サランディプティー 
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大佐がやっと取り付けたエドワード・エルリックとの図書館デートをドタキャンされたと聞いたとき、ジャン・ハボック少尉はざまあみろと三分間だけ思った。

自分が大佐、ロイ・マスタング大佐に片想いして、告白して、手ひどく振られて、それでもあきらめきれなくて再度告白して、また振られて……。
そんなことがあったから、三分間くらい『俺を振ったから大佐はエドにも振られたんだ』なんて自分勝手な思いを心の中で嘯いたとしても誰に責められるもないだろう?
三分後にはきっちり、大佐も可愛そうにと思った。
好きな人と会えないのはとても悲しいことだ。
それが、例え自分は相手のことが好きだが相手は決してそうではないばあいでも。
思いがどかない分愛しさはより募る、と、ハボックは感じていた。
会いたいけど、会ったら少し悲しい。でも、会える喜びのほうが会えないときよりも何倍も大きい。
大佐の想い人がどうやらヒューズ中佐ではなく、鋼の錬金術師だと知って、自分は少し打ちのめされた。
でも、鋼が大佐を苦手に思い、どちらかというと反発している様を見るにつけ、大佐も気の毒にと思わずに入られなかった。

エドと大佐がくっつくのは正直いやだが、大佐がいいならそれも仕方ない。
ヒューズ中佐とくっついて、妻子もちの中佐の愛人の立場に大佐が身を落とすのは我慢がならないからだ。
本音は自分を受け入れてもらい。
大佐にふさわしい男になるから、そうなるよう努力するから、努力を必ず実らせるから、自分が部下としてではなく、大佐の特別な人として、そばにいることを許して欲しい。
もっと欲を言えば、ヒューズ中佐に対して見せている弱った顔ややりきれない思いを、自分ひとりだけに見せて欲しい。
ロイ・マスタング大佐、彼を包み込めるような、大きな男に自分はなりたい。
くやしいが、その役回りは、しばらく、あの中佐にやらせてやるとして、自分は大佐をさがそう。
大佐、落ち込んでるかもしれない。
ロイ・マスタング大佐は、出世にがめつくて、利用できるものはなんでも、それこそ己の貞操から部下の縁談話まで、何でも利用するとひどいデマ噂を流されていた。(一部分事実ではあるが……)
表面ひょうひょうとしていたとしても、やっぱり、ダメージを食らってる……そう思わずにはいられない。
東方司令部の廊下を歩く。
この時間は、大佐は執務室にいるはずだ。
でも出向いた先に彼はいなかった。
いつもサボって、ぼんやりしている旧館の渡り廊下の茂みにも、三人だけの秘密、大佐の秘密の部屋にも姿は見えなかった。他、思いつく場所はすべて見て回ったが、彼はどこにもいなかった……。
と、食堂で、エドの姿を見つけた。
鋼の錬金術師、エドワード・エルリックは一人食事をしていた。
金色の髪を一本の三つ編みにし、錬金術師の象徴、羽を生やした王冠をかぶり、蛇を纏った十字の紋章の入った赤いフードつきコートを着ている。
右手には機械鎧をかくすように、白い手袋をしている。
金色の瞳。同色の睫……。その目がふっとこちらを捉えた。
「……」
どうも、というように会釈をしてくるので、自分は近づいていった。
「久しぶりだな〜元気だったか?」
声をかけるとエドはまあ、ぼちぼちですと、あいまいに笑う。
「あ、そうだ、少尉、中央図書館に『もうひとつの分室』ってあるんですか?」
「もう一つの分室?」
エドはこちらを見上げながら説明してくれる。
中央図書館には、分室がいくつかある。
その中でも公に知られていない『もうひとつの分室』という隠語で語られる。分室があるらしい。
エドが興味を持ちそうな蔵書がたんとある分室。
大佐が、今日連れて行ってくれるといっていたのに、ドタキャンされて困っているといった。
ドタキャンしたのは大佐じゃなくて、エドのほうじゃない……のか?
「わざわざ人を二日も足止めしておいて昨日急にだめになった……なんて……なんなんすか、あの大佐……」
エドの言葉は聞こえていなかった。
大佐は、エドにドタキャンされた、と言った。
執務室で、映画に誘った自分にその日は(エドと)約束があるからダメだと言い放った……。
ドタキャンの噂は、誰から聞いたっけ……。
ファルマン准尉だ。
ハボックは、エドの問いに適当に相槌を打ちつつ、『もう一つの分室』の存在は知らないと答えその場を後にした。
どういうことだ?
大佐……。
どういうことだ?
ファルマン准尉……。


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