◎ pigeon ◎
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闇が降った。

「エクスペリアームス―武器よ去れ!」
とどろくような声に聞き覚えがあった。
シリウス・ブラックの声だ。
途端、自分に纏わり付いていた気配がきえた。
逃げんじゃねえと、ブラックの怒声が響く。
「ロコモター、ロコモーター モルティス!足よ、縛られよ!」
少しつかえ気味、必死な声で唱えられた。
これは……ピーター・ペティグリュー……の声か?
うわっと声をあげ誰かが床に倒れ伏す気配。
闇に目が慣れてくると、床に転がる四つの影と、立つ四つの影が見えた。
大きいのが二つ、一つは入り口近く、小さい影に支えられるようにして立っている。
「ペトリフィカス トラルス、石になれ!」
もう一つの大きい影が詠うように呪文を唱える。
凛と響き渡る声。ジェームズ・ポッターの声にも、あの男の声にも聞こえた……。
「ルーモス!光よ」
すぐ傍でルーピンの声がする膝の辺りでぼうっと灯がともる。
ルーピンが杖を下げている。うっすらともる淡い光は、こちらを気遣ってのものか、かろうじて人の位置が識別できる程度のもの。
シャワーフックから腕が外される。
足に力がはいらす湯船に崩れ落ちた。

「大丈夫……ですか?」
ルーピンの近くにいた大きな影が立ち上がらせてくれる。ふわっと、ローブが掛けられた。
ブラック、ペティグリュー、ルーピン、と、くればこいつはポッター……か?

「……おまえは……誰だ……」

ポッターに借りを作るくらいなら、
ポッターなんかに助けられるくらいなら、
あのまま強姦されたほうが……………………。

いや、どっちもいやだ……。

男は止まる。何かを考えている様だった。
そして言った。

「……今日、寮の前であったでしょ?」

少し砕けた口調で言った。

ああ、ポッターではないのか……。

ほっとした。
急に恐怖がよみがえってきて体が震えはじめた。
「大丈夫。もう大丈夫だから―」
自分を支えながら男は宥めるように何度もそう言った。

怖かった。
嘗め回されるのと、舌を這わされるのと、指を入れられたのと……。

シリウスとはいえ、恋人のいるルーピンがこんな目にあうのは忍びなかった。入り口に一番近く、助けを呼びにいけると判断して、おとりになったが、もう、二度とはできない。

他人の欲望にさらされるのがこんなにも不快で恐ろしいものだったとは……。
「送りましょう―安全なところに、あなたの部屋まで連れて行きますから……」

男は自分を湯船からひっぱりだすと軽々抱き上げた。
こいつは信じられる……なぜかそう思った。

「彼を送っていくから、皆、先に戻ってくれ」
「こいつらはどうするんだ、このままほっとくのか?」
「……そのつもりだ。朝になるまでほっといたら『親衛隊』がやってきて相応の処分をするさ。気が済まないなら二三発けりをくれてやるといい」
「……そうだな」
ブラックと男は短く言葉を交わした。

男はしっかり自分を抱えると歩き出す。

がすがすがすと、岩を掘るような音が背後から聞こえてきた。
ブラックが岩になった三人にけりを入れている。
ルーピンが、両腕と肩を骨折してるのにあんまり動かないほうがいいといっているのが耳に届いた。


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