週番(リーマス・J・ルーピン)
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■ 4日目 ■

ピーターのことが気になった。
昨日何があったかをシリウスに話すと、様子を見に行くといってくれた。
朝食後、僕はシリウスと一緒に医務室へ行く。
最初彼は僕が一緒に行くのを反対した。人狼の僕は、医務室で使われている呪病よけの薬草のせいで具合が悪くなる。
でも自分の目でピーターの無事を確認したいといったら、シリウスはだまってマスクを出してくれた。
マスクをして、二人で医務室へ。
半分しまったカーテンの向こうで、ジェームズが、青い顔をして雑誌を読んでいる。
ピーターのことがあるから、様子が気になった。
ジェームズと声をかけた。でもマスクのせいで僕の声は届かなかったようだ。
ぱらりと雑誌のページを捲るジェームズは目を上げることもしない。
近づこうとして、二三歩いったところでシリウスに腕を掴まれとめられる。
先客がいるからと彼は押さえた声で呟く。
先にピーターの様子を見に行くことにする。
でも、ピーターは昨日までの場所にはいなかった。
どうしたんだろう……。
胸騒ぎがする。
ピーターはどこへ行ったんだろう……。
ここは比較的軽症の患者が運びこまれてくる。
ここにピーターがいないということは、もっと奥、鍵のついた個室のある、中・重症患者用の部屋に移されたということになる……。
そこは、マダムの許可がなければ出入りできない。
今すぐどうこうできないから、あとでマダムを見つけて、話を聞こう。と、言うことになって、仕方ないから一回帰ることにした。でも、その前にジェームズの見舞いに……。
やめておけとシリウスが言うので僕は余計に気になった。聞こえないフリをして近づいていって見つけた。
……カーテンの陰にスネイプがいた。
雑誌を読むジェームズの傍らに座り、固定されたほうの手の指を、マッサージしていた。
ジェームズが微かに目をすがめ肩をすくませる。
「痛かったか?」
「え?」
「痛かったのであろう?」
「え、……そんなことないよ」
ジェームズの手を掴んだままスネイプはちょっと不機嫌そうな顔になる。
「はっきり言え、痛かったのだろう?」
声が鋭くとげとげしくなる。
「痛かったから眉をひそめた」
言いつつスネイプはつかんだジェームズの手に力を込めている。
指の先が白くなるほどの力でジェームズの手を押すスネイプに、ジェームズ本人はのどのおくで上がる悲鳴を押し殺しながら、それは痛い……と呟く。
「そういう風に言えばいい。なぜ我慢をする?」
「折角マッサージしてもらってるのに、贅沢言っちゃ悪いかと思って」
「適当な力でやらなくては、イミがない!遠慮は無用だ」
この件に関してはおまえは、もっと、横柄であってしかるべきだ。あそこがいたい、ここがいたいといい、私をこき使ってもいいのだ。
「わかったか?」
「……はい……」
スネイプの剣幕に押されジェームズはうなずいている。
「まったく。おまえがこんなにも遠慮深い奴だったとはおどろきだ」
(……べつに、遠慮してるわけじゃないんだけど……)
ジェームズの目はそう言っている。
あの、と前置きして喉が渇いたので水をもらえないかと頼んだジェームズ。
スネイプは無言でグラスを取り出し枕もとの水差しから水を汲んでジェームズに差し出す。
「……」
そこで、スネイプは僕に気付いた。僕と、僕の後ろに立っているシリウスに。
「……ん」
スネイプは僕たちを見ると急に目を泳がせはじめる。
ジェームズは、ああ、と目を上げ、どことなくぽーとした顔で僕たちを見る。
「昨日の昼に手術をしたんだ」
固定された左うでを視線でさしジェームズ。
たまった膿みを吸い出して、薬を……。
ジェームズが僕らに顛末を説明しているあいだ。スネイプはベッドの下からとりだしたバスケットを水差しの隣に置き、ちいさくジェームズに別れの言葉を呟くと、そのまま下を向いて小走りに医務室を出てゆく。
「今は魔法をつかえない状況だからって、マグル式に刃物できったんだぜ……麻酔で痛みはなかったけど、あの感覚のない感覚は最悪だった……」
「そうか、たいへんだったんだな……それから、邪魔してわるかったな」
「……いいや……」
いいつつジェームズはスネイプが押し付けたグラスをぐいとあおる。
「ピーターだろ?」
表情を硬くしてジェームズは訊ねてくる。
「ピーターがどこへ行ったか知ってるジェームズ?」
「ああ」
それから何があったかも。
そのときジェームズは麻酔が効いていて朦朧としていたそうだ。
でも、昨日の夜誰かがはいってきてピーターを連れて行ったのは気がついた。
誰かというよう何か、だった。
何かの冷たく暗いかたまりがピーターを連れて行った。
そしてもどってきたピーターはマダムに連れられ奥のカーテンの向こうへ。
奥のカーテンの向こうには鍵のかかった部屋がある……。
僕も時々利用するその部屋は大抵三日で病院にうつされる重症の生徒がいるところ。
「何かにとりつかれてるぞピーター」
はっきり言い切るジェームズに、僕は自分の見たままを話した。
ジェームズはメガネの奥で何かを考えている。鋭く瞳が光った。
その目が入口へ向けられる。
『闇魔防』の先生が歩いてくるところだった。
『みんなおそろいだね』
先生は軽い調子でいう。手には空の瓶を持ってる。
『これかい?ショー先生の薬を貰いにきたんだ。それからペティグリュー君の様子も見に来た』
呪いが専門の先生からそんな風に言われて僕は、おそらくジェームズもシリウスもどきっとした。
『いずれ校長先生からおはなしがあるけど、先にいっておくよ。ペティグリューくんは憑りつかれてる』
憑りつかれている……。
黒髪の男が瞼に浮かんだ。
「何に……ですか?」
僕は訊ねた。
『ゴーストだ』
「ゴースト?」
『ゴーストというよりは『妄念』というほうがいいだろう……実体のない、非常に強い願望のかたまり……』
何故その願望のかたまりがピーターにとりついたのか、その説明はなかった。
ピーターがゴーストに憑り付かれた……。納得できるような説明だ。
でも、納得できない。実際にみたあの男は確かにいきなり消えたけど、ゴーストというにはあまりにも存在に厚みがあった。
実体のないというには存在感のある、でも生きているとは違う気配のもの。
『……』
先生は、カーテンの向こうへ、奥の部屋に続くドアをノックする。
なかから鍵の外れる音がして、そのままはいってゆく。
僕は傍へよる。
ドアの向こうは、濃密な薬草の匂いがした。
一瞬目がくらんだとおもたら、いつの間にか自分の部屋のベッドにいた。
「大丈夫か?」
シリウスが心配そうな顔で僕を覗き込む。
「え?」
僕は?
「薬草の匂いで気絶したんだ」
呪病よけの濃密な薬草の香りに僕は気絶したらしい。そんな僕を抱き上げ、シリウスはここまではこんでくれた。
「ごめん」
「いいさ。それより、目が回ったり気持悪くないか?」
「うん。大丈夫……口の中が苦いけど」
いったらシリウスはお茶を淹れてくれた。
「でも、なんでピーターなんだろう?」
「さあな……」
僕にしか出来ないことと、ピーターはうわごとのように言っていた。
あの、にごったような目が忘れられない。
ピーター。
いつも何かに怯えた目をしているけど、ピーターはいつも精一杯がんばっている目をしている。何かを掴みかけている途中の人の目をしている。
ピーター。
「ピーター、大丈夫かな……」
「大丈夫だろ……マダムも、先生たちもいるし……」
シリウスは自分に言い聞かせるようにいって、僕の肩を抱く。
そのまま引き寄せられてぎゅっと抱きしめられる。
「もう今日は寝ろ……眠るまでそばにいるから」
「うん」
僕は目を閉じてシリウスによりかかった。
僕は、頭の隅で思っている。
もし、あの男がこのところの呪病や学校内のすさんだ雰囲気の原因だったなら、何故、僕でなくピーターを使ったんだろう。
邪魔な封印を君の手で……。
闇よりの生き物の僕でなく、ピーターを、何故、選んだんだろう?

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