◎ roikoi ◎
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ロイの危なっかしさは成りを潜めている。 他人の体温が気持悪いというロイ。 でも、おまえだけは違った……。 人に触られて気持悪いと言う『癖』を直したい。 最初の日は風呂に入っただけにしておいた。 触られることに慣れさせるため、体温が心地よいとロイが思いはじめるのを待つため、暫くは手を出さない。 毎日、一日が終わり、寮に戻るとロイにキスした。 唇を合わせるだけのキス。時々歯があたってお互い苦笑いを漏らす。 毎日キスをして、毎日一緒に風呂に入る。 体と、頭も洗ってやる。 背中の火傷も……。焔の錬金術師の、おそらく出発点となったこのキズもあらってやる。 「……なんだか……」 「ん?」 「いや……」 「……気持悪いか?」 「そうじゃない……昔のことを思い出した……」 「ん?」 「叔父さんが、洗ってくれたのを思い出した……。俺がまだ二歳くらいのときだ……」 スポンジが痛いと言ったら、手のひらに石鹸をつけてゆっくりこすってくれた。 「そうか……。そのとき、どんな感じがした?」 「どう……って?」 「好きな叔父さんにそうやって、優しく洗ってもらってどんな気持になった?」 「……そうだな……ほっとした……嬉しかったな……」 「……」 親戚のおばちゃんが、赤ん坊を洗うときは必ず手の平で優しく、撫でるようにするんだといっていたのを思い出た。 使っていたスポンジをおき、石鹸を泡立て、手のひらにつける。 背中に触ると、びくりとロイは身を竦ませたが、それも一瞬で……すぐに力を抜いた。 他人に触られて、気持悪いと言う感覚ばかりを持っているわけじゃないロイ。 何らかの経験で、コイツは、ぬくもりの感覚をどう思ったら良いのか忘れているだけ……。 そんな気がした。 「……マース……」 「ん?」 「……そろそろ出たい……」 のぼせてきたというロイ。 「じゃ、出ようか……でもその前に、前の方はちゃんと自分で洗えよ……」 「……ああ」 そんなことを二週間もやったか。 素手で触っても緊張しなくなったころ、次の段階に行く。 その日は初めて、風呂上りにもキスをした。 ロイは、次の段階に来たことを悟った。 おとなしく目を細めてじっとしている。 「大丈夫だ……何もしないから」 「……」 体をベッドに横たえ、眺める。 顎や鎖骨や腹や、もちろんあそこもたっぷり見せてもらう。 「……楽しい…か?」 「ん?」 「女性の体ならまだしも、同じ男の裸を見て、楽しいか……?」 「興味深くはある。やっぱり、一人一人大きさとか形とか長さとかちがうんだなって……」 「……」 ロイは軽く首を振った。 多分露骨な表現にあきれたのかもしれない。 人の視線に慣れさせるため、眺め倒す。 どうしても恥ずかしくなったら言えと言ってある。ロイはがんばる。 顔を赤くして、視線を逸らせて、足をよじって、ちょっと意地悪で両手を押さえて体をよじれなくしてやると、ロイは泣きそうな目で訴えてくる。 見られること、それだけでも感じるものがあるらしい。 心なしかヤツの体が反応していく。 それを隠すようにロイはもじもじと体を揺らす。 「……おっこんなところに傷がある……」 「……っ」 軽く指先でなでてやると、唇をかみ締めロイは息を殺す。 「こんなところにも……お前、結構キズだらけだな……」 「……もう……」 「ん?」 「……限界だ……」 紅い顔、荒い息使い。目には涙がたまってゆく。 「吐きそうだ」 「……」 体をよじって訴えてくるロイ。 「……」 でも、ああ、なんだろう……。 もうちょっと、コイツの嫌がる顔を見てみたいと思った。 片手を自由にしてやって暫く放っておく。 ロイはこちらの手を外そうとするが、俺はそれを許さなかった。 体のキズを追って指を滑らせる。顎の下、鎖骨、わき腹にあるのは浅い刺し傷か? ロイはくうと息を詰めて顔を背ける。引き結んだ唇がふるふると震えている。 だんだん青ざめ白くなっていく。 本当に限界らしい。 体を離すとロイは慌てて起き上がり、トイレに行きかけとまった。 「……」 口を押さえながら目を閉じて、肩で息をしながら堪える。 目が回ったような顔をして、でもやつは戻ってきた。 口元を押さえたまま片手をこちらの首に回してくる。 ぴったりと胸をくっつけてくるロイ。互いの肌が触れるところがとても熱い。 「……」 「大丈夫か?」 「……平気だ……もう、気持悪くない」 ロイは呟く。 「もう大丈夫……」 「……」 もう大丈夫だと繰り返しながら、ロイは目を閉じ口元だけで笑い抱きついてきた。 頭に抱きつかれ、そっと頬を寄せられる。 唇が耳に触れ誘うように触れたり離れたりを繰り返す。 「気持悪くない……」 顔を上げ、ロイはキスをしてくる。 触れるだけのキスそして唐突に俺から離れた。 「……」 その目は何故か悲しそうで戸惑うように俺を見つめる。 「うん?」 「……ここまでにして欲しい」 「……分かった……」 今日はここまで、そういう意味だと思った。 でもそれはもうこれっきりにして欲しいというイミだった。 翌日から毎日していたキスをイヤがる様になる。 風呂もさっさと一人ではいる。 ロイは俺とのスキンシップを避けるようになる。 そしてあの、射殺すような目で俺を見つめる。 またか。 まだ先輩がいた頃の「好きだから俺から離れようとした」ときと同じ目。 あの時は先輩が助け舟を出してくれたから収まった。 今回はその先輩はいない。 少なくとも、奴は俺のことが好きだ。 それは間違いない。 だったら、なんでいやがるんだろう? リハビリが終わって人肌が平気になったんだ。 やっぱり女のほうがいいのか、それとも他になにかあるのか。 どうやって探りを入れようか、考えているときにそれは起こった。 空き教室で「パーティー」があるという情報を手に入れた。 「パーティー」は生意気な新入生をみんなでまわして教育する、リンチの隠語だ。 何故か瞬間的にロイの顔がうかんだ。 情報の出所も信用できる奴だった。 油断した。 教室入っていきなり後ろから殴られた。 髪の毛を掴まれて、腹に膝をいれられて、胃液を吐いた。 そのまま右から左からめちゃくちゃに殴られた。 気が付いたら、平机の上に乗せられ、両手両足をばっかん開いて縛られていた。 パーティーの主役は俺らしい。 ライトを当てられて視界をつぶされ、ナイフを首筋に当てられる。 忍び笑いやあざけりや、待ちきれないように興奮した熱のある息が浴びせられる。 ああ、しまった。 情報を握ることは、どこかで恨みをかうこともある。 先輩に言われていたことを今更のように思い出す。 後釜に座った時点で俺の元には生徒・教官を問わず、そいつの知られたくない情報を握っている可能性がある。相手にそう思われている。 上着はそのままで、ベルトを外され、チャックを下ろされ、下着ごとすり降ろされる。 他人の手が、触る。 唇にも、生臭い、柔らかいモノがあたる。 首筋に押し付けられたナイフが皮膚の表面を動く気配。 口を開けということらしい。 「……」 こうなったらもう、どうあがいてもしょうがない。 抵抗しなければ犯られるだけで済む。 下手に抵抗なんかしたら、ナイフで刺されて大怪我する可能性がある。 怪我したら、カリキュラムが遅れる。誰がロイのメシと睡眠時間を管理するんだ……。 ロイの気迫に負けないでヤツをレポートからはがしてメシを食わせたり寝かしつけたりできる奴。ああ一人いる……くそう、アイツは実地訓練で帰ってくるのは一ヵ月後だ……。 股間に人の息がかかる。 ぬるっとした感触につつまれ、寒気のような震えが、股からぞくぞくと体中に広がっていく。 開いた口内に他人のブツが突っ込まれる。 舌を使えとナイフの催促。 どうせするなら顔も見たことない他人より……。 ロイの顔が浮かんだ。 喉の奥まで突っ込まれ呼吸が苦しくなる。 足の間の奴が雄たけびをあげ俺の上に乗っかってくる。 かちゃかちゃとベルトを外す音……。 考えるのをやめた。 ただ相手の特徴を少しでも覚えておこうと感情を止めて情報収集に努める。 周りに人の気配がひとつ。 俺の上にくっついてる奴が二人。 ヒューズ!跨ってる奴が腰をくねらせながら叫ぶ。 裏声、聞き覚えはない。 甘酸っぱいようなコロンの匂いがする。 それから……。 それから……。……。 ドアが開いた。 「そこまでだ」 聞き覚えのある声。 頭を押さえられているから首を回せない。 目だけドアのほうをみるが、強いライトに慣れた目は、誰かのシルエットしか映さない。 一人がそいつに近づいていく。 「やっと主役のおでましか、ロイ?」 ロイ? 主役……。 それにこの声には聞き覚えがあった。 「なかなか来てくれないから、待ちくたびれて先に始めさせてもらったよ」 人影は手を伸ばし、ロイと思しき影の顎を掴む。 「来てくれたということは、承知してくれたと思っていいのかな?」 尊大な言い回し。 奴だ。ロイに固執して追っ払われていた四号棟の……。 「何故、あなたがそんなにまでして俺に固執するのかわからない」 ロイは顎を掴まれたままじっとしている。 多分あの、人を吸い込みそうな綺麗な目に軽蔑の色を浮かべて奴を見ているんだろう。 「彼を、あんな目にあわせて」 「お友達には十分に愉しんで頂いてるさ。彼も大喜びさ」 くすくす笑いが頭の上でした。 「何故君に固執するか?簡単だよロイ。私には手に入らないものはなにもないということだ。今までも、これからも」 「あなたの手に落ちないからと?」 「言えばそうなるかな。美人で気が強くて、優秀な国家錬金術師がベッドの上では私の意のまま……考えただけでイキそうだ……」 「……」 唇を寄せる奴に、ロイは黙って立っていた。 「……」 光に慣れた目がロイとあいつの顔を捉えた。 ロイは片目をすがめ不愉快そうな顔をする。だが相手の求めに唇を開き、舌を受け入れる。 勝ち誇ったような奴の笑みが凍りついたのは数舜の間だった。 がああ〜〜 悲鳴が上がる。ロイから離れ口を押さえ床に転がる奴……指の間からだらだらと赤い……血が。 「……」 口の片端を引き上げたロイがすがめた目のまま相手を見据える。 血に濡れた口元をぬぐい、奴は、ぷっと何かを吐き出した。 舌を、相手の舌先を噛み切ったんだ。 ふとかすかに息を吐き出し、ロイは目だけ動かしてこっちを、俺の頭の上でナイフを持ってる奴を見据えた。 「お……、おとなしくしろ!コイツがどうなっても!!!〜〜〜〜〜」 ナイフを持ち替えた隙をついて、俺は思いっきり口の中の物に歯を立てた。 声にならない悲鳴を上げて、ナイフが奴の手から滑り落ちる。その間にロイは猛然と走りこんできて、そいつをケリ倒し、同時に俺に跨る奴をも殴り倒した。 「マース!」 ローブを切って戒めを解いてくれるロイ。 「あー、口ん中、最悪」 「早くしろ!逃げるぞ!」 ズボンを直し、もごもごやっているとロイは手を引き俺を連れ出す。 教官が監督官を、大勢を連れてなだれ込んできたとき、俺とロイは窓からの脱出に成功していた。 「何がどうなってるんだ」 「帰ったら説明する!」 「……」 俺の手をしっかり掴み走っていくロイの後姿。 無性に抱きしめたいと思った。 |
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