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「なんだよ……スネイプ」

教室を出て、寮の入り口が見えるところまでやってきてジェームズは呟いた。
「俺何か気に触ることしたかな?」
「何もしてないと思うよ」
言い切るルーピンをジェームズは鋭い視線でねめつける。ルーピンは息を詰めてジェームズと見つめあう。
彼の視線は頭のてっぺんからつま先まで、撫でるように降りてゆく。

「……やっぱり、かわいい方が好みなのかな……」

ぼそりつぶやきジェームズは大きくため息をつく。
「ん」
今とっても重要なことを聞いた気がする。
そういえばさっきの刺すような視線、あれはシリウスが自分に親しく話しかけてくる人全部に向けるもの……。

嫉妬?

「俺はただ、理由も分からないで憎まれてるのが解せないんだ」
堪えきれなくなったようにジェームズは言った。
「うん」
ルーピンは余計のことは一切言わず相槌をうつ。
吐き出したいだけ吐き出だせればたいていの人は落ち着く。無理に話を止めちゃいけない。
「だってそうだろ?いきなりだ。いきなり人の顔じーーーと見て、眉ひそめる……」
組み分けの儀式のときのことを言っているんだな。
「すごい思わせぶりだと思わないか?」
珍しく感情的になっているジェームズはここがどこかも忘れ声のトーンを大きくする。
「そんなに嫌ってるくせにスネイプ、眼鏡を外した俺がジェームズ・ポッターだって分からなかったんだ」
「え?」
「あの日だよ、シリウスがお前に告白した日……」
そこまで言って、急に我に返ったジェームズは済まなさそうに言った。
「さっきは、悪かった」
「……なんのこと?」
「シリウスへの返事を急かせるようなこと言って悪かった……お前の心配は最もだと思う」
「ああ」

愛しい気持ちはどうしようもできないだろう?
未来の懸念より、渾身の気迫で今を生き抜く。

脳裏に浮かんだジェームズとスネイプの言葉がルーピンに笑みをこぼさせた。

「俺がきっかけを作ったから、どうなったのか気になっただけなんだ。早急に返事をする必要はないと思う。シリウスも今のままで十分幸せみたいだし……」
「でも、遅かれ早かれ返事はしないと」
「ルーピン……よく考えたほうがいい」
「ううん。もう十分考えた」
「……」
ジェームズは止まる。
頭の中はさっき言った『断る』が渦巻いているようだ。
何とか気持ちを変えさせようと彼はすさまじい勢いで考えをめぐらせ始める。
もし自分がジェームズだったらそうする。
ルーピンは微笑んだ。
「考えすぎてバカになるくらい考えて、自分が逃げてたのに気がついた」
「……」
ジェームズが『まさか』という目をする。
そう。その通りだよジェームズ。僕はもう考えない。
怖がらない。
「だって君が言うように愛しい気持ちはどうしようもできないし、スネイプが言うように自分の力で変えようのないことは悩んでも仕方がないもんね」
「スネイプが?……」
微笑む自分を前にジェームズは目を細めた。
色々考えるのはもうやめだ。少しは先のことも考えるけど、自分の気持ちに正直にいこう。
「さて、僕はこれからバレンタインチョコを仕上げるよ。手作りは怖くてできないから、借りたこれでシリウスに返事を彫るよ」
一歩たっと歩みだしルーピンはさっき自分がされたように頭のてっぺんからつま先までジェームズを眺める。
「ジェームズってかっこいいと思ってたけど、よく見るとかわいいよ」
「……」
無言で、ジェームズは笑った。
「そうそう。スネイプって変わってるけど、良い人だね……とってもかわいいし」
「なんだよ急に」
「寮が違っても、行動に問題があっても僕達彼となら良い友達になれると思うんだ」



二日後。
バレンタイン当日。
朝食の席で、先生・生徒全員に魔法薬学教授・ルビウス・ショーからの義理チョコが配られた。
ショーを尊敬し、立ち居振る舞い、言葉遣い、ファッションを見本にしているスネイプは、いたく感動し、『これは当分保存する』と幸せそうに笑っていた。
スネイプは感動で見逃したが、特大の包装紙にくるまれた義理(本命?)チョコを取り出し、照れながらマクゴナガル先生に渡したショーに当のマクゴナガル先生も他の生徒も目を白黒させていた。

ルビウス・ショーは年上の女性が好きらしい。

ショーのファンは陰ながら涙を流し、この日のために作ったチョコをどこへともなく放出した。
緊張は高まる。生徒も先生も授業にならないくらい浮かれていた。ジェームズもシリウスもスネイプもそして自分もピーターも、大小さまざまなチョコの襲来に見舞われた。
シリウスは『ブラック家の決まり〜』を連発しながら逃げ回り、ジェームズは仮面のように張り付いた笑顔で『トラウマがあって〜』と説明し、ピーターは満面に笑みを浮かべたままチョコを受け取っていた。

「ありがとうこれはほんの気持ちだ〜〜」
スネイプはそつなく、取り巻きに持たせたかごの中から、お手製のチョコを取り出し、約束通り義理堅くチョコレート交換をしていた。

放課後。温室。
ルーピンは呼び出したシリウスを前にしていた。
「……はい」
どんと四角い塊をわたしルーピン。
「ありがとうリーマス」
「実は手作りできなかったんだ」
ルーピンは地下牢教室で目撃した一部始終を語った。
「それは怖かったろうな……」
シリウスはしみじみ言う。でも俺は嬉しいよと満面の笑みで彼は赤いリボンのかかった包みを開ける。
「……」
チョコの表面に彫られた文字にシリウスは気がついた。
ルーピンは後ろを向き、彼が読み終わるのをまつ。
一分、二分。
シリウスは動かない。
ルーピンは書いた。
自分の気持ち心配事。彼の自分に対するかまい過ぎなところに辟易しているところ。包み隠さず全部書いて最後に『返事はOK。シリウスこそ僕が嫌いじゃなかったら付き合ってください』と書いた。
「リー……リーマスあの……」
「はい」
呼ばれ振り返る。真っ赤な顔のシリウスがぶるぶる震えながら屈みこむ。
目線をあわせシリウスは妙にまじめな声で「キスしてもいいですか」と言った。
ルーピンは今更ながら緊張した。
「……は、歯があたって怪我するといけないから」
つい、言い訳めいたことを口にしていた。
シリウスはその言葉が聞こえたはずなのに、両手をこちらの両肩に乗せ動けないようにしてからキスしたくてたまらない。歯が当たらないようにするから良いと言ってくれといった。
「……」
ルーピンは頷く。

本当は自分もキスしたかった。

誰もいない温室でルーピンとシリウスははじめて唇を触れ合わせた。



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