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食事の席だというのに、シリウスは眉間に皺をよせ、むっつり黙り込んでいる。

こういうときのシリウスは凶悪だ。

下手に関わるといろいろ大変な目に合わされる。
暴力的とか、命の危険があるとか、そういったバイオレンスでデンジャラスな類のものではもちろんないが忍耐力を試す試練が課せられるだろう。

ジェームズはスープの最後の一匙を口にしつつ思った。

どんな厄介ごとを抱えているか興味はあるが、平たく言うとこういう時のシリウスには出来れば近寄りたくない。
左隣でひとり不機嫌にサラダを噛むシリウスから視線を右に移すと、肩で息をしたピーターが必死にルーピンの陰に隠れているところだった。
おびえているピーター。
彼は人の不機嫌、大きな声がとても苦手だ。不必要にいつもびくびくしてしまう。
ルーピンはルーピンで、口元についたタルタルソースを拭いながら、何か合点のいった視線をシリウスに向けている。

でも声はかけない。

ルーピンは知っている。
その人間が今話しかけても大丈夫かそうでないか。
ダメなら絶対に話しかけない。もしそういうヤバイ心理状態の奴と二人っきりで晩餐のテーブルを囲むことになっても、ルーピンならば巧くやれる。

ルーピンは本当に聡いとジェームズは思う。
状況を見る目が抜群に優れている。
そんな彼はさっきからじっとこちらを見つめ、瞳で訴えてくる。

この状況は君にしか解決できない。
ゴメン。
厄介事を背負わせるけど、たすけて。

「……」
ジェームズは頭をかく。

こんな風に人の考えていることが解るのも考えものだ。
自分は人よりそういうことに多少敏感なおかげで誰よりも早く面白いものに気づけるが、それは同時に誰よりも早く厄介の芽に気づくと言うことでもある。

ピーターが必要以上にびくびくするからその場の雰囲気もなんとなく重苦しくなってきた。
気の弱い者の中には、デザートのかぼちゃムースプディングをあきらめ早々席を立つ寮生もいる。上級生はシリウスと自分を交互に見ながら何か言いたそうな顔をする。気づかない振りをして自分はかぼちゃムースをたいらげ、ルーピンがくれた薔薇のシフォンケーキカラメルソース和えをぱくつく。
おびえるピーターの気を逸らせるため、ジェームズは今日出た宿題を思い出させてやる。

ピーターは真っ青な顔をして『どうしようルーピン』と彼に助けを求める。

ピーターは、要領は悪いが頭は悪くない。なのに自分では落ちこぼれだと思い込んでいる。自分の短所とまわりの長所を比べいつも自分にダメだしをしている。何にも自信が持てなくておどおどびくびくしている。

もっとも、比べる対象が悪すぎる。

ピーターが比較するのはたいてい、眼鏡に隠れているけれど実は美少女顔で気立てもよくて面倒見もいい、才色兼備で可憐を絵に描いたようなルーピンだったり、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能+異性にも同性にも好感度の高いシリウスだ―。

と。

ジェームズは自分もシリウスと同じくらい絶大な尊敬と羨望を向けられていることを棚上げして思った。

ジェームズは眼鏡を取った顔がとある超美形演技派俳優によく似ていることから『隠し子』の噂が飛んだ。
ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック、リーマス・J・ルーピンそしてセブルス・スネイプの四人はホグワーツ魔法魔術学校で一、二をあらそう麗人で通っていた。

シリウスは薔薇のシフォンケーキをフォークでぐさぐさ突っついている。
考え事をしている時、形あるものを破壊するのは奴の癖だ。
そんな様子を目撃してますますピーターは縮こまる。
宿題を手伝うと言うルーピンのローブを震える手で掴み、横目でシリウスを見ながらありがとうとピーターは言う。表情が不自然に強張り変な汗を掻いている。ルーピンはにこやかな顔をしているが身動きがとれずうっとうしそうだ。
「……」
こんな状態がもう一週間続いている。

どんなに深刻な悩みを抱えていようと、さすがにいい加減にしてもらってもいい頃だ。


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