◎ Cyan ◎
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スネイプは一人、地下牢教室にいた。
今日はとても大変だった。用意した義理チョコをみんなケンカしないように同じ大きさ、重さ、包装に包んで配った。
誰か一人、どんな些細な差もつけるわけにはいかなかった。
そんなことをしたら、そいつが他の仲間から集団リンチにあう。
そうでなくても自分の周りは、過激な行動を取るものが多い。皆同じ。皆公平に扱うことが秩序とバランスを生むのだ。
みると、かごの中にひとつチョコがあまっている。
今年は余りが少なかったなと呟きスネイプは包装を解く。
自分で言うのもなんだが今年のできは最高だ。
つまんだチョコを口に入れようとする手を、横合いから何者かが掴んだ。
「おまえは」
「こんにちは」
にっこり微笑むその男に見覚えがあった。
「ああ、いつぞやの」
数ヶ月前にグリフィンドール寮の前であった新入生。
「……この顔……覚えててくれたんですね」
そいつは嫌に馴れ馴れしく、だが決して嫌味でない程度の親密さで話しかけてきた。
「ルーピンがお世話になったそうで……」
「リーマス・J・ルーピンの友達か?」
「ええ」
あいまいに笑いそいつはルーピンが自分のお陰で勇気を持って行動できた、友達として感謝している、と言った。
「リーマス・J・ルーピンは……決して嫌いではない。礼儀正しく、正直で控えめでなにより」
「聡い」
「そうだ」
本当に賢い人間は少ない。だがルーピンは賢い。
スネイプは口にチョコを放り込もうとした。
その手を、名乗らない男は掴み、自分の方に向けると指ごと食べた。
「……な……」
なんという無礼。
余りのことにスネイプは暫し言葉が出なかった。
「すみません……あんまりおいしそうだったので我慢できなくて……」
男は謝り、そうしてどこからともなく取り出した包みを押し付けてきた。
「お詫びのしるしです。受け取ってください」
「突然現れた得体の知れない男の貢物など、いらん」
「突然申し出てもあなたはチョコの交換をしてくださらなかったと思いまして……」
「?交換したかったのか」
「はい」
男はにっこり笑い包みを握らせる。そうして白いハンカチで指を拭くと何事もなかったかの様に歩き出した。
「ま、まて」
「僕のことはルーピンが保証してくれます」
言い切り彼は、優しい顔で微笑んだ。
「……」
整った優しい顔だった。
押し付けがましい。
馴れ馴れしいが本当にそんなに不愉快でなかった。
「……」
年に一度のバレンタインだ。
「そんなに悪い奴でもなさそうだしな……」
突然現れた名前も知らない男だが……。そんな男とのチョコレート交換もたまにはいい……。
スネイプは微笑み、包みを開く。中から手のひらほどのコインチョコが一つ。
「こ、これは……」
バレンタイン限定、アーガス商会のミドルチョコ……。
予約をしてもめったに手に入らない激レアものだ……。
「……ひょっとして……」

アイツは私に気があるのか?

誰もいない教室で一人、スネイプは思った。

(Cyan 了)


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