◎ Batuichi first ◎
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「グリフィンドールに十点」
薬のせいで化粧の落ちたルビウス・ショーが眉のない顔で告げた。
洗い場はかぶった薬を水で流すものたちで混雑していた。
「とっさの判断力を評価してペティグリュー君の居残りを取り消そう」
「―」
満面に笑みをたたえピーターは大きくヤッターと声を上げた。
「それからセブルス・スネイプ」
名前を呼ばれ、全身びしゃびしゃのスネイプが顔をあげる。
「スネイプ君、君の鍋の薬は誰かが放り込んだこの物体のせいで『笑い薬』に変わってしまったようだ」
黒いレースの縁取りのあるハンカチで、火の燃えカスをつまみショー。
「お言葉ですが先生、それは私の過失ではありません、誰か、そう、個人的に私に嫉妬する誰かが仕組んだ ― 」
スネイプの言葉をみなまで聞かずショーは不機嫌に言い放った。
「 ― 残念ながらやり直してもらう」
オートクチュールのローブを台無しにされ、化粧をはがされ、傍から見ても彼の不機嫌は明らかだった。
だがスネイプはなおもくどく言葉を続ける。
普段でも芝居がかった彼の口調は聞き苦しかった。なのにここに来て鼻に抜けるような声で『個人的な恨み』『陰謀』『嫉妬』同じ話をぼそぼそ繰り返す。
「然るに、思いますに」
「じゃかぁしい」
ショーがかすかにつぶやいた。
「は?」
「スリザリン五点減点 ― 」
ショーは目を見開き言い切る。
「これ以上の問答は無用だ。セブルス・スネイプ、君の主張が正しいとするなら恨みを買う日頃の君の行動にも問題がある。君にこの惨状の後始末と放課後の居残りを言い渡す―」
「そ、そんな」
スネイプはよろけ床に座り込む。

「このいたずらの犯人がこの中にいるのなら覚悟したまえ。私は授業の妨害を何よりも嫌うと言うことを、その代償がどんなにか大きいものかを身をもって教えてやろう ― 今日の授業はこれまで。解散」

「ありがとう。ルーピン」
ピーターがルーピンの両手を握る。
「今日残されたら明日提出の変身術の宿題が出来なくなるところだったよ」
変身術というところでピーターはちらりとジェームズを見た。
手伝って光線を送るが当のジェームズはあらぬ方向を見ている。
「宿題なんかあったか?」
「あったよう」
シリウスの言葉にピーターはぴょんと飛び上がる。
「教科書四十二ページの課題を二つ選んでレポートするのが ― 僕、ウサギの耳だけちょう結び変化と、靴を長靴にした場合のレポートを書いてるんだけど ― 」
後ちょっとで終わるんだけど最後のところがわからなくて ― 。
上目で今度はシリウスを見上げる。
「俺、何にもやってない」
「ええっそんなあ」
頼りにしてたのに ―
「おまえな、たまには全部一人でやれよ」
俺は手伝わないぞ。シリウスはきっぱり言った。
「ルーピン」
「ごめん、僕居残りだから、あとちょっとならがんばれるよ」
聖母の様なルーピンの笑顔にシリウスは心臓の高鳴りを感じた。
ルーピン、かわいい。
かわいくて、やさしくて、頭もいい奴。
告白して、もしOKもらえたら……。
「ふ、ふふ」
最初にぎゅっと抱きしめたい。
妄想の中で一人ほくそえむシリウスを、ピーターは化け物を見るような目で見ていた。
「ルーピン、シリウスが」
「……ほっといてやろう今日は色々あったから」
言いつつルーピンはジェームズを見上げる。
さっきからジェームズはずっとある人を眺めている。
床に座るスネイプだ。
心配しているのか、ざまぁ見ろと思ってるのか表情からは伺えない。取り巻きのスリザリン生に囲まれスネイプは励まされている。
はっ、はじかれたように彼は顔を上げた。
真っ直ぐジェームズを凝視するスネイプの顔に憎悪の色が広がる。
「違う、誤解だ」
つぶやきジェームズは小さく首をふる。
でもスネイプはわなわなと肩を震わせ、取り巻きたちが担ぎ起こし教室から連れ出すまで、氷のような視線をおくり続けた。
「……」
「ジェームズ」
「……俺たちも帰ろう」
スネイプの代わりに床を掃除するスリザリン生たちを眺めながら、ジェームズは大きくため息をつき、軽く微笑んだ。 


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