◎ pigeon ◎
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水音がする……。
どこか遠くの方で激しく水の湧く音がする。

スネイプはうっすら目を開けた。
ずきん、クリーム色の光が目につき刺さり彼は呻いた。

体がしびれている。力を込めると僅かに指の先が動く程度。喉がひりひりしている。

スネイプは指先に意識を集中してこぶしを開いたり閉じたりする。

そうして、薄らボンヤリする記憶をたどる。

ルーピンと立ち話をしていていきなり現れた四人組に拉致された……。
わき腹に押し当てられた杖の冷たさを覚えている。
唱えられた呪文は、確か五年生で習う種類のものだ。
一定時間の間、体と意識の自由を奪い昏倒させるもの。

この反対呪文を自分は知っている。

しびれる手で懐から杖を取り出そうとして手を入れたところで髪をつかまれ引きずり起こされた。

だん。

むせそうなほど強く壁に叩きつけられ、スネイプは歯を食いしばって痛みに耐えた。

「……」

フードを深く被った男が一人、顔は見えない。
そいつはこちらの懐から杖を取ると、此方へ放った。

「……何者だ……」
「……」
問いに答えはない。
スネイプは瞳を巡らせ周囲を見渡す。
大理石の壁と床。銀色の蛇口が一つとシャワーが一つ。
それに、ネコあしのバスタブ。
水音はこれに湯をためるシャワーの音だ。
個人用にしては広い、でも、何時も自分達が使っているバスではない。ここは、どこだ?

再び髪を掴まされ仰向かされる。

男の唇が動くが、何を言っているのか聞こえなかった。
自分の声は聞こえるのに……目くらまし、耳くらましの魔法を掛けられているのだろうか?

流した視線の先に、転がるルーピンの姿が見えた。

ルーピンはさるぐつわを噛まされタオルで幾重にも後ろ手に縛られていた。

自分を起こした男がルーピンの襟首を捕まえこちらのひざに放った。
ルーピンは小さく息を呑み、苦しそうに息をついた。
綺麗に結われた長い髪は、見る影もなく乱れ無残の様相。殴られたのか頬が赤い。うっすら涙の浮かぶ目許でこちらを見上げる。彼の視線はこちらの安否を気遣うものだった。

一人目の男が顔を向こうへ向ける。
曇りガラスのついたての向こうから、男達が現れる。
二人、三人、四人……同じような姿、個人の識別がつかない。
一人がルーピンの足を掴むとルーピンは猛然と暴れ始めた。唯一自由になる足で靴を脱がせようとする奴らを蹴りだす。立ち上がり体当たりを食らわせ、一人をノックアウトした。
そのまま逃げればよかった。
なのにルーピンはこちらを振り返り一瞬止まった。
残りの三人に飛び掛られルーピンは床に倒され、押さえつけられる。
男達の手がルーピンのローブにかかり、左右に大きく開いた。一瞬だけ自由になった両腕を左右から押さえつけられルーピンのカオが歪む。

服にかかる男達の手に目的をいやが上にも理解させられた。

シャツを剥かれるルーピン。男達の間に一瞬息を呑む雰囲気が走る。

肩口にちらりと見えた、傷跡。
何か、獣のつめで引っかかれた、無残にも色の変わった醜い傷跡。
男達は何事かを言っている。
ルーピンは急に大人しくなった。目を伏せ、体を震わし屈辱に耐えているようだった。

勝ち誇ったような男達の様子に、さるぐつわをかまされたルーピンは、見たこともないような鋭い視線を向けた。
誘拐され、体の自由を奪われ、服を脱がされている。

自分達の身に起きたことが、ことの重大さが認識できない。すべてがゆっくりと、写真のなかの出来事のように思えた。

ただ、ルーピン。

小さくて華奢で病弱で聡い彼が力の限りむちゃくちゃに暴れている。
泣き出しそうな目をしたルーピンを守らなければと思った。

「まて……」
スネイプは、ルーピンを立ち上がらせさらに服を脱がせようとした男達に言い放った。

「そっちばかりかまって、私をないがしろにするのか……」

その場の空気が止まったのが分かった。

スネイプは何とか首を起こし、かすむ眼で男達を見上げた。

一人は倒れている。
二人はルーピンを左右から押さえつけ、もう一人は彼の上半身を露にしようとしている。

三人か……。

スネイプは胸の中で呟く。

三人なら、なんとかなるか……。

「あんまり私をバカにするなら帰らせてもらうぞ……」
最初の男が近寄ってきて何かを話している。言葉は聞こえないがなんとなく、言っていることは分かった。
帰れるものなら帰ってみろ、というようなこと、そして耳にするのも汚らわしい汚い言葉を吐かれているのを感じた。
皮肉ったような笑みを作りそいつを見据えた。 
正視され男は一瞬体を震わせひるんだ。

「丸太を抱いて楽しいか?お前達もどうせ楽しむなら反応のない人形よりも生きた人間の方がいいだろう?」
「……」
全員の視線が注がれるのが分かった。
ルーピンが、男達がキョトンとする。
続く言葉を息を呑んで待っている。

「バスに湯もたまっていることだ……。せっかくだから体を温めたい。お楽しみはそれからだ……」

さあ、服を脱がせて、浸からせてくれ……。

何事かをさけぶルーピンを男達は、後ろ手に縛り転がした。彼に群がっていた男達がふらふらと集まってきた。

一人は靴を、一人はローブを、一人はため息を付きながら下着を掴み、争うようにして服をむしりとってゆく。

不躾な視線が体中を嘗め回す。

足を開かされじっくり眺められる。
下卑た笑いに悪寒が走る。だが、そんなことを気がつかせたくなかった。わざと余裕の表情を作り三人を眺める。罰の悪そうな顔をして一人は俯き、一人は動かないこちらの手を掴み自分のローブの中へ……。脈打つ心臓を触らされ次いでその手が、股座の塊に置かれる。相手の発情を知らされた。

うつ伏せにされ、さらに、乳母しか見たことのないであろう部分に何かを挿入された。

なんともいえない不愉快感が喉元から競りあがってくる。

三人がかりで運ばれ湯に浸からされる。

一人は恭しくこちらの手を取り、もう一人は足を取り、さらにもう一人は顎を捉えて首筋を、それぞれが思うように舐め、しゃぶり始める。

体がしびれているのは幸いだった。
何も感じない。
魔法が切れかけているのか、時折する冷たい人の舌が体中を這う感触が気色悪かった。
一人が湯の中に入ってくる。ざぶんと湯が流れる。
そいつはこちらに覆いかぶさり乳首に吸い付きはじめる。指をしゃぶっていた奴は立ち上がり先ほど同じ、自分の股間をじかに触らせその上からこちらの手ごと強く握る。足の指をしゃぶっていた奴は腿の内側に、それぞれ食指を伸ばし始める。

瞳を巡らせると、ルーピンと目があった。

大きく目を見開きながら彼は少しずつ後ずさって行く。

そう、行け。

行ってもらわなくては困る。

行って誰か大騒ぎしそうにない者を連れてきてくれ。

すりガラスの向こうにルーピンが消えほうとため息をついた。とたん、体内に異物感。

「―っ」
覆いかぶさった奴がにやりと笑った。
指を入れられたと分かったのは、そいつが反対の手で自分の指をしゃぶってそういう仕草をしたからだった。
「……」
イイだろう?
そいつの唇は動く。
何も感じない、痺れた体、なのにぞくぞくとこみ上げてくるのもがあった。
「そろそろ効いてきたろ?」
声が聞こえた。
同時に鈍かった感触が鮮明に知覚できるようになった。
「う……」
頭の霧が晴れる。

どうせ楽しむなら―
さあ、服を脱がせて―

いった言葉が甦り痛烈な恥ずかしさを覚える。
自分から複数の相手を買って出る真似をして消えてしまいたいほどの嫌悪がこみ上げてくる。
「あん」
小さな悲鳴がして、右手の平にじんわり生暖さが……。
内腿を這っていた手が、股間へたどりつき、あおるように形をなぞり始める。
「……うう」
スネイプは呻いた。

気持ちが悪い。
複数の他人の手が、舌が這い回る感触に体が冷えてゆく。
今更ながらに抵抗すれば、奴らは笑う。

こういうのが好きなんだろ?と、腕を持ち上げられ頭上に拘束される。シャワーフックに引っ掛けられ爪先立ちにされる。

いやだ、これ以上は、いやだ……。

乳首をなぶる指に、股間に埋まろうとする顔に、後ろを弄る手に、叫びそうになった瞬間。

室内の照明が落ちた。


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