◎ white heart's (ホワイトハーツ) ◎
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「好きだ」

呼び出された湖のほとり、ジェームズ・ポッターからそういわれたのは、シリウスとルーピンが学校公認の恋人同士になって一年が過ぎようとしているときだった。
「何の冗談だ」
「冗談じゃない!」
「朝から酔っているのか」
「俺はしらふだよ」
奴は今にも倒れそうな弱々しい、切なげな目でこちらをみやった。
「冗談なんかじゃない。酔ってもいないし、自分が何を言ってるのかもよく分かってる。俺は君が好きなんだ」

大好きだセブルス・スネイプとポッターは続けた。

ジェームズ・ポッター。
いまさら奴の姿形について語る必要もあるまい。
ジェームズ・ポッターは赤と黄色が寮色のグリフィンドール寮生。
くしゃくしゃと丸めたようになる酷いクセ毛の黒髪に。やはり黒の丸ぶち眼鏡。身長で目線二つ分ほどこちらより低い奴は、一年生にしてクィディッチのレギュラーメンバーに選ばれるほど卓越した運動神経を誉めそやされる。
スポーツ万能、学業優秀。それゆえ先生方の信頼も厚い。
髪を除いた身だしなみは、まあ及第点をくれてやってもよい程度には整っている。
面相に漂う邪気と、いつでもどこでも私に向ける、探るような、見張るようなあの視線さえなければこれほど嫌いにはならなかったろう。
眼鏡を外せば、超美形演技派のなんとかいう俳優に瓜二つと言うことで「隠し子」説がとなえられたほど顔の造作はいいらしい。
未だに女生徒が騒いでいるが、ここ暫く奴は体調を崩して医務室の住人になっていた。
一度ルーピンの付き添いで行った医務室で女子生徒からの贈り物に囲まれ眠るジェームズ・ポッターを見た。
色とりどりのお菓子や花に囲まれて眠る奴を見て、なぜか御伽噺のお姫さまを思い出した記憶がある。

そして今日、ポッターの不調の原因が私にあると言いがかりをつけてきたシリウス・ブラックに呼び出され、連れられてきた先に、ルーピンと頬がこけ不健康に痩せたポッターがいた。

どういうことかと訊ねると、ブラックに変わりルーピンが、非礼は詫びるけれど、こうでもしないときっと君は来てくれなかったと思うからと、控え目に言い訳をした。
詳しい事情はジェームズからきいてねと、ルーピンはブラックに腕を引かれいなくなった。

あとに残されたポッターに訊ねると、いきなり先ほどの言葉を投げられた。

「私が好きだと?一体何の〜」
「冗談やウソでこんなこと言わない」
ポッターは言い切り、搾り出すような声で言った。

いつでもどこでも、君の姿を探している。君のことを考えると胸が苦しい。痛い。泣きたくなる。

「君は俺を目の敵にしていて、ろくに話もしてくれない。言いがかり同然の理由で、俺を良く知りもしないで毛嫌いする。好きな人にそうされるのがどれだけ辛いか、わかる?」

忘れよう、ほっとこうとしても結局出来なくて、昼間会うと罵声でもいいから声が聞きたいと思った。だからあえて目の前をうろついた。そして潜められる眉に、ああ、俺の存在は君の中で無視できるほどちっぽけなものじゃ、まだないと安堵した。
機嫌がいい時なら、もしかしたら普通に話が出来るんじゃないかと、淡い期待を胸に灯して、話しかけて打ち砕かれる。

「あの茶会でいわれた言葉、ホントにきいたよ……」
一度だけ招待された茶会で、仲良くするつもりはないと言われ、心が裂けそうだった。

夢にまで出できて同じセリフを繰り返す君。

胸の痛みは激しくなる。
眩暈すら起きない。それでも胸を焼く苦しみは呼吸を妨げ確実に心を、体を弱らせた。
「俺を苦しめる君を憎もうとしたけど、結局出来なかった。だから言うことにした。君がすきです。セブルス・スネイプ」
「私は」
「俺が嫌い。分かってるよそんなこと、でも好きになっちゃったものはどうしようも出来ないじゃないか」
好きなんだから。ポッターはまっすぐこちらを見つめ話を続ける。
「嫌いって言われて簡単にあきらめられるなら、医務室の世話になんかならない。だから聞かせて。俺が嫌いって言うなら、俺のどこが嫌い?何が嫌い?性格?顔?身長?声?仕草?」
「うう」
畳み掛けるように言われ、言葉が継げない。やっと隙を突いていった。
「お前は私を監視する」
「監視じゃないよ。大好きな君をずっと見てただけだ」
「私はべたべたされるのがきらいだ」
「話しかけても黙ってる君に俺の声が聞こえてるか確かめただけだよ」
「……お前は……ブラックと私のことを笑い者にしている」
「ちがうよ。笑っているのは、君があんまりかわいいから」
「なにを…」
「仕草がとってもかわいい。毎朝、食堂手前の廊下で身支度チェックしてるところとか、すごく清潔好きなところ。好き嫌い激しいくせに、皆に均等に接しようとしてるところとか……とってもがんばりやで完璧主義者で、最悪を回避する方法まで考えて行動しているけど、ちょっと詰めが甘いところとか……とってもかわいい」
「……」
「かわいくて、とっても」
とてもキュートだとポッターは恥ずかしげもなく続ける。
「君が俺の何が嫌いかが分かれば俺だってあきらめがつく。ただ、漠然と面相が邪悪だとか言われても納得できない」
言葉を切ってこちらを見つめポッターは言った。

「だから、まずは友達からはじめよう」

「は?」
「まずはお試し期間で三ヶ月。三ヶ月だけ友達付き合いしようよ?それでダメならあきらめるから」
「何故私がお前の企みにのらねばならない」
「ほら、それ」
「?」
「今、企みって言ったけど、俺に企みなんかないよ。これは提案だよ。最終的には恋人になりたいけど、君が嫌ならあきらめるって言ってるんだ。だた、嫌は嫌で、俺が納得できる理由をちゃんと教えて欲しい。ウマが合わないっていう言葉はなしだよ?今の俺たちはその言葉を言えるほど親しくもないし、分かり合ってもいない」
「……」
一理ある。
悔しいが、まったくもって奴のいうことは納得が出来た。
確かに、入学の日、組み分けの儀式で見かけて以来、面相に漂うあまりの邪悪さに思わず避けてしまったが、考えてみればただ顔の怖い奴はごまんといる。

一瞬これも奴の術中かとも思ったが、下げた視線の先に、震えるポッターの膝を見つけ考えが変わった。
顔を上げると血の気のないポッターの顔。極度の緊張で血流が悪くなっている。

奴は、今、私の言葉を待っている。

まるで判決を待つ被告のように、命を握られている患者のように。

恋は人を神にするとは、マグルの世界の詩人の言葉だった。
今、ジェームズ・ポッターに恋された私は、奴の神、と言うことか……。

そう考えたら、なんだか急に余裕が出てきた。
少なくとも三ヶ月は絶対の優位に私はいる、

「私と友達になりたければ、『親衛隊』の審査がいる」
「前から思ってたんだけど、君は自分の付き合う人間を他人に選ばれて平気?」

それって監視されてることにはならないの?

「それに俺は君の取り巻きになりたいんじゃない。とりあえず友達に、そして最終的に容認できるようなら恋人付き合いがしたんだ」
「三ヶ月だけ、だな」
言ったらポッターは目を見開いた。
「とりあえず三ヶ月、君が気に入ってくれたら順次また三ヶ月ずつ延長」
うなずきながら、指を三本立てるポッター。一生懸命なポッターをはじめてかわいらしいと思った。

私だったら、こんな提案は出来ない。
とりあえず友達づきあいをして欲しいなど、プライドを捨てたようなことを……。

それほどまでしてこやつは私の傍にいたいのか……。

気の毒なポッター。
敵対する寮の私に恋したばかりに、私の前にひざまずくことになるとは……。


「私がお前を気に入らなかったら?」
「……その時は……きっぱりあきらめる」
「あきらめ切れるのか?」
「ダメだったらスネイプ、俺に薬を作ってよ」

一口で愛しい想いも、憎しみも、何もかも全部忘れられるような薬を……。
「毒をもるかもしれないぞ」
「ああ、いっそその方がいい。苦しまないで逝けるやつにして」

言い切ったポッターの潔さに私は奴の計画に乗ることにした。

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