいくせで毛でほうっておくと勝手にタテまきになろうとする。
クリームで整えストレートにし、毛先だけ顔に掛かるように内巻きにする。
髪の次はローブを羽織り、余計な屑などが付着しないよう、埃よけの薬品をしみこませた羽箒で払う。
靴はもちろん前の晩に磨いておく。

多少自分でも行き過ぎのカンがあると思うが、きっちりみだしなみされているのはとてもすばらしいことだ。
服装が整っていると気持まで整い、一日が有意義に過ごせる。

ジェームズ・ポッターは、だらしがなかった。
素材がいいだけにとても残念に思った。
とうとうガマンできずあるとき、通りがかりの奴を捕まえ、空き教室に引きずり込み、身なりを整えてやった。
きちんと、きちんと、一部の隙もなく。
髪を整え(たが、あまりイミがなかった。奴は私以上のクセ毛だった。)、シャツのボタンを閉め、裾をしまわせ、ネクタイをきちんと締め、ローブも整える。

ポッターは目を丸くしていたがおとなしくされるがままだった。

そうして出来上がった奴は、ああ、今思い出しても非常にいい仕上がりだった。
紳士だった。

思わず見とれていると、奴が皮肉った笑みを浮かべ「もしかして、俺のこと好きなの?」と訊ねてきた。
私は正直に「だらしがないのが嫌いなだけだ」と答えた。
ポッターはそういうことにしておくよと、またネクタイをゆるめようとした。
その手をはたき私は止めた。
奴は私に指図される覚えはないといい、目の前で、子供が刷るように「イー」と歯をむき出しそのまま居なくなった。
だが三十分後、きちんとした身なりのポッターの隣にはリリー・エバンズがいた。
リリーはとてもいい。
活発で、礼儀正しくて、性格もさっぱりして、マグル出身と言うことを除けばとても好感がもてた。
彼女は、からかうようにポッターをほめ、奴はそれを受け照れくさそうにしていた。



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