入学した時からルーピンは変わっていた。
“ルーピン家”は数ある魔法家でも有名な“純血”の一門。
まだ一人も“スクイブ”を出していないことで有名な旧家だ。
それが急速に勢いを無くし没落していったのは“リーマス・J・ルーピン”その人が生まれたときだと言う。
「疫病神体質っていわれたこともあるよ」
笑いながらいう彼は、十分過ぎるほど打ちのめされた人間だけががもつ、悟りきった強さと明るさがあった。
ルーピンは月に一度いなくなる。
「母の体の具合が悪くて」
自分も倒れそうなほど青白い顔をし彼はいう。
ジェームスもシリウスもその言葉がいい加減“うそ”だと気付いていた。一人、ピーターだけはルーピンの母親の様態を気付かう言葉を口にしながら、カレンダーをちらりと見やる。
18日―ルーピンに手伝ってもらう約束の“闇の魔法に対する防衛術”レポートの提出期限―に目を止めて早く帰って来てねと無言の訴えをする。
「ルーピンはどこに行くんだろうな」
ジェームスは周りに聞かせるようにつぶやく。
「病院かルーピンの家、どっちだろうね?」
ピーターは小首を傾げ言い、シリウスは頬杖を付いたまま視線をこちらへ向ける。
黒いひとみが不思議そうに捉えたのはジェームスの膝の上の教科書だった。
「あ、ジェームス、レポートやるの?」
目ざとく見つけピーターが寄ってくる。
「やらない」
短く答えジェームスは“闇の魔法に対する防衛術”の教科書を閉じ、ソファから立ち上がる。
「今日はもう寝る。あ、そうだ、これ返す。ありがとうシリウス」
「え?」
「“闇魔防”の教科書…俺の、行方不明で……黙って借りてた」
じゃあ、おやすみと談話室を後にする。
「?ジェームスが黙って人のもの“借りてた”なんて言うのはじめてだね」
「……」
おり癖のついたページは教科書の最後のほう。
項目は“人狼”。
「……」
頭の中でぱちりとピースがはまった。
三日ほどして戻ってきたルーピンに、シリウスは言った。
「何があっても、どんなことがあっても、俺たちは友達だ」
「……急に、どうしたの?」
戸惑いつつも警戒の色をひとみに乗せルーピンはあとずさった。
「今日のシリウスは怖いよ?」
そんな顔をされるのは心外だった。
友達だと、親友だと思っているのにっ。
自分はこんなにも心配しているのになぜ隠そうとする?
問い詰めてはかせるのは簡単だ。
でもそれじゃ意味がない。
自分はジェームスのように、“話してくれるまで待つ”なんてできない。(話したいと思うようにしむけるなんてできない。)卑怯だと思う。でも、ルーピンが何も話してくれないならしかたない。
マダム・ポンフリーに連れられて、ルーピンは中庭を歩いていく。
何故校医と一緒なのか、不思議に思ったが、その後をつけた……。
そして月に一度彼がどこへ行くのか……その謎は間もなく解けた。
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