◎ pigeon ◎
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そして、半月近い時がたった。


合同授業でグリフィンドールと一緒の度にスネイプはあの男を探した。

間違いなく、グリフィンドールの寮章つきローブを纏い赤と黄色のストライプのネクタイを締めていた。

目を皿のようにしグリフィンドール寮生を見詰めるスネイプの視線を各寮の生徒たちはあるものは嫉妬の混じった目で、あるものはあからさまに敵意のこもった目で、ある一部の者は頬染めて受けていた。

いない。

影も形も気配すら存在していない。
一度後姿を見つけ慌てて声を掛けたらそいつはポッターだった。
一生の不覚故スネイプはそれから声を掛ける時はそいつの正面に回りこみ、顔を確認してからすることにした。

日が経つにつれスネイプは不安になった。

あの男は本当にグリフィンドール寮生なのだろうか?

あるいはゴースト、あるいは外部の侵入者でたまたま見初めた私に無理やり契りの証し(チョコレート)を渡し、何らかの任務が終わってからやってくるつもりではないのだろうか……。

スネイプは薬草庭園で有名なスネイプ城の次期城主。
ポーション・マスターを目指すものなら誰でも一度は訪れたいと願う薬草庭園は、言葉の通り古今東西のあらゆる薬草を一堂に集めたスネイプ家自慢の庭園。
現城主であるスネイプ氏はホグワーツ・グリフィンドール寮の卒業生。
その商売の才能と卓越した魔法薬の発明の才能を見込まれ是非にと望まれ婿入りした。
実はスネイプ家はその時傾きかけていた。
世が世なら王侯に次ぐ純血名門貴族だが、お人好の先々代が作った借金と各地に散らばる広大な荘園別荘の管理費捻出に家計は火の車だった。

婿に入った父は『何でも好きなものを好きなように使っていい』という約束のもとあれよあれよと言う間に家の財政を立て直し、土地を買い足し各地の別荘にもプチ薬草庭園を建設し、それを一般に開放した。
観光収入だけで城の管理費が捻出できるようにうまくコトを運んだ。

セブルス・スネイプはそんな強かでやり手の父(グリフィンドール)と伝統と格式そして純血を尊ぶ母(代々スリザリン)の間に一人息子として生まれた。


金、名誉、そして申し分のない血統。

ね、狙われている?

何者かに私は狙われているのかもしれない。

小さい頃、何度か誘拐されそうになったスネイプは危機感を募らせていた。

だがそれを表に出すわけにはいかなかった。

そんなことをすれば自分を取り巻いている『親衛隊』たちが活気づき『セブルス様の安全のため』と称して罪もない生徒(時には先生までも)を私刑にかける恐れがある。
彼らは血の気の多さではホグワーツ一だ。
慎重に何事もないように気づかせないように行動せねば他に被害が及ぶ。

自室。
ベッドのあるプライベートルーム。
学年からすれば本当は五人ひと部屋なのだが、スネイプはここを三人で使っていた。
といっても夜寝る時に護衛と称して親衛隊が二人交代でつくだけなので実質一人部屋といってもいいだろう。
家の母が、なにがしかの贈り物をふるまってくれたお陰でこういうことになっていた。

スネイプは家から持ってきた本―学校では間違いなく禁書扱いだ―を開き簡単な闇の魔法の護身術を復習する。

満月の晩に採れた葡萄だけで作った酒で身を清め、東の方向にアイテムを置く。そして水銀を混ぜたスミで魔法陣を描く―。

寝室はこれでいい。

ベッドの下に陣を書き終えスネイプは大きく息を吐き出した。

就寝時の安全はこれで確保されたが問題は日中だったがこれもなるべく他人と一緒にいるようにした。

時折ルーピンを見かけスネイプは念のためあの男のことを尋ねようとしたがその度にシリウスに阻まれ何のイミもない罵り合いをする。
その時だけが、スネイプがすべての不安を忘れられる瞬間だったので、スネイプは今まで以上に力を込めてシリウスとの舌戦を楽しんだ。

日々平和だった。

そのうちふと、もしかしたらアレはポリジュース薬を使った誰かのイタズラだったのかも知れないと思うようになった。

そうだ、何故こんな簡単な事に気がつかなかった?

スネイプはおびえている自分が急にばかばかしく思えた。

あれは誰か、例えばポッターなどのイタズラだ。

ひとり微笑みスネイプは無理やり納得した。

久しぶりに自室で寛ぐ。
淹れてもらったお茶を飲みながらスネイプは部屋の隅に放置したままの籠に目を止めた。
バレンタインに交換したチョコがそのまま残っていた。

そうだ、明日は放っておいたチョコの整理をしよう。各々が『愛の調味料』としていろんな媚薬や呪いをたっぷり注入した、めったに手にはいらない代物だ。
何かを思いつめた強い人の純粋な気持ちは何者にもまさる『触媒』になる。それを種類ごとに分類し、それぞれにあった方法で抽出する。
呪いは水晶の玉へ。調味料は各々もとの状態に戻してストックする。考えただけでわくわくする作業だ。

これだからバレンタインのチョコレート交換はやめられない。
すべての人にお返しができないからと、交換を拒むシリウス・ブラックやリーマス・J・ルーピン、悪魔のようなジェームズ・ポッターの行動はもったいない。
自分は常々思っていた。
なによりも、チョコを交換して欲しいと勇気を出しての申し出を無碍に断るのは気の毒で自分にはできない。
お互いが幸せになるのだからこれからも自分はチョコレート交換を続ける。

さあ、もう休もう。

口元を覆った手の向こうで、小さくあくびをしスネイプは立ち上がる。
本日当番の取り巻きが、気配を察して杖の一振りでカップを片付けた。

ベッドに向かいカーテンを引いていつものように結界の魔法を掛ける。

これで何があろうとこちらの様子は外からは見えない。

寝巻きに着替えベッドに入る。

うとうととしながらスネイプは思っていた。

あの優しい顔の男が実在しないと言うのは少しさみしい気がした。

夢の中で思い出してみる。

とても優しい、整った顔立ちをしていた。
顎の先がシャープで芸術的と言ってもいいくらい美しい。

穏やかで人のよさの滲み出た目つき。
笑顔がすばらしく魅力的と掛け値なしに思える。

……ああ、こうして考えてみると、私好みの容姿をしているな。

小さくない、華奢でもないが美しい。

長身で締まった体つきは何かスポーツをしているようだった。

筋肉の付き方からして、クィディッチ。

「……クィディッチ……か……」

寝返りを打ちながらスネイプはもう一度クィディッチと呟く。

あの容姿であの体つきなら、選手ならきっと知らぬものはないスターだろう。選手なら練習中の怪我で授業を休むということもままある。季節外れの転校生なら気配の薄いのも納得できる。
私が見逃してしまっただけかもしれない。

……もう一度だけ……確かめてみるか……。

スネイプは呟き本格的に夢の中へ落ちていった。

あの顔、あの笑顔が存在しないとはどうしても思い切れない……。



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