週番(リーマス・J・ルーピン)
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■ 7日目 ■ 昨日は先生に話したからか、変な夢は見なかった。 週番も今日で最後。長かったような短かったような……終わってしまえばなんて事はない。意外な人間関係、集団の力関係がわかって面白かった。 ……今日はまた、迷宮になったホグワーツを歩いた。 迷子を探して歩き、途中見つけた争いごとが大きくなる前に解決して、ピーターとジェームズの見舞いに行った。 ピーターの所には、彼女とお姉さんがお見舞いに来ていた。 ピーターは真っ赤な顔していろいろなプレゼントに囲まれていた。 ありがとうとちいさくお礼を言うと、くすくすと女の子の笑い声が広がる。 ああ、華やか。場が和む。女の子って偉大だ。 ジェームズは具合が悪いらしく、彼のベッドはカーテンが閉まったままだった。 表から様子を伺うと微かに寝息だけが聞こえた。 スネイプは来ていないみたいだ。 あとでもう一度こよう。 イロイロ見回って歩いた。 図書館へいくと、スネイプが近寄りがたい雰囲気をかもし出しながら本を読んでいた。 邪魔しちゃ悪いから帰ろうとしたら、スネイプは顔を上げた。 「今日は一人か?ブラックは一緒ではないのか?」 「うん」 シリウスは今日はクィディッチの練習。 そういえば、応援に来て欲しいといわれていたのを思い出した。 「スネイプは何してるの?」 「宿題だ」 魔法薬学の宿題をしているとスネイプ。 昨日の授業でたった一人呪病よけの薬をつくった彼。 一人で四種類の薬を作った彼は、先生から各薬についてのレポートをまとめるように言われたらしい。 「いかん、こんな時間か……」 スネイプは本を閉じて立ち上がる。読んでいた本を返して、おもむろに雑誌コーナーへ……。消化のよい、とかダイエットとかいう表題の雑誌をいくつか借りて帰っていった。 ぼくは、見回りを再開する。 早く終わらせてシリウスの所に行かないと。 ずうっと前、付き合い始めて間もない頃、見学に行く約束を忘れてすっぽかしたら、シリウスは三日間口を利いてくれなかった。毎日膝枕をしてやっと機嫌を直してもらったっけ。 一通り見回って、旧館に差し掛かったとき、不思議な音がした。 何かが軽くはじけるような、いや、花開くと形容できる音。 「……」 満月の下でしか聞くことの出来ない微細な植物たちの動く音に似てる。 今はまだ太陽が出ている。満月は来週で……いくら感覚が鋭くなっている僕でもこれをこの時間に聞くことは出来ないはずだ……。 「……」 階段を上がる。 あがりきってみえたものは、一面の緑。 「うわ……」 ピーターがあけようとしていた部屋のあたりが、周りよりも深い緑色になってる。 ミントだ。 ミントが成長して部屋のドアを、廊下を覆っている。 ぼくは緑のトンネルになった廊下を歩く。 一体どうしてこういうことになったのか……。 近づいてみてみる。ミントの中には、白い花を咲かせているものもある。 枯れていたはずのミントの枝が鍵穴から部屋の中にも入っている。廊下の広がり方からすると、部屋の中もそうとうな事になってるはず。 一日でこの有様……。 誰がやったんだろう。 瞬間、『闇魔防』の先生の顔が浮かんだ。 僕はドアに手をかけて引いてみた。 ドアは僅かに動いたけれどミントがひっかかっているみたいでそれ以上は動かなかった。 隙間から中を覗いてみると、部屋の中は白いミントの花が一杯咲いていた。 ふわと空気が僅かにゆれて、ミントの枝に花が咲く。 白い灯りが灯っているように、それは次々に花を咲かせる。 耳を澄ませるまでもなく、ミントの枝がのびる音が聞こえる。 ぽんとつぼみのつく音が、さらりと花びらが開く音に思わず微笑んだ。 ゆっくり植物の伸びていく音が音楽のようで気持ちいい。 暫くその場にいた。ぼんやりと植物の音を聞いていた。 気がつくと、僕の右手にミントが絡み、花を咲かせていた。 僕は、それをそっと摘んで、その場をあとにした。 シリウスの練習を見学して、夕食の後、一緒に再度ジェームズの見舞いにいった。 ピーターが差し入れのお菓子を食べていた。もう明日には寮に帰っていいといわれたそうだ。 ちょっと痩せたピーター。ああ、でも、彼が無事でよかった。 ジェームズは眠っていたので、枕元に花の咲いたミントを置かせてもらった。 大きなバスケットを抱えたスネイプがはいってきたけど、僕らの姿を見て回れ右をして帰っていった。 その夜、週番終了の連絡をマクゴナガル先生からもらった。 僕は、次の週番候補生・R・ブラウニーを呼ぶように言われた。 来週には本当の週番J・ヒギンズが戻ってくる。 ああ、なんか、疲れた……。 学校はいやな雰囲気がただよっていたし、僕は僕で変な夢を見て、どっと疲れた。 今日はもう寝ちゃおう。 その夜。僕はまた、変な夢を見た。 医務室に見舞いに行ったのに、ジェームズに近づけない。 閉ざされたカーテンの向こうにジェームズが眠っている。でもジェームズは何か不思議なものに守られていてぼくはカーテン越しに寄ることしか出来ない。 ピーターを……。 そう思ったけど、ピーターは大勢の「好意」に囲まれていて、それが盾になって近づくことも出来ない。 すやすやと寝息を立てるピーター。血色もよく、幸せそうだ。 僕はイライラしている。こんなことくらいでイライラしてはいけない。 落ち着いてもう一度ジェームズを見る。 ジェームズをとりまく力の正体を僕は知っている。 夜の廊下をすべるように歩いて僕は「彼」に会いに行く。 廊下を歩き、そして見覚えのあるドアの前でとまる。隙間から中に入ると、『闇魔防』の先生が、目を閉じてイスに座っているのが見えた。 先生は目を開けるとこちらを見た。 「あんたか」 先生は目をきつくしてこちらを見ている。 「いますぐにそれをやめて欲しい」 「断る」 断固とした声で先生はいう。 何のことを言っているのか、そもそも先生は何かをしているのか?僕には分からなかった。 ただ、先生の体が薄く光っているのに気付いた。 「『闇を食う』のはなかなか骨の折れることだろう?今ここで君一人ががんばったところで、ひらいてしまった扉、まわりだした運命の輪はとめようもない」 大昔から決まっていたこと。 「そうなるようにあんたが仕組んだ……必要な運命の流れ、それを持つものを集めるために、あんたは大勢をだましてきた」 「『息子』を、『教え子』 を利用した?」 声に薄い笑を含みながら、僕は先生から言葉を盗む。 「そうだとも。何かを成し遂げようとするとき必要なことを躊躇してはいけない。目的を設定したら、綿密に計画をたて、わき目も振らず突き進む。スマートに。クールに。君にも教えたとおもうが?」 「……」 「君はとても優秀な生徒だった。飲み込みが早く、魔力も強大だ。『闇を食う』なんてマネは並みの魔法使いでは出来ない。世界一の誉れ高いダンブルドアにさえ難しいだろう。君は人間が持つ感情に流されない強さを持っていた。得がたい人材だった」 「思い出話なんか興味ない」 呟くように言い放ち、先生は頭をイスにもたれさせ目を閉じる。 体をとりまく光が、……光が強くなる。 濃いミントの香りが当たり一面に広がる。 「『後悔』してるのか?それとも『罪悪感』を感じている?よせよせ、らしくない。君は私と正式に契約をした。お互い約束をちゃんと守って、欲しいものを手に入れたはずだ。 私は『娘』を持つ親の運を。君は『愛されるという経験』」 「……」 先生は目を開けた。 「彼女は君を愛していた。献身的で美しい愛じゃなかったか?ただ一つの『強力な好意』を君に向け、最後は命までも差し出した」 「そうなるようあんたがお膳立てをしたんだ」 「私はきっかけをあたえたに過ぎない。些細な勘違いを、そう、三回ほど。それ以上の手出しはいらない。芽生えるべきものはそれで芽生え、枯れるものもそれで枯れる」 「……」 つううと先生の頬を涙が一筋つたう。 「『先生』、あんたは、人間の皮を被った悪意の塊だ、あんたみたいなのから見れば、俺たちなんで些細で取るに足らない、交換可能な部品なんだろうな……。そんなあんたに、あいつはいまだにとらわれている」 「いまだに?……」 僕は『闇魔防』の先生を見る。 いまだに、その言葉にひっかかった。 『闇魔防』の先生は口の端を引き上げてあざけるように笑った。 「あいつは生きてる。相変わらずあんたを人生の恩人と思い込んでるけどな。ふふ、生きてるんだ!!死ななかったんだ」 「……」 ばかな……。 僕は胸が変な風に脈打ったのが分かった。 あの呪いをこうむって無事でいるはずがない。それよりもなによりも……。 「!あいつが死ななくて残念だろう?あいつが死なないと、あんたは娘をもてない、でもあんたはあいつを殺せない。目と鼻の先にいても居場所すら分からない」 「秘密の守人、番人か」 「それは俺だ。俺は喋らない。そして、俺を殺すこともあんたは出来ない。あんたがそうして人から人へ渡り歩くためには、あんたと同じ星回りをもつ俺が必要だ。何千年に一人の完璧に一致する運命上の双子!」 「……」 ざまあみろ! そう唇が動いた。 僕はお腹のそこが溶けそうな怒りを感じていた。 『闇魔防』の先生に手を伸ばし指の先が先生の輝き当たって崩れ落ちるのを見て……。 「……」 目が覚めた。 僕はびっしょり汗をかいている。 怖い夢だった。 ルーピン。 名前を呼ばれた。 「……シリウス?」 ジェームズもピーターもいない部屋で、僕を呼ぶのはシリウスだけ……でも、ぼくはカーテンを開けて顔を覗かせるシリウスでなく、壁を抜けた現れたそいつを見つけた。 「……」 片腕が無数の破片に分解されながら崩れていく。 少しずつ消えながらそいつは近づいてくる。 血を吐いた先生が、うつぶせに倒れている映像が額のうらに浮かんだ。 ルーピン。 腕が消え、肩が消えるそいつは、分解されながらも僕に近づいてくる。 なんで、こいつがここにいるんだ。 夢で見ただけなのに、なんで。 ああ、そして、こいつの体からただよう香煙。嗅ぎ覚えがあるけどやっぱり分からない。 冷たい手に肩を掴まれる。でもその手はあっという間にくずれ落ちる。 「リーマス!」 そいつを突き破るようにしてシリウスが駆け込んできた。 僕を抱きかかえるとシリウスは部屋の隅に移動して、杖をそいつに突きつけた。 「……」 シリウスは聞いたことのない呪文を唱える。 歌い上げるような不思議なフレーズが終わるとともに杖の先からまばゆい光が放たれる。 光はそいつを飲み込む。 光が消えるとともにそいつ消えた。 「大丈夫か?」 「……」 「リーマス!」 「……」 うなずくのが精一杯だった。 暫く口が利けなかった。体がぶるぶる震えて止まらない。 シリウスは僕をさすって落ち着かせてくれた。 「もう大丈夫だ、もう、あいつはおれがおっぱらったから」 「こ、こわかった」 |
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