◎ 恋と花 ◎(ジェームズ一人語り的)
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決死の覚悟で言ったのに、スネイプは微笑み言い放った。

「ああ、ジム、いやジェームズ。あの悪魔のような男と同じ名前だからと言って私はおまえを嫌いになったりはしない」

ひどく優しい笑顔だった。

微塵も自分の考えを疑っていない。
自信に溢れる強い目の輝き。
そのなかには恋する人が持つ盲目的な信頼がみてとれた。

愛を告げられたのに、切りつけられた気がした。

彼が悪いんじゃないと分かっているだけに、よけにやりきれなかった。

スネイプは、眼鏡をはずした自分がジェームズ・ポッターだと分からないだけ、なんだ。

「……」

頭の中をよぎるのは、日常の自分と彼。

自分、ジェームズ・ポッターはセブルス・スネイプに昆虫のように毛嫌いされ、挨拶しても口さえ利いてさえもらえない。

さりとて完全無視されているわけではない。

ただ、完全敵視されていた。

『ポッター』を見つけたスネイプはまず、最初に眉間に深く皺を刻む。
切れ長の目を座らせて、信じられないものを見たように、刺すようにこちらを睨みつける。

肩についたゴミを取ってやろうと指を近づけただけでものすごい剣幕ではじかれる。

私に一体何をした、何の呪いをかけようとした?と詰問され、「誤解だ」「ごまかすな」の押し問答を繰り返したことは数知れない。
あんまり理不尽なその決め付けに、ぶち切れそうになったことも数限りなくある。

実際自分は、ぶちきれたんだろう。
直球勝負でだめなら、変化球を駆使してやる。

とにかく、理由も分からず嫌われてるのが解せなかった。

考え方が違うから、気が合わない、だから嫌い?

自分と違うものが「いや」だから、スネイプは自分を嫌うのかと思った。

『違いを楽しむこと』を好まない人もいる。

それならそれで仕方がない。
でもあの目つき、あの、信じられないおぞましいものを見たようなあの冷たい視線、そのわけがどうしても知りたかった。

それを知るために自分は「ジム」になった。

眼鏡を外して、馴れ馴れしいのを嫌うスネイプにわざわざ馴れ馴れしくし、いぶかしむ彼に「体が透明になる奇病にかかっているから殆どの同級生は自分をしらない」と作り話をした。

スネイプは信じた。

微塵も疑うことなく、気の毒にと、涙ぐみさえした。

元気をだせ、力になれることがあったら何でも協力する。

ジェームズ・ポッターとして彼の前に現れた時とは対応に雲泥の差があった。

まず、睨まれない。
向こうから声をかけてきてくれる。
笑いかけてもくれるし、とっておきのお茶を、彼お気に入りのルーピンよりも先にご馳走してくれる。
休日には、取り巻きをぶっちぎり一人になった彼と、食事の時間、寮の門限を忘れて話し合った。
いろんな話をした。
楽しくて、つい話し込んで寮に戻れなくなった自分を、こっそり泊めてくれもした。

スネイプは平等、公平に呆れるほどこだわる奴だ。
ホグワーツ闇の貴公子の彼には、『セブ様命!』と公言してはばからない過激派が幾人もついている。セブルス親衛隊と自称する彼らから、彼のイニシャル『S・S』を刺青され見せられたときは、どう振舞ったらいいのか分からなかったと、スネイプは心底弱った風に言った。
特定の誰かと仲良くしては、そいつが親衛隊からリンチにあうからと、常に細心の注意をはらって行動している。
すべてにおいて平等に、公平にと、言い聞かせながら綱渡りの心境でいると、彼は言った。

そんな彼は何度も何度もとりまきを巻いて、時にはうそもついて会いに来てくれた。
(うその大半が、あの悪魔のようなポッターと決着をつけてくるというもの)

スネイプが安心して本音を、『ポッターを嫌っている理由を』漏らせるように、人の目を避けられる場所を求め、学校中を彷徨った。
目星をつけた場所に突然親衛隊が現れたることもあった。
その目を避けるため、時には図書館の本棚の隙間に、食堂のテーブルの下に、カーテンの襞の向こうに隠れた。

まるで探検をしているようだと、心底楽しそうにスネイプは笑いをもらした。
いつも取り巻きにかこまれ、身動きの取れないスネイプ。
なるべく外に連れて行こうと、思った。

二人だけの場所が増えるのとスネイプの表情が穏やかになり、構えたところが少なくなっていったのは比例していた。

『ポッターを嫌っている理由』なんか、どうでも良くなっていた。

ルーピンとシリウスと自分そしてスネイプで一緒にホグズミートの移動サーカスを見に行った。

花が咲いたら愛する人と眺めるつもりだという、大事にしている薔薇のつぼみも見せてもらった。

割と早いうちから「人前では困るが、セブルスと呼んでもいい」と言われていた。それがいつの間にか「セブと呼んでくれ」になっていたのは、自分が薔薇の花を見せて貰ってからだ。

なんであの時気がつかなかったんだろう。
ジムにあうのが何より楽しみだとまでいわれていたのに。

好意を示されていたのに。

考えれば、自分とスネイプ……セブがたどったのは、清く正しいグループ交際と言ってもいいかもしれない。

合同授業のとき、スネイプは顔を上げて教室中を見回す。
ジムの気配を探している。
体が透明になって消えているから、授業にでてもだれも気がつかないという嘘を本気にし、かけらでもジムを感じようとしている。

ジムに絶対の信頼と情をよせてくるスネイプ。

あの笑顔、張り詰めたもののない雰囲気、あれは、あの表情を自分はよく見知っていた。

ルーピンを見つめるシリウスの顔と一緒だ。

セブはジムに恋してる。
ジムの自分は……やっぱりセブをかわいいと思う。
姿かたちよりも、あの性格。
自分の信念を決して曲げない頑固さと、いいように人に振り回されているのを、わかっているはずなのに、それでも付き合ってやる寛大(?)さ、……シリウスといい、スネイプといい、頭はいいくせに大事なところでツメが甘い……。

頑固で、融通が利かなくて、抜けていて、素直で、律儀で、純粋……。

そういうところが、たまらなくいとおしい。 

結論から言えば両想いだった。
それならば、自分はセブに言わなければならない。

自分はセブが毛嫌いしているジェームズ・ポッター本人だと。

でも、本当のことを言ったら……どうなるだろう?

彼のことだ、激怒して『おのれポッター!』と叫び、二度と口を利いてくれないかもしれない。

でも、自分は言わなくちゃいけない。
セブが好きなジムはジェームズ・ポッターだと。そしてその上で、薔薇をくれるのか、もう一度尋ねる……。

いっそ、セブの大好きなジムのままでいられたらと思う。
彼の勘違いをそのまま放っておいて、セブの気持ちをあの柔らかい視線を自分にだけ向けさせたい。

でも、できない。それは、しちゃいけないことだ。

本当のことを言うのはとても怖いことだけど、本当にセブが好きなら言わなくちゃいけない。

好きな人に隠し事をされるのは、つらいことだ。
セブの信頼を受けるなら、こたえるつもりなら、セブを信頼して言うべきだ。

正体を隠したままセブと花を眺めるなんて、フェアーじゃない。


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