◎ Batuichi middle ◎
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翌日。 いつもの面子からルーピンを除いたジェームズ、シリウス、ピーターの三人は幾分寝不足気味の顔をして食堂に向かう。 シリウスは黙ってジェームズの左隣、いつもはルーピンが腰掛ける席についた。 鋭い視線でスリザリン席を一瞥するが、スネイプはまだ来ていなかった。 ふくれっつらをしたピーターがジェームズの正面に腰掛け黙り込む。 ちらりとシリウスを見て様子を伺う。 ピーターは朝から『僕の宿題がない!』と探し回り、筒状に丸めて捻られ無残な姿になった羊皮紙を前に、泣き崩れんばかりに大騒ぎした。 シリウスがごみと間違えて丸めてしまったと告白すると、ピーターは短く刈り込んだ金髪を振り乱しながらひどいやひどいやを連発した。 ジェームズが魔法で元通りにしてやっても、シリウスが謝っても、ピーターの怒りは解けなかった。 黙り込むピーター。 はじめて自分ひとりで仕上げた、最高のできの宿題だけにシリウスの間違いが許せなかったんだろう。 ささいなことだ……間違いは誰にでもある。 こういう時はほっとくに限る。 でも、シリウスの様子を伺いながら、ちらりと自分を見やり何事か訴えかけるピーターがとても鬱陶しかった。 こんなときルーピンだったら上手く収めてくれるんだけどな……。 ピーターに対して、自分、シリウス、ルーピンが同じことを言ったとする。シリウスや自分だったら、ピーターは萎縮してただ頷くだけなのに、ルーピンには違う。 せっせ、せっせと自分の言いたいことを言って、気持ちよく納得して行動する。 観察していて分かったが、ピーターにとって自分やシリウスの忠告は半強制的な意味合いを持つようだ。 絶対にそうしなければならない。いわば命令。 ピーターはそう思い込んでいる。 嫌なら嫌、変な考えなら変な考えだと、言ってくれて全然かまわないのに、ピーターはおどおどと納得したふりをするだけ……。 せっかくアドバイスしたんだから、どうせならルーピンの時のように本当に納得してやってもらいたい。 それを言ってもピーターはきっとまた頷くだけなんだろう。 忠告して、萎縮されてその上『命令された』なんて思われたんじゃ悲しすぎる。 そういうのを感じるたびに思う。 ルーピンには人を和ませ、さらに自発的に行動させる才能がある……と。 カリスマと言うんだろう。 悪用すれば他人を、本人も気がつかないうちに良いように操ることができる。 自分にはまねできない才能だ。 隣のピーターがもう一回、自分を見やりシリウスの表情を伺う。 一体何がしたいんだ? ジェームズはいらついて手の中のパンを握りつぶしそうになった。 もう一回謝って欲しいのか、仲直りのきっかけを探しているのか、それを自分に切り出してもらいたいのか……表情や態度からはどっちにも見える。 訊ねようかと顔を向けたとき、ちょうどスネイプが入ってくるのが見えた。 「今日も大勢のお供つきだな」 ふんと鼻を鳴らしてシリウス。ピーターもうんうんと頷く。 スネイプは朝からご機嫌だった。 機嫌がいい時に出る歌を小さく口ずさみ、取り巻きの一人に引かせた椅子に着く。朝はグレープフルーツジュースに限るとグラスを持ち上げ乾杯の音頭をとっている。 そしてスネイプはこちらのテーブルを見やり、ふっと小さく鼻で嗤った。 今日は本当に機嫌が良いようだ。 いつものように『キサマ〜〜』という顔はされなかった。 「あの得意そうな顔……」 シリウスが吐き捨てるように呟く。 「僕達で阻止しようね」 何時になくやる気のピーターに同じくらいヤル気のシリウスはこぶしを握って答えた。 朝食は何事もなく終わり授業となった。 何か仕掛けてあるかもしれないと、行く先々で机や椅子をチェックしてくれるシリウスとピーター。 昼、夜と何事もなく過ぎ、一日目は暮れた。 「つかれた……」 「おつかれさま……」 談話室の椅子の上に長々横になったシリウスにピーターが声をかける。 「あの……ピーター……朝は本当にごめんな……」 「ううん……もういいよ。それよりこれ、おいしいよ」 ピーターが笑顔で差し出したのは、一抱えはありそうな丸いクッキー缶。 「マダム・アソートのクッキーか……懐かしいな〜〜」 チーズをベースにした薄焼きクッキーの詰め合わせ。 「子供の頃よく食べたな〜〜」 すでに独占状態のピーターから一掴みほど奪うとシリウスは口に持っていきかけ、とまった。 「どうしたんだこれ?」 「まわってきた」 ピーターの指差すほうをみるとグリフィンドールの寮生たちがあちこちでむしゃむしゃ。シリウスを見やりクッキー缶を掲げるものもいる。 「ごちそーさん」 声をかけシリウスは一つを口に放る。 「うまい。昔から変わんない味だ」 しみじみといいシリウスは立て続けに貪る。 二掴み目を平らげ、三掴み目にきたとき、シリウスは思い出したように背後のジェームズを振り返り、チーズクッキーの塊を差し出した。 「くうか?」 「いや、いい。それ、チーズがきつくて胸焼けするから……」 今日一日番犬のように働いてくれたシリウスの肩をほぐしながらジェームズ。終わったら、ピーターにもしてやるといい彼は談話室を見渡した。 暖炉には灯々と炎が立ち、その周りでは何人もの寮生たちがおいしそうにクッキーを頬張っている。 一抱えもありそうなクッキー缶があっちのテーブル、こっちのソファ、柱の壁に立つ寮生の手の中、そしてピーターの腕にもある。 おかしいな……。 クリスマスでもないのに一度にこんなにたくさんのクッキー缶が届けられるか? 「ピーターそれ、誰からの差し入れだ?」 「ジョンソンがたくさん抱えてたから彼の親じゃないかな?」 シリウスに缶を差し出しながらピーター。 ピーターに言われジェームズはジョンソンを捜す。 ソファの向こう、六人ほどの寮生に囲まれ目当ての彼が、小太りの体を揺らし、ふた抱えはありそうなスペシャルパックの大缶をまわりに振舞っている、 俺のおごりだと唇が動いた。 ジョンソンはダイアゴン横丁で一番うまいと評判のデザート屋の息子だ。 彼の両親はよく、新製品の試作品とともに大量のお菓子を差し入れてくる。息子とその友達、同級生たちをモニターにし、新製品の開発に余念がない。 ジェームズもお裾分けに預かることがあるが、ここだけの話、自分の口には味がきつくてあまりありがたくない。 彼の親ならありうる……か? 「ジェームズ伏せろ」 考え事をしていたジェームズはシリウスの言葉にしゃがんだ。 直後 ― ぱしゃ。 カメラのフラッシュが焚かれる。 柱の影、淡い栗髪の少年が小さく舌打ちしながらフィルムを巻き戻している。 「クリービー……」 シリウスがフルートを吹くような口調で咎める。 「ここで写真はやめろよな」 へへへと笑いながらクリービーはカメラをシリウスに向け、一枚撮る。 「俺のもだ ― 勝手に撮るなっ」 立ち上がりシリウスは懐に手を突っ込む。杖を取り出すその間にクリービーは身を翻して駆け出した。 シリウスの待て!の声も無視し、そのままプライベートルームへ逃げ込む。 寝室にはプライバシーを守るため特殊な措置がとられている。 物を取り寄せる呪文や、鍵を開ける呪文はもちろん、五年生以下で習う魔法は通じない。 「投げ足の早い」 シリウスは舌打ちをする。 「今日こそカメラ取り上げて中のフィルム引っ張り出してやるつもりだったのに……」 もう一度、ちっと舌打ちしてシリウスは腰掛けなおす。 「……ああいうのは痛い目見ないとだめかもな……」 ジェームズは大きくため息をつく。 クリービーはクィディッチの試合でジェームズのプレイを見てファンになった。それ以来ずっと彼の周りをうろついている。 いわゆる追っかけの写真マニアだ。 あからさまに迷惑な顔をし、口でもやめろと言っているのにクリービーはそんなことには一切頓着せず、一枚、一枚と言いながら毎日写真を撮っている。 自分だけならまだしも、クリービーはシリウスやルーピン、ピーターも餌食にする。さらに困ったことにほかの誰かが自分にカメラを向けるのは絶対許さない。 専属カメラマン気取りで他の生徒と揉め事をおこす。 放っておくと彼に都合の良いようにあることないこと言われるので、最後には結局自分かルーピンが出て行って仲裁に入ることになる。 それに。 証拠がないから、誰の仕業かわからないがホグワーツ内ではいま、隠し撮りプロマイドが流通している。クィディッチの選手や学校の綺麗どころの写真だが、ちゃんとした薬で現像してありフレームの中できちんと動く。 自分の知らないとことで自分のビジュアルが売り買いされている……。 写真は呪いをかけるときの寄代に使うこともできるから厄介だ。 それ以上にどんな用途に使われているか考えると頭が痛い……。 今でも十分目に余っているが、これ以上さらに目に余るようなら考えないとな……。 視線で『続き〜〜』を要求するシリウスにジェームズは肩揉みを再会してやる。気がつくとピーターまでもがシリウスの腕をマッサージしている。 「わるいな〜俺ばっかり〜」 「気にしないで〜」 気持ちいいと喜ぶシリウスにピーターは満面の笑みで答える。 まるでルーピンがそうするようにピーターはシリウスにほほえみかける。 |
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