◎ 恋と花 ◎(セブルス一人語り的)
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スネちゃまは告白をした。
いとしい人に恋を告げた。

本当は、いつも彼がしてくれることに感謝していると、その気持ちを伝えるだけのつもりだった。だが、どういう風に言おうか考えているうちに、自分はジムのことがすごく好きなのだと気がついた。

どこにいても、何をしていても彼のことを考えていた。

ジム。
グリフィンドール寮生。
彼は体が透明になる奇病に冒されていて、ホグワーツ魔法魔術学校にきちんと在籍しているにも関わらず殆どの生徒にその存在を知られていない。

気の毒にと思った。
力になれることは何でもすると、言ったら、ジムは照れくさそうに笑って言った。

『じゃあ、ともだちになってください』

体が透明になるこの病は、どこが痛い、ここが苦しいということはないそうだ。
ただ、急に姿が見えなくなるので、友達ができにくいと言う。

それはそうだ。

急に姿がなくなれば、そいつは自分をほっぽっていなくなったと思う。

もし自分がそうされたらそんな失礼な奴とは絶対口は利かない。

自分と『友達』になるためには審査がある、といったらジムはひどく不思議そうな顔をした。内容を話したらますます怪訝な顔になった。
『あなたと友達になるのに、どうして他人の審査がいるんですか?』

自分と友達になるには、『親衛隊』の面接がいる。

こんなことを言うのは卑怯かも知れないが、彼らは勝手に集まってきた。
学年関係なく『セブ様命!』と標語する(気恥ずかしい)、左の鎖骨の下に『セブルス・スネイプ』のイニシャル『SS』を刺青してしまうほど、ホグワーツ闇の貴公子たるこの自分を熱愛してくれている。だが、友好を示して近づいてくる者を『馴れ馴れしい』という理由でリンチに掛けてしまう困った奴らだ。
普段は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
その中に、自分によからぬ欲望を感じる輩を排除するというものも含まれていた。
時々鬱陶しいと感じなくもないが、それは彼らが私を愛している証なのだ!

人気者のつらいところだ。

愛されているのだから……仕方がないことなのかもしれない。

何とかなるなら何とかしたいが、今のところは如何ともしがたいのが現状だった。

最初の審査で、その人間が自分にどの種類の感情をもって近づいてくるかを彼らは探る。憧れや尊敬、羨望といったものなら問題なしとされ、取り巻き列の一番外側に加わることが許可される。

城と一緒だ。
名門貴族の家系にうまれた自分は、子供の頃から城主様のご子息様だった。
下々の者とみだりに口を利いてはいけない。そういうのがこの学校内でも続いているだけのこと。

ジムは言った。
『僕はあなたと普通の友達になりたいだけで、取り巻きに加わりたいんじゃない』

普通の友達というものに、興味があった。

『友達になる』。私はいいが、ジムの身が危険にさらされる。それは気の毒と言うものだ。

だから、なるべく人目をさけることにした。

ジムとは、親衛隊の目をのがれ、いろいろな話をした。
口さがない言い争いをした。
ジムは口で言わなきゃ分からないから思う存分罵り合う、議論すべきだと主張した。

思い込みで人の気持ちを見ていたことを、よかれと思ってしてやったことが、ただの御節介だったことや平等にしたことで却って不公平を生むこともあると指摘された。

ああ、彼は私と違う。
当たり前だが私とは違う人間。
その違いを腹立たしくもあり、面白くも感じたのははじめてだった。

話は時に私を探す親衛隊の出現で打ち切られる。
ジムをリンチにかけるわけにはいかない。
図書室の棚の隙間、食堂のテーブルクロスの下、カーテンの襞の向こう、いろいろ隠れた。
落ち着かないから、二人だけの秘密の場所を探しましょうと誘われ、ふたりで校内を歩き回った。

誰に気兼ねすることなく思う様にふるまえるその快感をジムは教えてくれた。
時に話し込み、寮の門限に間に合わず締め出しを食ったジムをこっそり泊めてやったことも、一度や二度ではなかった。

外にも遊びにいった。
気に食わない奴も一緒だったが、話をしてみるとそんなにいやな奴でもなかった。
初めてお茶にさそってみた。
彼らはきてくれた。
肩の力が抜ける関係。ジムは私にそれを教えてくれた。
ジムに会わなかったら、きっと世界は私にとって面白みの少ないただ義務をはたすだけの場所だった。

城主のご子息は、ピクニックに行くとき、荷物をかかえ友達と歩くものではない。
城主のご子息は、軽口を叩くものではない。
城主のご子息は、城主のご子息は、城主のご子息は……。

人はいろんな思い込みで縛られているのを痛感した。

私はジムに、私とは違うジムに惹かれていた。
ジムは整った美しい顔をしている。
笑ったときの楽しげな声がすごくいい。
言いにくいことをスパッと言い切り、あとでルーピンに『言い過ぎたろうか』と自信なさそうに尋ねるところがかわいい。
私が自身の過ちに気がつきそれを潔く認めるとジムは、優しい顔で微笑む。
美しいジムの微笑みは私のこころをくすぐる。

どうしたら嫌われないだろう、好かれるにはどうすればいいだろう、ジムはこれが好きか、あれが好きか、ジム、ジム、ジム、そればかり考える。

黙っているのはつらい。


告白の日、薔薇を贈った。
愛する人と眺めるために育てた薔薇。
チョコの花を咲かせる世界にただ一つ私の手元にしかない薔薇だった。

いとしい人と眺めるために特別丹精して育てた薔薇。
近来まれに見る、最高のできだ。
大輪のつぼみは薄いピンク。柔らかな春を感じさせる色だ。
五日もすれば蕾は解け、顎の方から徐々に変化し、見事なチョコの花びらを咲かせるだろう。

その薔薇を、ジムと一緒に見たいと思った。
丹精したそのチョコの味を二人で楽しみたいと思った。

勇気を持って告白した。
気持ちを伝えることがこんなにも緊張するものだと、はじめて知った。

ジムは言った。
薔薇を受け取る前にもう一度自分を見て欲しいと。
そして、ジムは自分の名前がジェームズ・ポッターだと、不治の病を告知する医者そのものの重々しさで言った。

同姓同名。似ているだけ。
そうとしか思えなかった。
あんなに優しい顔のジムと面相に邪悪がにじみ出ているポッターが同一人物のはずがない。

思えばジムは、かたくなに自分のフルネームを言わなかった。尋ねればはぐらかし、問い詰めれば悲しそうな顔をした。

占いに使うだけ、呪ったりしないから、教えてくれれば何でもいうことを聞くと宥めすかしてもダメだった。

理由が、私が毛嫌いするあの男と同じ名前だから、と言うのならば行動の説明がつく。

だから言った。
名前が同じくらいで、ジムを嫌いになったりはしないと。

ジムは悲しみを瞳にたたえ、唇を震わせ、痛みをこらえるように、ごくんとつばを飲み込んだ。

花が咲いたら知らせるから、それまでは会いたくない。

つきつけるように言われ去られた。

一連の行動はジムが悪魔のようなジェームズ・ポッターだと肯定しているように思えた。

ジェームズ・ポッターはホグワーツ魔法魔術学校始まって以来の天才の誉れ高いグリフィンドール寮生。
一年生でクィディッチのレギュラーに選ばれた非凡の才の持ち主。
先生方の信頼も厚く、同時に茶目っ気たっぷりのいたずら大王。(とよばれているらしいが……)自分に言わせれば奴は猫かぶりの腹黒魔王だ。

何故、皆がポッターを慕い取り巻くのか、奴のあの顔に浮かんだ邪悪な気配、あの面相に何故気がつかないのか、わからない。

姿はいいのだろう。

長身で、痩身で、眼鏡を取った顔がなんたらの役者に似ていたから『隠し子』のうわさが出たくらいだから十人並み以上だろうと思われる。
喧嘩っ早いシリウス・ブラックと、花のように可憐なリーマス・J・ルーピンともども、ホグワーツ史上最も麗しい人に数え上げられている。

あの邪悪な気配に気がつかなければ、もしかしたら自分も興味を持っていたかもしれない。

だが私は騙されなかった。
ただならぬ気配に気がつき、奴の毒牙からうまく回避できている。

ジムは自分をジェームズ・ポッターと言ったが、あの悪魔のような男ジェームズ・ポッターと、ジムが同一人物のはずはない。

ジムは本当にやさしい顔をしていた。
やさしい顔立ちと、内面を現すような穏やかな目の輝き。

ジムの顔にはポッターにみられるような邪悪の欠片さえみえない。

断りにくいから……自分はポッターだなどと言ったのだろうか……。

ジムの性格からしてそんな陳腐なうそをつくはずはなかった。
ジムはだめならだめと、いやならいやと言える。

こと恋愛に関しては、その気がないなら完膚なきまでにすっぱり切ってやるのがその人に対する思いやりというものだ。

ジムからそう教えられた。

実際、自分に言い寄る輩には『その気はない!』と意思表示することで、適度に距離を保ったいい関係が築けつつある。

本当に、何時までも望みを持たせるのは、酷というものだ。

今回のジムとのことで身にしみた。

返事を保留にされたことで、あれこれ考えてしまう。
自分のどこがいけなかったのか、色よい返事を貰うにはどうしたらいいのか、また、彼の言葉が気になる。

ジムは自分の贈った薔薇が欲しいと言った。

それは、彼も私のことが好き、ということだろう。
でも『好きだけど』『受け取るには』『自分』が『ジム』を『誰』だか『理解る』必要がある。


「……」

どういうことだろう。

考えた。
もう一度整理して考えた。

ジムはジェームズ・ポッターと名乗った。
ジムの言葉を信じるなら、ジムがあの悪魔のようなジェームズ・ポッターだとしたら?

そう、仮定して考えれば、いろいろ見えてくることがあった。

ジムと自分とリーマス・J・ルーピンとブラックの四人でホグズミートの移動サーカスに行ったこと。
ジムがポッターでなく、普通の友達ならブラックはあの場にいたろうか?
奴の恋人、リーマス・J・ルーピンがいたとしても、たとえ前半だけだとしても、嫌い合っている私も交え一緒に遊びに行ったりしたろうか?
ジムがポッターだったから、ブラックはしぶしぶでもその場にいたのではないだろうか?
実際、奴と話す機会がふえ、お互いの蟠りが解けつつある現在の状況がうまれたのは、このときからだ。
まだある。
お茶に誘って話し込み、寮に帰りそびれたジムを泊めてやり、翌日の授業で、ポッターの髪から自分と同じ匂いが漂ったこともあった。

ジムがポッターだったら、それもありえる。

自分は持ち物すべてに薔薇の匂いをつけている。
それは自分が生まれた日に父が作ってくれた世界にただひとつの香り。
『セブ』という名の香煙の香りだった。

もし、ジムがポッターだったら、もしポッターがジムだったら。

考えれば、つじつまのあう出来事がぽろぽろと出てくる。

でも、なぜ、ポッターがジムだとしたら、何故私に近づいた?
なぜ私の薔薇が欲しいといった?
目当てはなんだ、狙いは……魂胆は……。

本当に、ジムはポッターなのだろうか……。

グリフィンドールとの合同授業。
グリフィンドール・クィディッチ・チームの練習、穴の空くほどポッターをみた。
身長、仕草、身のこなし、そして声までも、なんということだ、ポッターはジム、そのものではないか……。

眩暈がした。
今までの楽しい時間、あれは、あれは一体なんだったんだ……。

なぜポッターは、私に近づいた?
なぜ私の薔薇が欲しいといった?
目当てはなんだ、狙いは……魂胆は……?


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