週番(リーマス・J・ルーピン)
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■ 5日目 ■

変な夢を見た。
僕は夢の中で見知らぬ誰かになっていた。傍らにはピーターがいた。
さあ、と僕はピーターにいう。
きみのその手でこの邪魔な封印を解いてくれ。
あの、旧館のドアの前に立つピーターの肩を僕はたたきそう頼む。
ピーターはそっと両手をあげドアノブにからまったミントの枝をとる。
僕はドアを開ける。
なぜか医務室の風景が広がっていた。
ジェームズが眠っているのが見える。
帝王の父。
僕は胸のなかで呟く。
そう、ジェームズ・ポッターは未来の帝王の父だ。
占術、神秘術。真理と名のつく全ての学問をおさめた『僕』が計算し、長い年月をかけて少しずつ調整を繰り返しようやくたどり着いた魔法使い。
本当は彼こそが帝王になるはずだった。
運命の皮肉な妨害で予定より二ヶ月早く生まれたせいで彼は帝王ではなくなってしまった。
でも調整は可能だ。微調整で計画通りに願いは進行している。
帝王の父よ、そのときまで健やかに。
僕は眠るジェームズの額に、唇を着けた己の指先を二本置いた。
そして、振り返ると見知らぬ部屋にたっていた。
空色の絨毯。壁紙は白地にプラム色のストライプ。金縁の丸い鏡に、モスグリーンのカーテン。窓の外は真昼の光景が広がっている。不思議な部屋。窓が閉まっているのにカーテンが揺れている。籐の長いすに、大理石のテーブル。黒革の手袋をはずして僕はテーブルの上においた。
丸い鏡にぼくは寄って行く。
今の顔をみたかった。
鏡に映っていたのは、僕が見たあの黒髪の男。
右に左に彼は首を動かし悪くないと思った。これも緻密な計算の結果。
頬を撫でながら僕は、満足げに微笑む。
あとは、そう、僕の………に会いに行くだけ。
「……」
そこで、目が覚めた。
「……」
頭がぼんやりする。
へんなゆめだった。でも、手袋を外したときの感触が生々しく残っている。
着替を済ませると時計が鳴った。時計をとめてベッドからでると、丁度シリウスが自分のベッドからでてくるところだった……。
「おきたのか……」
と語尾よわよわしく言われる。
残念……とシリウスの目がいっていたので、今日は僕がシリウスの着替えを手伝うことにした。
「はい、バンザイ〜〜〜」
「……」
ベッドに座らせたシリウスからねまきをはぐ。
タンクトップから覗く肩に、引っかいたような長い傷がついているのをみつけた……。
「どうしたのそれ?」
「ん?あ、いつのまに……」
シリウスが傷をこすると、いきなり血がしたたってきた……。
薄皮一枚でつながっていた傷がやぶれ血が……まるでダムが決壊したような勢い。
とっさにハンカチで傷を押さえた。
シリウスにそのまま押さえているようにいって、僕は救急箱を探す。
消毒薬を出して、脱脂綿に湿らせて、傷に軽くあてて、あとは僕がいつも使っている切り傷に効くの薬草をはってガーゼで押さえて呪文を唱える。
ものを貼り付ける呪文もついでにかける。
この程度の深さのものなら、昼には跡形もなく傷はふさがる。
「ありがとう」
シリウスは笑う。

シリウスと一緒に部屋を出て、僕は週番仕事をしつつあちこち歩き回る。
医務室に行こうとしてシリウスにとめられた。
でもマスクをして僕は医務室へいく。
医務室へ行くと、ジェームズは少し熱っぽいのかベッドに横たわっていた。
「大丈夫?」
聞くとジェームズは微笑んでああと答えた。
「ジェームズ、突然変なこと聞くけど、もしかして」
君は二ヶ月早く生まれてない?
「は?……」
ジェームズは不可解な顔をしたけど、そんな話を両親から聞いたと答えた。
僕はお礼を行ってその場をあとにする。
「ルーピン、おい!」
呼ばれた気がしたけど、僕は振り返らなかった。
確かめなくちゃいけない。
僕は階段を上がって、廊下を渡って、旧館へ行った。
旧館の例の部屋の扉の間まえにたった。
ノブには枯れたミントの枝が巻きついていた。ぱりぱりに乾き茶色になったそれを僕は外してドアを開けた……。
空色の絨毯、風に翻るモスグリーンのカーテン。壁紙は白地にプラムのストライプ……。
夢の通りの部屋の配置。壁には丸い鏡がある……。僕は部屋にはいった。
鏡と思ったのは肖像画だった。薄い布がかけてある。確認をしよう一歩踏み込んだとき。
「ルーピン」
声に呼ばれて振り返ると、ピーターがいた。
「ピーター」
「ありがとうルーピン」
にこりと微笑みピーターは言う。
部屋に一歩踏み込んでくる。体からはあの嗅ぎ覚えのある香煙の匂いが……。
「おまえは」
ピーターじゃない……。
「そう」
そう、と笑いピーターの顔をしたそいつは顔の筋肉だけで笑う。
「いまは姿を借りている。だって、見慣れない人間がホグワーツをうろついていたら目立つだろう?」
喉の奥で笑いながら、そいつは言った。
「ピーターをけしかければ必ず君が出てくるとおもった」
君は、ピーターが大好きだものね?
努力をし、挫折をし、傷つきながらも必死に生きてるか弱くて、でも限りない底力を秘めた人間そのものの生き方をするピーターが。
「君は大好きだ。それに、ピーター・ペティグリューは君が欲しいと思うものをもってる」
優れた頭脳がなくても、要領が悪くても、そんなものは比較にならないもの。
優れた魅力をピーターは生まれながらにもっている。
「本人は自分の魅力にまったく価値を見出せない。それどころか己の魅力を必死に消そうとしている。ピーターはジェームズが、君がうらやましくてしょうがない。シリウスに愛される君がうらやましくてうらやましくてしようがない。できることなら、君になりたいとピーターは思っている」
「……」
そいつが近づいてくる度に、香煙のにおいが強くなる。あたまがくらくらしてくる。
「君がそうであるように僕もピーターにひかれずにはいられない」
だからわざわざ、君の前に姿を見せた。夢を見せた。
「なぜ」
「巡り合わせだよ、ルーピン。計算をするとね、君と僕はまったく同じ星周りを持っている」
同じ誕生日の他人を星座上の双子(アストロツイン)というなら、僕と君は運命の双子(デスティニーツイン)とでもいうのか……。
「だからこの扉を開くのは、ぜったに君でなくちゃいけなかったんだ」
ピーターにしか出来ないことは、ルーピン、君を引きずり出すこと。
「帝王の僕と同じ星回りを持つ君の手でこの部屋を開かなければ、……運命は回り始めない」
校長先生。僕は思った。校長に知らせないと。
「でも、このことは、ナイショだ」
ピーターは言いつつ近づいてくる。僕は奴の脇をすり抜けた。
「最も、君はこの部屋を出た瞬間に忘れてしまうから、こんなことを言ってもイミがないけどね」
同じ星回りを持っていようと、君は僕じゃない。帝王は一人でいい。
薄汚い狼人間が帝王の地位につくことなど、ありえない。
「……」
頭の隅で何かがひっかかった。
「殺すことはできなかった。いわば君はスペア。このときまで、手足がついて動けて呼吸をしていればいい。あのときのように、器さえ残っていれば問題なかった」
「……」
「子供のもとに狼人間を送り込めばいい。星回りを崩さず、帝王の資格を奪い去ればいい」
何を、言っているんだろう?でも、胸の奥から冷たくなっていく言葉に足が止まった。
僕が人狼になったのは……。
「まさか」
「……」
僕の真正面に立って、そいつは僕を突き飛ばす。
廊下の壁に背中から突き当たって僕は座り込んだ。
パタン。
ドアはきしむことなく閉じた。

「……」
「ルーピン!」
「ジェームズ?」
「何してるんだこんなところで」
「え?」
僕は、何をしていたんだろう?
変な夢を見て、夢の中の出来事を確かめるためにジェームズに早産だったかどうかを聞いて、ドアを。
「ドアを開けようと思って」
「やめておけ、ピーターのこともある。ヘタに行動するのは危険だ……」
「そう、だね……」
僕は、ばらばらに砕けた枯れたミントの茎を集めてノブにかけた。
後であたらしいのをかけておこう。ジェームズと一緒に旧館を後にする。
血相変えて出て行ったから何事かと思った。ジェームズの言葉を聞きながら僕は思った。
そう、僕がしなくちゃけないのはピーターの様子を確かめることだ。
ジェームズを送りがてら医務室にいくと、いつもの場所にピーターがいた。
「ピーター!」
ピーターの傍らにはスネイプが。
グレープフルーツゼリーを、怯えた目をしてピーターは食べていた。
スネイプをみるとジェームズは急にバツの悪そうな顔になった。
「ジェームズ、ルーピン……」
ピーターはほっとした顔になった。
「もう大丈夫なの?」
「うん。先生たちのお陰ですっかり」
ピーターは笑う。
ジェームズは自分のベッドに横になった。
スネイプは無言で歩み寄り、どんと音を立ててバスケットをおいた。
「マドレーヌをやいてきた。お前が微熱つつきで食欲がないとマダムがおっしゃっていたんでな。ふらふら歩き回れるところをみると、よもや、食欲がないとはいうまいな?」
「……いや、これはちょっと緊急事態で……いただきます」
ジェームズはしどろもどろ言いながら出されたマドレーヌをたべはじめる。
「お口に合いますか?ポッターさん」
「あの、……とっても美味しいです。スネイプさん」
「それはよかった。腕を振るって100個作ったかいがあるというもの」
「え?その中に100個?」
「たんと召し上がれポッターさん」
「……」
ジェームズはいっさい言い訳をしないでマドレーヌを食べている。
微熱続きだなんて知らなかった。三個食べたところでスネイプはジェームズを寝かせて額に手を当て熱をはかっている。
「あの二人仲良しだよね」
ピーター。
「なんだか恋人同士みたい」
ヒソヒソ声で言うピーターの声が聞こえたのか、スネイプは突き刺すような視線を僕たちに向けてきた。
僕は早々にその場を後にする。
スネイプが視線で他言無用といっていたので何も知らないことにした。
見回りを再開する。下級生が泣いているので慰める。物を隠されたというから一緒に探した。それから授業にでてシリウスと合流する。
夕食時、シリウスと僕の目の前には大皿一杯のマドレーヌが並んでいた。
シリウスは一つをほお張り、うまい!と叫んでばくばくと食べていた。
僕も一つ貰う。うん。美味しいマドレーヌだ。
多分、これもゼリー同様スネイプのお手製だろうと思った。
「そんなに美味なのかね?」
の声に顔を上げると、ショー先生が立っていた。
「先生!」
「お加減よろしいんですか?」
「ああ、すっかり。心配をかけてしまい悪かった。ところで、そのマドレーヌを少し私にも分けてもらえないか?」
と、いうので皿ごと差しだしたら、先生は五つマドレーヌを持っていった。
みると、隣に座っている『闇魔防』の先生のさらに無言で三個、自分の皿に二個マドレーヌをおいた。
『闇魔防』の先生がありがとうと唇を動かす。
先生はどういたしまして、といいながら、マドレーヌを齧った。
なんだか久しぶりに、 ホグワーツに流れる空気が軽くなった様に感じた。


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