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この微妙な三角形のバランスを取っているのが俺だと気づいた時、言いようのない酩酊を感じた。

女たらし、オヤジたらしと評判の高いロイ・マスタングが、鋼の錬金術師エドワード・エルリックに恋をしているのは一部では公然のこと。
でもエドワードはロイが大嫌い。
それは、ロイの特殊な愛情表現のせい。
ロイは好きすぎると相手を見つめすぎ、終いには睨みつける。
それはもう、殺されるんじゃないかと思うくらいの激しいきつい視線で、最初に自分もその目に見つめられたときは、一体自分は何をしたんだろうと首をひねったもんだ。

ロイはエドが好き、でも、エドが好きなのは俺だ。
エドワードは俺、マース・ヒューズの中に、顔も忘れた父親を見ている。
妻を愛し、親ばかなくらい子供を溺愛する俺に。
エドワードは幼い頃得られなかった理想の男性像を俺の中に見ている。
でも、それは恋じゃない。
でも、エドは自分の中の父親への思慕を認めない。
エドとアルの父親、ホーエンハイムは自分たちを省みず、さらに最愛の母を悲しませた極悪人、卑怯者……。
そんな卑怯者から愛情を受けたいと無意識にでも考えるのは我慢がならないらしい。

父への思慕をやつの考える理想の父親である俺への恋心に置き換え恋したと錯覚している。

そして、俺はロイが好きだ。
妻と娘と同じくらい大切で、それとは別格に奴に恋している。
要するに、グレイシアとエリシアは家族として愛している。
ロイは、ロイには、ロイの中の弱さもろさ、強がりにたまらない保護欲をかき立てられる。
ロイが息子だったら間違いなく毎日一緒に風呂に入って男ってのはな〜なんてセッキョーブチかまして多分うざがられるだろう。
ロイは強い。十分強い。
でも奴はもろい。孤独を感じて一人でいられる時間は驚くほど短い。
ロイは一人では生きてゆけない。そして本人もそれを十分自覚している。
自分の味方で周りをかため奴は日々を目的に向かって進んでいる。

ロイには奴の強さともろさに惹かれるいろんな人間が入れ替わりたちかわりやってくるが、ロイはエド一筋だ。
奴は何でも俺に相談する。

付け入る隙がないように見えたロイだが、エドのことで奴には隙が出来た。

もし俺がエドにロイの気持に応えるようお願いすれば、エドはためらいながらも間違いなくロイのものになったろう。
もし俺が、ロイからエドの気持に応えるようお願いされれば、俺はためらいなくエドを抱くだろう。
その後でしっかり俺の気持にも応えて貰うよう条件をつけた上で。
もしエドがロイに俺の気持に応えるようお願いすれば、ロイは、どうするだろう……噂ほど乱れていないロイは案外潔癖症で遊びの恋愛が出来ない。断るだろう。

この微妙な三角関係のバランスを握っているのは間違いなく俺だった。
それぞれが、それぞれに強かったり弱かったりはするが……。


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