週番(リーマス・J・ルーピン)
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■ 6日目 ■

昨日変な夢で目が覚めたせいか、なんだか目がまわる。
今日は、丸々授業があった。
ショー先生が二週間近い体調不良から回復し、久しぶりに魔法薬学の実習があった。
「アルキナルサの白い花弁をよく熱すること。あめ色になるまでいためてもいいだろう」
先生は珍しく黒板に丁寧に図解をしてくれた。何を作っているのか僕たちは分からない。
同じ材料をつかい僕らは列ごとに調理(っていってもいいとおもうこの場合)方法を変えて薬を作った。
「うまそうな匂いだ……」
まるで、クリームシチューのような色合いになった自分の鍋を覗き込みながら、シリウスは呟く。彼の鍋からは本当においしそうな匂いが漂っていた。
ショー先生がよってきて、ブラックくんすばらしいできだ。グリフィンドールに50点を進呈しようと宣言した。
彼の隣の僕の鍋の中身は、真っ黒でまるでイカ墨を煮ているようなありさまだった。
シリウスのいる列は、クリームシチューのような薬。僕のいる列はイカ墨色の薬。
ショー先生は僕の鍋を覗き込み、ふふっと、鼻で笑う。その顔がとても底意地悪そうだったのは、気のせいだろうか?
「これはまたすばらしく苦そうだ…今日のグリフィンドールはとても優秀だ。200点を追加進呈しよう」
上機嫌で生徒を見回る先生。
今日はまだ休んでいるジェームズが何時もいる列は古い沼色。やっぱり今日は休んでいるピーターのいる列は無色透明で蜂蜜のような粘りのある薬。
今日の実習結果はバリエーションに富んでいる。
シリウスは自分の鍋の中味を覗き込みながら、木杓で一杯掬って口にした。
得体の知れない薬を飲んだ……。
「うわー、コレものすごくうめー」
「……」
大丈夫かな……。
思って眺めていたらにっこり笑ってシリウスはリーマスも飲むか?と杓を差し出してきた。
「いらない」
もちろん僕は断った……。
シリウス、うかつすぎっ。
ショー先生は『先生』だから毒薬なんかは作らせないだろうけど、もしこの鍋の中身が、毛を薄くする薬とかだったらどうするんだろう……。
「スリザリンに400点。これは未来永劫語られてしかるべきできばえだ」
感極まったような先生の声に目を向けると、先生はスネイプの鍋の前にいた。
「しかし、私の解説通りに仕上げることができなかったのは残念だ。スネイプくん。50点減点」
スネイプが魔法薬学で減点?
スネイプの鍋はミミズ色の液体で満たされていた。
がんがんに火を焚いているのに鍋の表面はまったく煮立っていない。
スネイプは何も言わずうなだれたように頭を下げる。
ショー先生は小指を鍋に浸して薬を舐めた。
「完璧だ。私が作ったとしてもこの短時間でここまで完成させることは出来ないだろう」
「あの、先生……僕たちが作っているのは何でしょうか……」
生徒の一人が質問をする。
「君たちが作っているのは『呪病よけ』のくすりの一部だ」
ショー先生は言った。
「白色、黒色、沼色、透明。四種類の薬を混ぜて熱すると、ミミズ色の薬になる」
各薬には別の効果もあると、スネイプの鍋をちらりとみて、ショー先生は続ける。
四列を一組として、それぞれひしゃく四杯分の薬を交換して混ぜて加熱したまえ。
魔法の火で、沸騰させないように。うまくミミズ色になれば成功。そしてそのグループには400点を進呈しよう。
こつこつと靴音をさせながら先生は教卓へよる。そこから、大きめの瓶とひしゃくを持ち出してスネイプのところへ。少し分けてくれという先生にスネイプはどうぞと、無表情で言い放つ。ジェームズとピーターがお休みなので、僕らは、列を無視して沼色、透明の薬の人たちを探して薬を交換した。
魔法の火で鍋を熱し、四種類の薬を投入して混ぜると、薬はトマト色になった。
失敗……。ミミズ色にはならない。
「あ、リーマスおしい」
俺のは、紫色になったとシリウス。
「そう、この薬は非常に気難しい」
教卓に戻った先生が説明を始める。
「私が休みの先の授業では、呪病の気配を感知する薬を作ったが、それとはレベルが違う。トマト色になったものは、分量はよいが、熱する温度が僅かに高かったために失敗した。紫色になったものは、白色の薬がほんの少し多かっため、黄色は透明の薬が足りなかったため、にごりが出たものは二種類以上の薬の分量があやまっている」
各自、混ぜる前の薬の効果をレポートするようにといわれ、授業は終わる。
「ルーピンくん」
後片付けを始めようとしたら先生に呼ばれた。
みると、先生は空の大瓶を手に立っていた。
「君の黒色薬を少し分けてくれないかね?」
「はい……どうぞ……」
「ありがとう」
ふふふと、先生はまた意地悪く笑って瓶にごっそり薬を取った。
後片付けをして、教室に鍵をかけて、それを返しにショー先生のところへいった。
先生は留守だった。
どうしようかな……。この鍵を持っているわけにはいかないから……。
悩んだけど、ぼくは、『闇魔防』の先生の所に行った。
食事のとき隣の席になる先生に、鍵を渡してもらおうとおった。
ノックをして部屋にはいると、甘い匂いがした。
みると、アルコールランプの上に据えた鍋のうえで、ショー先生がパン粥を作っているところだった。
あれ……と思った。
「『先生』はいま留守だ」
こちらを見もせずショー先生は言い放つ。
「だが、体調が悪い。悪性の風邪をうつされたくなければ、質問は来週まで待ちたまえ。または、急ぎならばマスクを……ルーピン君?」
「あの、鍵を……」
僕が鍵を差し出すと、先生は手を伸ばし、受け取り、ポケットに入れた。
そのまま帰ろうとしたら、入口で『闇魔防』の先生にぶつかった。
「ゴメン」
咳ともに先生は言う。
「何か質問かい?」
「いえ……あの」
「……?……ルディ?」
部屋の中を覗き込み『闇魔防』の先生は意外そうな顔をする。
「食事と薬を用意した」
こちらに背中を向けたままショー先生。
「生徒が作ったものだが、非常によくできたものだ」
「ああ、苦そうな風邪薬だね」
テーブル脇の黒い液体の瓶(僕の作ったものだ!)を眺め『闇魔防』の先生。
「こちらも、念のため飲みたまえ」
と、先生は小瓶に入ったミミズ色の液体(スネイプの薬?)をことんと置く。
頭をかきながら『闇魔防』の先生は、君は何でもお見通しだねと呟く。
「……」
無言のショー先生は、アルコールランプと鍋に蓋をする。
「明日また」
それだけ言うと無表情で部屋を出て行く。
「やっぱりパン粥か……しかも蜂蜜いり」
そっとため息をつく先生は僕のほうを見て、ルーピン君、パン粥好き?といった。
好きでも嫌いでもない。そう答えると先生は、よかったら少し食べてくれないか?と言い出す。
聞きたいこともあったから、ぼくは頷いた。
先生は鍋の蓋を開ける。大量にある、と苦笑いをする。
「オートミールとパン粥ってニガテな部類なんだ実は」
ごほごほ咳き込みながら先生は墨色の薬を二口喉を鳴らしてのみ、パン粥を食べる。
「あまい」
実際パン粥は舌がいたくなるくらいあまかった。
ニガテといいながら先生はあまいパン粥をぺろっと平らげる。
よく考えたらこの人はショー先生の残したパン粥を食べてた……。
そして今ショー先生お手製のパン粥を平らげた……。
直後、先生は汗をかき始めた。一気に体温があがったのか、襟元を緩めながら風を送っている。
「あの……その薬、風邪薬なんですか?」
「ああ、とってもよく効く風邪薬だ。普通の風邪なら一晩寝ればあっという間に直る。ただ、効き目に比例して味覚が破壊されるような苦味が特徴で一度飲んだら最低三日は口の中が苦い……」
「そっちのミミズ色の薬は……『呪病』よけの薬ですよね……」
テーブルの上の小瓶を僕は指した。
「……うん。『呪病』がはやっていたからね……その用心のためにおいていってくれたんだろ」
「『呪病』は、染るんでしょうか?」
「種類にもよる。大部分は染りはしない。ごくたまに、人から人に移動するものがあって、それが見かけ上「伝染」しているように見えることもあるけど、それは本当に特殊で、イロイロな条件が必要だね」
「星座上の双子なんか、ですか?」
「難しい言葉を知ってるんだね」
先生は汗を拭きながらイスから立ち上がり、ショー先生が置いていったミミズ色の薬をとる。
「生年月日が一緒の星座上の双子、親兄弟、身内親戚、愛憎で結ばれた友人同士。それらは全て『触媒』になる」
星回りや血肉、情を媒体として呪いは、拡大拡散をする。
「先生、僕は、変な夢を見ました」
夢の中での一部始終を僕は先生に話した。
「ホグワーツでおきたこの騒動と僕の見た夢は何か関係があるような気がして仕方ないんです」
僕は、ドアを開けるべきなんだろうか?
それともそんなことをしてはいけないんだろうか?
先生は、ミミズ色の液体をぐいっと飲み干した。
「その夢が何と関わっているのかさっぱりわからない」
ただ、少しようすを見るといいだろう。変な夢が続くようだったらおいで。
「原因を調べてみよう」
先生はおだやに笑う。
お礼を言って僕は部屋をあとにする。
落ち着かなかった気持ちが少し落ち着いた。

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