週番(リーマス・J・ルーピン)
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■ 2日目 ■

朝目が覚める。
枕元に張ってある紙を眺め変化のないのを確かめて、着替える。
僕は朝がニガテだ。いつも目は覚めているのに体が動かないことが多い。
「リーマス」
とシリウスが声をかけてカーテンを開ける。
着替え終わったシリウスが、正座をして額だけシーツにつけている僕をみて、あー、と短くうなる。
「手伝う」
着替えを手伝う。
僕の返事を聞く前にシリウスは僕を起こして、ねまきを脱がせる。
「ほら、バンザイして」
「……」
ジェームズもピーターもいないから僕は彼に甘えることにする。
ふと見ると、空中にふわふわとローブやシャツやズボンが浮かんでいる。
着せ替え人形状態で僕は、シャツを着せてもらい、ボタンをはめてもらい、ズボンもはかせてもらい、ベルトを締めてももらい、上着を羽織らせてもらう。
靴下も靴も履かせてもらう。
シリウスは何故かこういう作業が好きだ。
とても楽しそうにやってくれる。
さあ仕上げだと、シリウスはネクタイを取り出す。
背中越しに手を伸ばしてネクタイを締めて、上着のボタンをはめてくれる。
くいっと、顎を持ち上げられて、行きがけの駄賃とばかりにちゅうをされる。
……いいか、誰もみてないし。
僕がぼんやりしてるから、シリウスもそれ以上イタズラしてこないし。
髪の毛を梳かしてもらって、いつものように編んでもらって……仕上げにローブを羽織らされて、そのころになってようやく僕は体が動くようになる。
シリウス・プロデュースで身支度を済ませて、僕らは朝食に行く。
食堂大広間は、空席が大分目立つようになっていた。
「あ」
とシリウスがスリザリン席を見て呟く。
「スネイプの野郎がきてない」
声に目を向けると、確かにスネイプの席が空席になってる。
彼のとりまきの姿はあるのに……。
「珍しいこともあるもんだ……」
言いつつシリウスは、かすかに眉を寄せて少し心配そうな顔をする。
朝食を済ませて、授業に出る。
が、最初の占い学の授業で2/3が体調不良で休んでいた。
これでは授業にならないと、先生は呟いて、急遽休講になった。
次の授業まで図書館で自習をする。
僕は監督生代理なので廊下を歩きながら見回り。
廊下の隅で言い争いが起きている。
にんじん色人形を掲げて怒鳴っている男子一人と同じくらい大きな声で怒鳴っている女子一人。
にんじん色人形は子供にもたせるお守りで、にんじん色をした布に綿を詰めて首と手足と胴体部分を縛ってくぼませる。大きさは三十センチくらい。
シリウスが走り出そうとしたけど、僕は止めた。
よくよく話を聞くと、男子を心配して、女子が人形を作って渡した。
男子はそんなもの……と女子に返そうとした。女子は怒った。
二人は言い争いになった。
頃合を見計らって出て行って、監督生代理特権で二人の言い分を聞く。
よくよく話をさせて、折り合いをつけてもらうことに成功した。
人形のサイズを目立たないように小さくすることで(ついでにペア・アイテムを提案してみた)男子は人形を身に着けることになった。女子はあなたの気持ちも考えないでごめんなさいといい、男子は僕のほうこそ君の気持ちを……。
なんてことになった。丸く収まった。
「鮮やかだな」
とシリウスが感心したように言ってくれる。
「そんなでもないよ」
人間、いいたいことを飲み込むとそれが引っかかりになる。大抵は忘れてしまうものなんだろうけど、たまりにたまればそれはうらみつらみの種になる。
発散させても構わないものは発散してもらって、わだかまりを残さないようにしてもらえればいいと、僕は考えている。
二時間目はやはり生徒少な目で授業をして、それから後は普通に受けて、見回りや迷子を探しに行った。
怪我をした下級生を連れて医務室へ行く。
例の「呪病」払いの薬草の匂いで気持ちが悪くなるけど、なるべく息を詰めていた。
ついでにジェームズとピーターの様子を見ていこうと思った。
ピーターは相変わらず熱でダウン。
枕元にはお見舞いのお菓子と、ミントの切花がある。
このミントは彼の彼女がもってきたのかな?可愛らしい。
さて、ジェームズは……。ジェームズの傍にはスネイプがいた。
「ん、ルーピン!」
スネイプは呟いて驚いたように立ち上がる。
彼はグレープフルーツゼリーをジェームズに食べさせてた。
正確には、半分に切ったグレープルーツの中に作られたゼリーを盆に載せ、それをジェームズの胸の辺りで固定して、ジェームズが右手で持ったスプーンでゼリーを食べるのを助けている……。
左腕は固定されている。
枕元には……昨日の授業で作った薬をぬった紙が……。
紙の表にはジェームズに向かって緑色の模様がうっすらと浮かんでいる……。
ジェームズはスプーンを持ったままわざわざ見舞いありがとうと笑う。
「具合どう?」
「ん……平気だ」
「……」
平気だと青い顔をしてジェームズはいう。マダムは大げさなんだと付け加える。
でもそれは僕にではなくスネイプに言ったんだと思った。
スネイプは眉一つ動かさず膝に置いたバスケットを抱え、じっとジェームズの傍に座っていた。
「そろそろ失礼する」
「あ、じゃあ、僕も」
「見舞いありがとうな……あの、スネイプ……ゼリーご馳走様」
「……」

スネイプとともに医務室を後にする。
「……ペティグリューの見舞いにいったんだ」
「うん?」
廊下を歩いているとスネイプが突然話し始めた。
「少し、骨を折って貰ったことがあってな……見舞いにとゼリーを作った。だが体調が優れないらしい……」
「……うん」
「ペティグリューのためにつくったのだが、ヤツは食べられない。折角のゼリーだが、傷んでしまってはもったいない、そこに奴が、物欲しそうな顔をしているのが見えたのでな……」
スネイプは必死に言い訳をしている。
ゼリーを傷めてはもったいない、もったいない、と必死に言っている。
「いいなあジェームズ」
「なに?」
「スネイプのお菓子は美味しいから、あまりものでもゼリーが食べられるジェームズがちょっとうらやましいなあって。ところで、スネイプは具合はどう?」
僕は唐突に話を変えてみた。スネイプはここぞとばかりに言い放す。
「問題ない。健康そのものだ。……ルーピン、お前は大事無いか?」
「うん。僕も、健康そのもの」
「そうか……だが注意しろ」
手洗いとうがいと、そしてミントの束を枕元において眠るといい。
「ミント?」
「ないか?ミント?」
「うん……」
「そうか、ならば後で届けようか」
微笑むスネイプと分かれて僕は寮へ戻る。
シリウスはクィディッチの練習でいない。
見回りがてら城の中を歩くと、温室から出てくるスネイプとあった。
丁度いいと、彼は僕にミントをくれた。
「ミントは生命力の強い植物だ。水につけ、根を出したら土に植えてやってくれ」
のお言葉とともに、二束のミントをいただいた。
そのまま見回りを続けて、僕は旧館のほうへいってみる。
シリウスが近づかないようにといっていたあたりに差し掛かったとき、一つのドアのまえに立っている校長を見かけた。
「……」
校長は目を閉じじっとしている。
「もうまもなくじゃて……じゃが……」
言いかけ校長は唐突にこちらをむいた。
「ミント、じゃな……」
「あ、はい」
僕の片手のミントの束に気付き校長は寄ってくる。
すっと、 二、三本ミントを抜き、校長はドアノブにそれをかけた。
「おまじないじゃ。過去の妄念が出歩いて悪さをしないよう……古いおまじないじゃが良く効く。ミントは故郷を思わせる匂いという説があってな。……過去の習慣はおおくの経験から生まれる」
地域によっては出入り口全てにハーブを飾る習慣があるそうだ。
南向きの窓辺にはミントがいい……。
そんな話を聞かされながらいつの間にか食堂へ導かれていた。
シリウスが探したぞといってよってきてくれる。
ああ、もうご飯の時間……。
「あ、いる」
食堂に入ってすぐ、シリウスがいう。
シリウスはスネイプが席に座ってるのを確認するとわらった。
一瞬だけど、ほっとした顔で笑ってすぐにしかめっ面になった。
僕はそれを見ないフリをした。
いつものようにご飯を食べて、ふとみると、いつの間にかグレープフルーツゼリーが二つおいてあった。
半分に切ったグレープフルーツのなかに作られたゼリー。果肉が混ぜてあるつぶつぶゼリーだ。
「お、うまそうだな」
シリウスはいい一つをとって食べた。
「うまい」
といいシリウスはがんがん食べ始めた。
ちらっとスネイプを見てみた、彼は何でお前がたべるんだという顔でシリウスを眺めていた。
やっぱりこれはスネイプからのおくりものだったか……。


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