◎ PAPA ◎

ぽたTOPへ

困ったことが起きた。
ジェームズ・ポッターは頭を抱えたい気分だった。


父危篤の知らせをうけ慌てて帰ってみれば、彼は天蓋つきベットの中で生気のない顔をし横たわっていた。枕元には憔悴しきった母が弱々しく座っていた。

もしかして、死にそうなほど悪いのか?

少し前から、風邪を引いて寒い寒いと言っていたようだが、そんなに重病とは知らなかった。

父は、純血の家系に生まれたスクイブ、魔法を使えない魔法族の一人だった。
でも世間では魔法使いで通っていた。
くしゃくしゃの黒髪がトレードマークのポッターの家系には珍しくキューティクル艶々でコシのある真っ直ぐな髪をしていた父。
どうやらこれが魔法力の象徴らしいと、子供のころよく髪をいじられた。
魔法が使えない彼はそれでも魔法使いの友達がたくさんいた。
父を良く思わない連中は、父のうそを暴こうと魔法勝負を持ちかけることがあった。
友達たちは巧く立ち回り父がスクイブだと気づかせなかった。
あるときは決闘沙汰にまでなりながら、父の代わりに勝負を買って出、勝利し「ポッターに挑戦するなら俺たち全員と勝負してからにろ」と啖呵をきった。
父の友達たちをみて、友に対する振舞い方を学んだ。
友人たちは父が好きだった。父も友人たちを好きだった。
魔法は使えないけれど人を魅了することにかけては優れた魔法使いの父。
自分の才能を武器に友と妻と財産と息子を得た父。
彼は近日中に超えたい壁だ。
「……」
それが、今……いなくなろうとしている。
ベッドに向かい一歩足を踏み出して絨毯につまずいた。
床に手足をついたまま、起き上がれなかった。
やっと立ち上がると廊下を走るけたたましい足音。
「ポッター ― 」
黒髪の紳士が一人、煙の上がっている丸底フラスコを片手に飛び込んできた。
「ポッター!!生きてるかポッター!!」
「……」
ポッター、ポッターと連呼しながら、紳士はベッドに歩み寄ろうとして後ろに引っ張られた。
「うう」
開いたドアに凭れ掛かり父の親友が乱入紳士を睨みつけながら『前進停止』の呪文を唱えていた。
背後に見える廊下ではほかの父の友人たち−各界で活躍中の優秀な魔法使いたちが倒れていた。
紳士が、やった、らしい。
「何をする〜〜」
「いかせるか!!」
飛び込んできた紳士を行かせまいとする魔法使い。
「あら、まあ、まあ」
急なことでかたまっていた母が立ち上がる。
「じゃまするな、私は助けにきたんだ」
「うそをつくな」
引っ張り合いをしながら二人は怒鳴り合いを始めた。
「うそじゃない!この新開発の薬を飲めばポッターの病はたちどころに〜〜〜」
「お前の新開発は当てにならない!助けるつもりで止めを刺したらどうするつもりだ」
「……あの、病人がいるので外でお願いできますか……」
「おお、きみは……」
「……息子です」
「早くこの薬をポッターに!」
「ジェームズそんなもの受け取るな、いや、受け取って窓から捨ててしまえ」
「あのう……お二人とも」
母の、戸惑いを隠しきれない声に振り向くとうっすら目を開けた父が母に何か囁いているところだった。
「夫は、薬が飲みたいと……申しております……」

母の一言で薬は父の元へ。
失敗した笑い薬のような色のそれを、父はむせながら飲んだ。

「ポッターが死んだら、お前も殺す」
「ポッターは死なない、必ず良くなる」
二人は険悪なムードを漂わせながら父を挟んで右と左。母親側と息子側に別れ一晩中傍にいた。

日が改まり父は何事もなかったように起き上がった。
親友は珍しいこともあるもんだ、だがよかったと微笑み、乱入紳士は父に抱きつき大声で泣いた。

「あのひとは、お父さんに一目ぼれしたそうよ……」
「ポッターの知恵に一目ぼれしたんです。おくさん」
妙な殺気を漂わせながらお茶を飲む魔法使いたち。
散歩する父と、父にまとわりつく乱入紳士を横目でにらんでいる。

過去に一度、魔法勝負で父の友人全部が負けた。
そのときの相手が乱入紳士だったそうだ。
とうとう父本人が勝負をすることになり、一計を案じた父はカードで勝負しようと持ちかけた。
カードを一枚ずつめくっていく。
数字が見えないようにして、自分が出した数よりも小さな数になるように魔法を掛けるというもの。
勝負は丸一日に及び、父は惜しいところで負けた。
そして素直に自分がスクイブだと話した。
紳士は事実に驚愕し、ついで父の狡猾なまでの大胆さ、張ったりをかます度胸に惚れた……。
勝負はご破算になり、以来、親交が続いているという。

「あんな奴……」
ホグワーツで一緒だったと言う友人は、紳士は薬を作ることと闇魔法に関しては優れた才能があったが、何でも人で試す癖あったため、皆から敬遠されていたと語った。
「ジェームズ……」
呼ばれ振り返ると紳士に腕を組まれた父が弱り顔で立っていた。
「こちらは……セブルスさんだ」
!?
「はじめましてジェームズです」
「こんにちはジェームズ。お父さんに似てとてもハンサムだ」
将来が楽しみだ〜〜と乱入紳士、セブルスは言った。
セブルス……まさか……。
「グリフィンドールだって? 私もそうなんだ」
「……そうなんですか〜〜〜」
「彼は息子さんが一人いてやはりホグワーツだそうだ」
「……もしかして、セブルス・スネイプ君の……」
「父です」
紳士は微笑、爆弾をおとした。
「ジェームズ君は息子と知り合いかな?」
「いえ、知り合いと言うほどでは……」
「実は息子から君の話は聞いているよ……」
もう一つ大きいのを落とされジェームズはなんて答えたらいいか……一瞬分からなくなった。すぐに微笑み返しそうですかとだけ答えた。
でもうなじの毛が逆立つような気持ちの悪い感覚に見舞われていた。
「……」
なんだか禄でもないことになりそうな……予感。

父、セブルス氏、自分の三人でテ−ブルを囲む。
父はさっきからそわそわして、あらぬ方向を見てばかりいる。
紳士はじっとこちらの目を見てそしておもむろに言った。
「ジェームズ君。息子と友達になってもらえないだろうか?」
「え?」

スネイプパパの話によればスネイプは、薬草庭園で有名なスネイプ城の次期城主だそうだ。
先代に望まれて婿養子に入った現城主(彼)は息子を一人もうけたが、教育方針のことで妻ともめ、城内別居が続いているという。
「実は、息子はめったに人を褒めないように教育されてしまってね……自分と同等か上の人には敵意を持つようにもなってる」
「……昔の城主教育はそうだった……」
父が補足をいれる。
「城主は偉い、城主と生まれたものは万能……。時代錯誤もはなはだしい悪しき習慣だよ」
「そう……まったくその通りだ。私はね、ジェームズ君。セブを君のお父さんのように育てたかったんだ……」
「はあ」
「……」
父が助けてくれーという目をする。
母が微笑みながら、父の危篤に駆けつけた友人たちのテーブルをめぐりお茶を振舞うのを見ている。
「名付け親も頼みたかった……」
「名前なんて……」
立ち上がろうとして父はスネイプパパに手をつかまれ、仕方なく席に着いた。
「きみのJRはセブルスの名を継いだんだ。魔法薬の分野で偉大な発明を残せるんじゃないかな」
「いや、いや、いや……」
首を振るが、スネイプパパは、嬉しさを隠しきれないようだ。
ああ、スネイプは、お父さん似だ……。
行動、感情表現の仕方が強引なところなんか…そっくり。
もし、父が、名付け親を頼まれてたら、スネイプはなんて名前になったんだろう……。
「……」
「あの子は、本当は優しい子なんだ。頭だって悪くはない。ただ人に恵まれていない。私は人を見ることを教えてやれなかった……セブには、取り巻きじゃない友達が必要なんだ、君のような、人の心の機微に聡い、心根の真っ直ぐに育った人が必要なんだ……頼むジェームズ君どうか……」

セブルス氏は頼むを連呼しながら帰っていった。

「どうする?」
どうする……っていわれても……。
「親の命の恩人の頼みを無碍にも出来ませんし……」
でもスネイプは……。
スネイプは俺のことを目の敵にしている。
「……もし、お前が引き受けてくれるなら、お前が前から欲しがっていた金の足のついた揺り椅子を進呈するけどな……」
「 ― 買収ですか」
「そうなるな……あの椅子は非常に気に入っているが、引き受けてくれるなら進呈してもいい。正直いうとセブルスに借りを作ったままにしたくないんだ」
「そうなんですか……」
「……彼は仕事は良く出来る。人柄も決して悪くない。でも自分が好きなら相手もそうだと、勘違いするところがある。そうして……ふう……」
父が苦手な、スネイプの父。
「……」
すごく興味が湧いてきた。
「椅子のことなんですがお父さん……すぐふくろう便でホグワーツに送ってくれますか?」
「引き受けてくれるなら今すぐにでもそうしよう……でも、友達になったら大変だぞ。休みの度に遊びに来いと誘われる。スネイプ城の薬草庭園は見事だが、一日中セブルスに纏わりつかれでうんざりする。お茶を濁してどうとも取れる返事をすると、朝の4時に迎えに来られる……断ると、とても悲しそうな顔をされるし……」
「なかなか一筋縄じゃ、いかなさそうですね」
父の苦手なスネイプの父、曲者のセブルス・スネイプ氏。
「僕すごく興味が湧きました……」
「……そうか……?」
「ええ、友達になれるか分からないけど、セブルス氏の頼みを引き受けようと思います」
スネイプパパとスネイプのことを、少し知りたくなってきた。
(FIN)


ぽたTOPへ